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女性2人でラーメン1杯を食べて大炎上! 飲食店で注文せずシェアするのがダメな理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

飲食店でのシェア

飲食店で1つの料理を2人でシェアしたことがありますか。

少し前に、私が専門家としてコメントした、ある事案に関する記事がYahoo!ニュースのトピックスになりました。

「入店お断り」ラーメン1杯を2人でシェア ルール違反なぜ起きる?:コスパ重視の弊害か/ITmedia ビジネスオンライン

茨城県水戸市のラーメン店に、2人の女性客が来店。1人だけがラーメンを注文し、1杯のラーメンを2人でシェアして食べました。店が「今後、食べない方の入店はお断りします」「食べない方は外のベンチでお待ち頂きます」とTwitterに投稿したところ、大きな反響があったといいます。

飲食店におけるシェアについて考えていきましょう。

飲食店の分類

まず、飲食店とは何でしょうか。

飲食店を営業するには保健所から飲食店営業許可をとる必要があります。食品衛生法によると飲食店営業とは「食品を調理し、又は設備を設けて客に飲食させる営業」のことです。

日本標準産業分類によれば、飲食店は「中分類 76 飲食店」で分類されている業態。テイクアウトやデリバリーの店は「中分類 77 持ち帰り・配達飲食サービス業」と明確に分類されています。

つまり、飲食店は店内で食べることを前提とした業態です。

飲食店の経営

飲食店営業は慈善事業ではありません。したがって、客が店内で食べることを前提として、利益がでるような設計をして経営しています。

経営プランを立てる時に用いられるのは、売上から、原価、人件費、賃料といったコストを差し引くこと。そして、売上を算出する際には通常、客単価に席数と回転率を掛け合わせます。

客単価とは席に座った客が支払う平均金額です。したがって、席に座っていながら、売上のない席は飲食店にとって想定外のシチュエーションとなります。

つまり、2人で1品をシェアすることは、一方の席が客単価0円になるので、飲食店にとっては困るのです。

空間にはコストがかかっている

先程はあえて言及しませんでしたが、一般的に利用者があまり認識していない飲食店のコストとして挙げられるのが、空間。

飲食店の空間を維持するには、イスやテーブルを用意したり、調度品を飾ったり、灯りを点けたり、空調を整えたり、店内を清掃したりと、快適な空間を実現するのに費用が発生します。つまり、飲食店では、客が席につき、店内の空間を専有しているだけでコストが発生しているのです。

特にファインダイニングであれば、1坪に1.5席くらいの席しか設けておらず、空間を贅沢にデザインしているもの。ロケーションと建物にこだわりがあり、賃貸料金も高いです。テーブルやイス、インテリアやランチョンマット、カトラリーやプレート、グラスなどのテーブルウェアなどにも、お金をかけています。

客が一人もいなかったとしても、こういった設備にかけたコストは存在しており、灯りや空調といった光熱費にもお金が発生しているのです。ファインダイニングではなく、カジュアルな業態であったとしても同様。

この快適な空間が無償で提供されているものではないと認識する必要があります。

機会を損失する可能性もある

飲食店で売上に貢献する人が客です。つまり、シェアされたものだけを食べる人は一切売上に寄与しないので、厳しい言い方をすれば、飲食店にとって客ではありません。そして、客ではない人が空間を専有することによって、飲食店は新たな客や売上を得る機会も逸してしまいます。

カウンター席であれば、2人客は2席が専有されます。そうなると、注文しない1席は売上機会を逸してしまうでしょう。テーブル席であれば、1人客も2人客も同じ2席テーブル1つなので、売上機会を失いません。しかし、良心的な飲食店であれば、2人客に対して2席テーブル2つが用意されることもあるので。1人しか注文しないのであれば、もう1テーブル、最大で2人客の売上機会を逃してしまうことになります。

客も損害を被る

飲食店だけではなく、利用者も損害を被ってしまいます。

なぜならば、本来は利用できたであろう人が利用できなくなってしまうからです。飲食店が売上機会を逸するということは、本来は予約できたり、ウォークインで入店できたりする人が、食事できなかったことを意味します。

オーダーしない人がいることを許容すれば、客単価が下がってしまいます。減った売上を補うためには、より値段を高くしなければなりません。つまり、無銭滞在する人のコストが、他の客に転嫁されてしまうのです。

注文しない人が席を専有することによって、飲食店と利用者の双方に迷惑がかかるのです。

ルール作りと明示が必要

ノーショーやドタキャンなど、飲食店の問題で私はよく述べていますが、飲食店ができることもあります。明確なルールを設けることによって、損害を低減させることができるのです。

カフェや居酒屋であれば1人1ドリンク、ラーメン店やファミリーレストランであれば1人1品、ファインダイニングであれば1人1コースを注文するように決めればよいでしょう。

飲食店はルールやポリシーをしっかりと定めて明示し、毅然とした態度で客に応対するべきです。

コストパフォーマンス重視の弊害

飲食店におけるコスパ至上主義が、シェアするなどして何も注文しない人を生み出しているのではないかと危惧しています。

多くのメディアでは、飲食店を紹介するにあたって、コストパフォーマンスを軸とした企画にしたり、値段が安いことをことさら称賛したりすることがあります。その影響で、飲食店でできる限り得をしようと思ってしまう人が増えているように思えてなりません。

飲食店の経営は慈善事業ではありません。個店であれば、オーナーは日銭を稼ぐために必死となっています。もしも、売上が立たない日があれば、食材費や光熱費、家賃などによってマイナスとなるでしょう。

こういったことを踏まえれば、飲食店で何も注文せずに滞在する、つまり、無銭滞在がよくないことであると理解できるのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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