いよいよ弾劾か トランプ政権のインサイダー、ウクライナ疑惑の核心を暴露 トランプ氏弾劾公聴会詳報
続くトランプ氏の弾劾調査をめぐる公聴会。
焦点は、トランプ氏が、“ウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪問し、また、アメリカからの軍事支援を得たいのなら、それと引き換えに、調査をしてほしい”と見返りを求めたかどうかだった。
調査とは、ヒラリー・クリントン陣営を支援していたウクライナ政府による2016年の米大統領選介入疑惑(ハッキングされた民主党全国委員会(DNC)のサーバーに関連するもの)に関する調査と、当時副大統領だったバイデン氏の息子が取締役を務めていたブリスマ社をめぐる汚職疑惑に関する調査である。
見返りを求めていた
20日(米国時間)、見返りの有無について鍵を握っている、注目のゴードン・ソンドランド駐欧州連合(EU)米大使の証言が6時間に渡って行われた。
その中で、民主党議員が質問した。
「見返りを求めていたんですね?」
ソンドランド氏は明言した。
「はい」
見返り、つまり、交換条件について直接ソンドランド氏に提示したのはトランプ氏の個人弁護士であるルディー・ジュリアーニ氏だった。
ソンドランド氏は公聴会冒頭、こんな爆弾発言を放った。
「ジュリアーニ氏はゼレンスキー氏のホワイトハウス訪問に対して見返りを求めました。ジュリアーニ氏はゼレンスキー氏に、2016年の大統領選のDNCサーバーとブリスマ社の調査開始を発表するよう要求したのです。ジュリアーニ氏はアメリカの大統領の希望だと言いました」
つまり、調査開始の発表がゼレンスキー氏のホワイトハウス訪問の交換条件となり、それはトランプ氏の希望するところだと証言したのだ。ジュリアーニ氏=トランプ氏という等式が浮かび上がった。
CNNは「トランプ氏が全てを指揮していたことに疑いの余地はない」と報じた。
ここで重要なのは、トランプ氏が、調査開始を発表することを重視したことである。つまり、調査そのものより、発表してもらうことが重要だったということだ。実際に調査は行われなくても、発表されるだけで、政敵バイデン氏に大きな打撃を与えることができると考えたのかもしれない。
重たいインサイダー証言
ソンドランド氏の発言は重たい。同氏はトランプ氏と直接話をしてきた人物だからだ。また、同氏は大統領就任式の際は式に参加するために100万ドルの寄付を行ったほどのトランプ氏支持者である。つまり、彼はホワイトハウスのインサイダーであった。また、ペンス副大統領やポンペオ国務長官、マルバニー大統領首席補佐官代行、ペリーエネルギー長官などトランプ政権の他のインサイダーたちはみな公聴会で証言することを拒否していた。それだけに、ソンドランド氏の証言は注目されていた。そのソンドランド氏が「見返りを求めていた」とウクライナ疑惑の核心部分を暴露したのである。
ホワイトハウスは実際、トランプ氏と直接話をした、ソンドランド氏が証言することを恐れていたようで、彼が証言するのをブロックしようとしたという。また、ソンドランド氏は会議をしてもノートは取らない。そのため、正確な発言内容を思い出せず、ホワイトハウスに会議記録へのアクセスを求めた。しかし、ホワイトハウスはアクセスを拒否したという。ホワイトハウスは同氏と距離を取り始めていたのだ。
ルディーと話してくれ
トランプ氏と直接話をしていたソンドランド氏。両者の間ではどんな会話がなされていたのか?
5月23日、ソンドランド氏がトランプ氏に会った際、トランプ氏はゼレンスキー新政権が改革を真剣に行うか懐疑的に見ていたという。また、前の大統領選でクリントン氏を支持していたウクライナ政府は自分をこき下ろしたと感じていたという。
この段階では、ソンドランド氏は、トランプ氏が求めていた調査というのは、ウクライナ政府の腐敗に関する一般的な調査のことだと理解していた。
また、ソンドランド氏によると、この時、トランプ氏は、
”Talk to Rudy”(ルディーと話してくれ)
と言って、ジュリアーニ氏と話すように指示したという。ここでも、ジュリアーニ氏=トランプ氏という等式が浮かび上がる。
ソンドランド氏をはじめ、ウクライナ問題に関わっていた3人の高官(ソンドランド氏、ボルカー氏、ペリー氏の3人のこと)は通称“スリー・アミーゴ”と呼ばれている。“スリー・アミーゴ”は、トランプ氏に「ルディーと話してくれ」とは言われたものの、ジュリアーニ氏とともにウクライナ問題に対処することに疑問を感じていた。
しかし、ロシアという脅威がある中、ゼレンスキー氏がホワイトハウスを訪問し、トランプ氏と首脳会談をして両国の関係を強化することは最重要だと考え、トランプ氏に”Talk to Rudy”と命じられた通り、ジュリアーニ氏の指示に従うことにしたのだという。
最初は一般的なウクライナ政府の腐敗調査だと思っていたソンドランド氏だったが、ジュリアーニ氏から具体的な指示がきた。それが冒頭の、2016年の大統領選時のDNCサーバーとブリスマ社の調査の見返りとして、ゼレンスキー氏のホワイトハウス訪問を受け入れるという、交換条件の要求だった。
そのため、ゼレンスキー氏のホワイトハウス訪問は一筋縄では行かない、難しいものになってしまったという。
7月25日、トランプ氏とゼレンスキー氏は、内部告発で明らかになった電話会談を行う。ソンドランド氏はこの時、その場にはいなかったものの、その後、会談記録が得られなかったため、おかしいと感じたという。
