シリア北西部:アル=カーイダ主体の反体制派、トルコ軍とシリア軍、シリア民主軍の戦闘が続き住民も犠牲に
シリア北西部に位置するイドリブ県中北部、アレッポ県東部、ハマー県北西部、そしてラタキア県北東部に拡がるいわゆる「解放区」。
シリア政府の支配が及ばない同地は、自由と尊厳の実現をめざす「シリア革命」最後の牙城と喧伝されている。だが、同地は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)がその軍事・治安権限を握っており、トルコの後援を受ける国民解放戦線(Turkish-backed Free Syrian Army)、新興のアル=カーイダ系組織であるフッラース・ディーン機構、中国新疆ウイグル自治区出身者からなるトルキスタン・イスラーム党の温床となっている。また、ロシア(そしてイラン)との合意に基づき、トルコ軍が停戦監視を名目に各所に基地や拠点を設置している。
トルコ軍はまた、この「解放区」の北東に位置するアレッポ県アフリーン市一帯地域を2017年3月以降、占領下に置いている。2017年1月から3月にかけて行われたトルコ軍の侵攻作戦名にちなんで、この地域は「オリーブの枝」地域などと呼ばれて、アレッポ県北東部の「ユーフラテスの盾」地域、ラッカ県北部からハサカ県北部にいたる「平和の泉」地域とともに、トルコ占領地の一角をなし、国民解放戦線の上部組織にあたるシリア国民軍が活動を続けている。
この「解放区」と「オリーブの枝」地域をはじめとするトルコ占領地一帯では、6月6日に、シリア軍とトルコ軍・「決戦」作戦司令室、クルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が主導する民兵組織のシリア民主軍とトルコ軍・シリア民主軍との間で再燃した戦闘が収まる気配もなく続いている。
「決戦」作戦司令室は、シャーム解放機構、国民解放戦線、そして「穏健な反体制派」として知られたイッザ軍などからなる武装連合体。
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英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)、国営のシリア・アラブ通信(SANA)などの発表や報道をもとに、6月13日以降の主な戦闘をまとめると以下の通り。
6月13日
シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるラタキア県クルド山地方のカバーナ村一帯、イドリブマガール・ウルヤー村、ナイラブ村、ザーウィヤ山地方各所を砲撃した。
対する「決戦」作戦司令室は、政府の支配下にあるラタキア県トルコマン山地方のシャムルーラーン村、下シュマイル村、ザイトゥーナ村、カルズ村を砲撃した。
一方、アレッポ県では、トルコ軍が早朝、「オリーブの枝」地域の南に位置し、政府と北・東シリア自治局(PYDが主導する自治政体)の共同統治下にあるタッル・リフアト市に対して無人航空機(ドローン)で爆撃を行った。
トルコ軍はまた、シリア国民軍とともにタッル・リフアト市を砲撃した。
6月14日
「決戦」作戦司令室が政府の支配下にあるラタキア県サルマー町各所、イドリブ県サラーキブ市などM5高速道路沿線一帯各所、ハマー県ガーブ平原のジューリーン村基地を砲撃した。
これに対して、シリア軍も、「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山地方のマルイヤーン村、シャンナーン村、バーラ村、ファッティーラ村、スフーフン村、フライフィル村、バイニーン村、カンスフラ村、ナージヤ村、ハマー県クライディーン村を砲撃し、マルイヤーン村では一家3人(女性1人、子供2人)が負傷した。
6月15日
シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山地方のバーラ村、フライフィル村、マアッルザーフ町、カンスフラ村、ファッティーラ村、ハマー県ガーブ平原のアンカーウィー村を砲撃し、マアッルザーフ町で住居に砲弾が直撃し、1人が死亡、複数が負傷した。
6月16日
シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山地方のサルジャ村近郊(タルアーン村)に設置されているトルコ軍の拠点一帯を砲撃した。
これに対して、トルコ軍は政府の支配下にあるカフルナブル市などを砲撃し、応戦した。
シリア軍はまた、ザーウィヤ山地方のバーラ村、フライフィル村、アイン・ラールーズ村、ファッティーラ村、バイニーン村、スフーフン村、ハマー県ガーブ平原のアンカーウィー村、ズィヤーラ町、アレッポ県マアッラト・ハルマ村を砲撃した。
一方、ハサカ県では、シリア国民軍に所属するハムザート師団が、「平和の泉」地域に隣接する政府と北・東シリア自治局の共同統治下のアリーシャ村に近い農地に略奪のために潜入しようとしたが、シリア民主軍の返り討ちに遭い、戦闘員1人が死亡、4人が負傷した。
6月17日
「決戦」作戦司令室が政府の支配下にあるイドリブ県ダール・カビーラ村一帯を砲撃し、シリア軍兵士2人が死亡した。
これに対して、シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山地方のイフスィム村、バーラ村、イブリーン村、バルシューン村、ジューズィフ村、アブディーター村、アルナバ村、ファッティーラ村、フライフィル村、バイニーン村、スフーフン村、ハマー県ガーブ平原ジューリーン村一帯、ズィヤーディーヤ村を砲撃、アブディーター村ではシャーム解放機構の戦闘員2人が死亡した。
シリア軍と「決戦」作戦司令室はまた、ザーウィヤ山地方のルワイハ村一帯、フライフィル村一帯で交戦した。
6月18日
シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県アリーハー村近郊のバザーブール村、ザーウィヤ山地方各所、ハマー県ズィヤーラ町、ザイズーン村、アンカーウィー村、ラタキア県トルコマン山地方、クルド山地方のトゥッファーヒーヤ村一帯を砲撃し、バザーブール村では女性1人と子供1人を含む6人が負傷した。
これに対して、「決戦」作戦司令室は政府の支配下にあるハマー県ガーブ平原のジューリーン村に近いフールー村、バフサ村を砲撃した。
6月19日
シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるハマー県ガーブ平原のサルマーニーヤ村、カルクール村、カストゥーン村、イドリブ県ザーウィヤ山地方各所を砲撃、カストゥーン村では、「決戦」作戦司令室と行動を共にするホワイト・ヘルメットのセンターが標的となり、隊員1人が死亡、3人が負傷した。
一方、トルコ軍は、政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアレッポ県タッル・リフアト市、同市近郊のマルアナーズ村を砲撃した。
6月20日
「決戦」作戦司令室が政府の支配下にあるハマー県ジューリーン村、イドリブ県タッルマンス村を砲撃し、ジューリーン村で女児1人が死亡、父親が負傷した。
また、トルコ軍が「決戦」作戦司令室のジューリーン村砲撃に合わせて、イドリブ県南部一帯を砲撃した。
さらに、新興のアル=カーイダ系組織の一つアンサール・イスラームもジューリーン村一帯を砲撃した。
これに対して、シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるハマー県ガーブ平原のヒルバト・ナークース村、アンカーウィー村一帯、イドリブ県ザーウィヤ山のバーラ村、フライフィル村、バイニーン村、ファッティーラ村一帯、M4高速道路沿線のアリーハー村一帯を砲撃、フライフィル村で戦闘員1人が死亡、2人が負傷した。
一方、トルコ軍とシリア国民軍は、政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアレッポ県タッル・リフアト市を砲撃した。
6月21日
シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山地方のイフスィム村、バーラ村、マシューン村、バイニーン村、フライフィル村、ファッティーラ村、カンスフラ村、スフーフン村、マウザラ村、カフル・ウワイド村など、ハマー県ガーブ平原各所、アレッポ県カフルタアール村一帯を砲撃した。