バイデン氏については言及せず
7月26日、ソンドランド氏は、キエフのレストランからトランプ氏に電話した。この電話の時に、そばにいた高官が話の内容を聞いていたのだが、ソンドランド氏がトランプ氏に「ウクライナ政府は調査を進める準備ができています」と話していたという。また、ソンドランド氏は高官に「トランプ氏はウクライナのことよりもバイデンの調査を気にかけている」とも話したという。
この事実関係について、問いただされたソンドランド氏は、具体的な会話内容は覚えていないと言いつつも、
「トランプ氏とは調査の話はしたが、バイデン氏の名前には言及しなかった」
と説明。実際、ソンドランド氏がウクライナの調査がバイデン氏の調査であるということを知ったのは、ずっと後の、内部告発者による告発文が発表された頃だったという。
しかし、トランプ氏が腐敗しているウクライナのことを良く思っておらず、また、ゼレンスキー氏がトランプ氏の指示には喜んで従うとは感じていたので、そばにいた高官とそんな会話を交わしていたとしてもおかしくはないと話した。
「オリエント急行殺人事件」だった
また、驚くべきことに、ペンス副大統領やポンペオ国務長官、ペリーエネルギー長官などトランプ政権の重鎮たちはみな、見返りを求めていることがわかっていたと証言。全員が繋がっていることを示す下記のメールも公開された。
あるテレビ・コメンテイターが、これについて“言い得て妙”な発言をした。
「つまり、“オリエント急行殺人事件”だったわけですね」(オリエント急行殺人事件では全員が犯人だった)
ソンドランド氏の主張が正しいなら、政権ぐるみで、ウクライナ政府に疑惑の調査開始を発表させることで、政敵バイデン氏を不利な状況に追い込もうと画策していたことになる。
8月終わり頃、ソンドランド氏は、ホワイトハウスがウクライナへの軍事支援を保留にしていることを知る。しかし、なぜ、保留にしているのか、関係者からは明確な答えを得ることができなかった。
何も求めていない
ホワイトハウス訪問だけではなく軍事支援も調査の交換条件にされていると踏んだソンドランド氏は、9月9日、トランプ氏に詰め寄った。
「ウクライナ政府に何を求めているんですか?」
この時、トランプ氏は不機嫌な感じで、こう答えたという。
「何も求めていないよ。見返りは求めていない。ゼレンスキー大統領に、正しいことをするようにと伝えてくれ」
トランプ氏がそう答えたのは無理もない。9月9日は、下院情報委員会が、内部告発が出ているという事実を初めて知った日だったからだ。当然、トランプ氏の耳にも、そのことは入ってきただろう。
そして、この2日後の9月11日に、トランプ政権はウクライナ政府に軍事支援を行った。
下院議長のナンシー・ペロシ氏は、内部告発が発覚したために、トランプ氏は軍事支援に踏み切らざるを得なかったのだと主張している。
弾劾できるのか?
民主党のアダム・シフ下院情報委員長は、ソンドランド氏の証言について、
「最も重要な証言だ。大統領を弾劾するのに十分だ」
と自信を見せた。
一方、共和党側は、ソンドランド氏の証言をこう言って否定した。
「トランプ氏自身が見返りについて言及したわけではない。ソンドランド氏はメモをとっていないし、発言内容を正確に覚えていないから信頼できない。すべてソンドランド氏の推測であり、事実ではない。トランプ氏は見返りは求めていないと言った。実際、ウクライナ政府は調査を開始していないが、軍事支援は受けている。これが事実です」
トランプ氏自身はソンドランド氏について、「彼のことはよく知らない」と話している。
また、トランプ氏は、ソンドランド氏の公聴会での証言をメモしていた。9月9日に、自分がソンドランド氏に言った「見返りは求めていない」という発言を書いたメモを、ホワイトハウスにいる記者たちの前で読み上げた。
支持率に大きな変化なし
ところで、アメリカの人々は、ソンドランド氏の証言がトランプ氏弾劾、ひいては解任に結びつくと思っているのだろうか?
筆者が参加しているUCLAの政治セミナーに来ていた人々に意見を聞くと“解任はされない”という声ばかりが返ってきた。
「ソンドランド氏の証言はたぶん事実でしょう。しかし、最終的には解任には至らないと思います。下院で弾劾訴追が成立したとしても、上院で成立させて解任するには、共和党から20人以上の「造反者」が出る必要がある。 しかし、それは無理でしょう」
「上院はトランプ氏を支援しているから、解任に至ることはない。結局、何も変わることはないよ」
「トランプ氏は解任されないだろうし、来年も大統領に当選するよ」
ウォーターゲート事件の際、当時大統領だったニクソン氏が辞任に追い込まれたのは、弾劾を望む世論が高まったからだ。しかし、今のアメリカを見ると、当時のような世論の高まりは感じられない。
ラスムセンが発表したトランプ氏の支持率調査によると、ソンドランド氏が証言した翌日の11月21日(米国時間)、支持率は、11月20日と比べると2%減少して46%となったものの、公聴会前と公聴会後を比べた場合、支持率にあまり大きな変化は見られない。それだけトランプ氏は絶対的支持者を捕まえているということになる。
結局のところ、トランプ氏弾劾公聴会は、アメリカの深い分断をあらためて証明しているだけなのか。引き続き、今後の動きに注目したい。