この砲撃で、イフスィム村にある「決戦」作戦司令室の分隊拠点が被弾し、シャーム解放機構のメンバー1人、シリア国民戦線の戦闘員3人(うち司令官1人)、警察官(いわゆる自由警察、1人)、民間人2人が死亡した。また、バーラ村では女性2人が、カフルタアール村で「決戦」作戦司令室所属のウマル・ブン・ハッターブ旅団の戦闘員1人が死亡した。
これに対して、「決戦」作戦司令室もイドリブ県内の政府支配地域各所、アレッポ県ミーズナーズ村、カフル・ハラブ村一帯に対して砲撃、トルコ軍もカフルナブル市一帯を砲撃した。
一方、トルコ軍とシリア国民軍は、政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるラッカ県アイン・イーサー市近郊のクール・ハサン村、マブルージャ村、カズアリー村および同村の穀物サイロ、ヒルバト・バカル村、アリーダ村、ズィヌービヤー村、サワーン村、ラクラクー村、ビール・ザンナール村、スライブ村を砲撃した。
この砲撃により、サウワーン村でシリア軍兵士1人が負傷した。
6月22日
シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山地方のマンタフ村、アリーハー村、フライフィル村、バーラ村、イフスィム村、カンスフラ村一帯、バイニーン村、ハマー県ガーブ平原のヒルバト・ナークース村、ラタキア県トルコマン山地方のトゥッファーヒーヤ村一帯を砲撃し、マンタフ村で女性1人が死亡、女児1人が負傷した。
これに対して、「決戦」作戦司令室は政府の支配下にあるイドリブ県マアーッラト・ムーハス村、ハマー県ジューリーン村を砲撃した。
一方、トルコ軍とシリア国民軍は、政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアレッポ県マンビジュ市北東のサイヤーダ村、ダンダニーヤ村、ファーラート村、アサリーヤ村、ジャームースィーヤ村、アラブ・ハサン村、ムフスィンリー村、アウン・ダーダート村、大トゥーハール村、小トゥーハール村、ジャート村、フーシャリーヤ村など「ユーフラテスの盾」地域との境界に位置するサールージュ村一帯を砲撃した。
これに対して、シリア民主軍に所属するマンビジュ軍事評議会が応戦し、ヤーシュリー村にあるトルコ軍の基地を砲撃するとともに、ハルーンジー村でシリア国民軍の車輌を攻撃、2輌を破壊した。
トルコ軍とシリア国民軍はまた、タッル・リフアト市近郊のアイン・ダクナ村、マンナグ村、「平和の泉」地域に隣接するラッカ県のヒルバト・バカル村、アリーダ村、クール・ハサン村、スーファーン村、スライブ村、ラクラクーク村、ファルフーナ村を砲撃し、ファルフーナ村では17歳の青年が負傷した。
6月23日
シリア軍は「決戦」作戦司令室支配下のイドリブ県カンスフラ村近郊のバドラーン丘にあるトルコ軍の拠点をレーザー誘導ミサイルで攻撃、トルコ軍兵士3人が負傷した。
シリア軍はまた「決戦」作戦司令室支配下のアレッポ県アターリブ市に設置されているトルコ軍の拠点一帯を砲撃し、女性1人が死亡、子供1人が負傷した。
シリア軍はさらに「決戦」作戦司令室支配下のイドリブ県アーフィス村を砲撃し、子供1人を含む4人が死亡、6人が負傷した。砲撃は、アーフィス村の墓地で葬儀を行っていた住民を狙って行われたという。
これに対して、トルコ軍と「決戦」作戦司令室は、政府の支配下にあるイドリブ県サラーキブ市一帯のシリア軍拠点、カフルナブル市を砲撃した。
また、サラーキブ市北のM5高速道路沿線一帯では、トルコ軍、「決戦」作戦司令室とシリア軍の間で重火器による砲撃戦が行われ、約1時間にわたって道路が不通となった。
一方、トルコ軍とシリア国民軍は、政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアレッポ県タッル・リフアト市郊外、同市近郊のアイン・ダクナ村、バイルーニーヤ村、マンビジュ市北東のフーシャリーヤ村を砲撃した。