NewJeans v.s BTS プロデューサー騒動 「一体何が起きている?」 徹底総まとめ
日本のメディアでも大きな話題となっている「BTS親会社騒動」。現地での関心度の高さは、日本で例えると2016年の「ジャニーズ(当時)からのSMAP独立騒動」や、ややもすれば昨今の「水原一平容疑者騒動」にも近いものになっている。
これについて徹底的にその流れをまとめてみた。
「何を争っているのか」「2人のプロフィール」「2024年4月までの時系列まとめ」「2024年4月ここ数日の動き詳細」の4パートで構成。出来る限りコンパクトにしたつもりだが、それでも少し長い。
4月22日のミン・ヒジン氏プレスリリース「【公式】「’ILLITのNewJeansコピー事件’に対するADORの公式見解」=全文」
何を争っているのか?
親会社のHYBE(トップはパン・シヒョク理事会議長=BTSプロデューサー)と、同社の子会社レーベルADOR代表取締役ミン・ヒジン氏の対立。
前者はBTS、後者はNewJeansを率いるプロデューサーであるために大きな注目を集めている。何より時価総額約9900億円でつい先日「大企業規模」と韓国国内で報じられたばかりの会社だ。そこを舞台に繰り広げられる愛憎劇。
「マルチレーベル」という「レーベルを子会社化し、HYBEが株式を所有する」という形態で会社が大きくなった。2グループのほか、SEVENTEEN、LE SSERAFIMなど日本で多く知られる会社の話だけに大きな関心を集めている。実際に後者は話の登場人物でもある。
双方の主張は「経営権を剥奪しようとした vs. 私を利用した」。
4月22日月曜日午前にHYBE側から突然取締役会議を通じてミン氏に「辞任要求」。理由は「会社経営権乗っ取りの動きがあったから」。その後ミン氏側はメディア単独インタビュー、プレスリリース、記者会見と3度の機会を通じて反論した。なかでも25日の7時間近いインタビューは幾多の内情暴露から「歴代級」との話題に。
元々パン氏とミン氏の間には感情の対立があったとされる。ミン氏は「2021年の(同系列社)LE SSERAFIMデビュー時期を巡って対立が始まった」。一方、韓国では、半年ほど前のあるネット掲示板の書き込みも話題になっている。「HYBE株主」を名乗る匿名のIDで「芸能事務所経営陣でトップを差し置いて目立つ存在がいたことがない」「ミン氏は気をつけるべき」と書き込まれていた。これが「恐ろしいほどに未来を予測している」と。一部では「マルチレーベル体制の崩壊」としても見られている。子会社レーベルに権限を与えすぎたためコントロールが効かなくなったのだと。
その他の「登場人物」は、二枚舌を使ったとされるHYBEのCEO(ナンバー2)パク・ジウォン氏、新ミン派のシン・ドンフンADOR副代表そしてNewJeansのメンバー、同系列のガールズグループLE SSERAFIMなど。
HYBE側は資料証拠を基に経営乗っ取りの動きを示そうとしているが、実はミン氏側の主張は感情論という意見も強い。ミン氏は世論が「HYBE側」だという点も認識しており、25日の会見でも「私は悪魔、という前提で話が進んでいる」と訴えた。
HYBE側は「背任」、ミン氏側は「背任」「名誉毀損」で訴える法廷戦に持ち込まれる見通し。一方5月に新曲発表を控えるNewJeansの状況も心配されるところ。ミン氏が辞任または解任のいずれかでHYBE系列を去ることは確実で、「HYBE系列内でミン氏のプロデュースの下で活動」という形態の維持は難しいとされている。メンバーを「娘たち」と呼ぶミン氏は25日の会見で「一緒に連れて独立」の意思を発表している。HYBEとしても「BTS不在期間のエース」を失うことになれば「株価のさらなる下落」は必至。その動向に注目が集まる。
プロフィール
ミン・ヒジン 1979年12月16日生まれ(44歳)。HYBE内の子会社レーベル「ADOR」代表取締役。NewJeansプロデューサー。自称「母」というほどメンバーと近い関係にある、ソウル女子大学視覚デザイン学科卒。アートディレクター、CBO、CEO。02年に一般応募によりSMエンタテインメント入社。叩き上げの星でもある。少女時代、f(x)、SHINeeなどのブランドデザイン、アートディレクションなどで名を上げた。なかでもf(x)のPink Tapeはその破格的なデザインで広く知られることに。Mnet Asian Music Awards - ベストビジュアル&アートディレクターオブザイヤー、ブレイクアウトプロデューサー賞受賞。名前の現地での発音は「ミニジン」に近い。
ミン・ヒジン氏のSM ENTERTAINMENT時代の作品群
パン・シヒョク 1972年8月9日生まれ(51歳)。ソウル大学美術学科卒。在学中に作曲家としてデビュー。JYPエンターテインメントなどでの活動を経て、1999年デビューの「god」プロデュースで最初の成功を収める。2013年には防弾少年団をデビューさせ、これが世界的な成功。今日に至る。
経緯 2024年4月に至るまで
2002年 ミン・ヒジン氏 SMエンタテインメント入社。一般応募による入社だった。グループのブランディング、アートディレクターなどで活躍。少女時代、f(x)、SHINeeなどを手がける。
2013年 パン・シヒョク氏 プロデュースで防弾少年団がデビュー。当時の事務所名は「Big Hit Entertainment」。
2018年 ミン・ヒジン氏 SMエンタテインメント退社。
2019年 ミン・ヒジン氏 パン・シヒョク氏のBig Hit EntertainmentにCBO(ブランド統括のトップ)として入社。パン氏からの熱烈オファーによる。「ガールズグループを作ろう」。男性グループBTSを成功させたパン氏にとって、次の大いなる野望だった。
2021年3月31日 パン・シヒョク氏 事業拡大を狙い、Big Hit Entertainmentの社名を「HYBE」へと変更。同時に、「Big Hit」のアイデンティティーを残す形で、子会社「BIGHIT MUSIC」を設立した。その他にも株式を所有する子会社をレーベル化する「マルチレーベル」という独自の業態を作り出す。
2021年11月 「ミン・ヒジンレーベル」と言われるADORをHYBE内の子会社として設立。「HYBE内の初ガールズグループ」として後のNewJeansの結成準備が始まる。
2022年5月 しかしHYBE内の別レーベル「SOURCE MUSIC」からLE SSERAFIMデビュー。ミン氏「この時からパン氏との葛藤が始まった」。
2022年7月 NewJeansデビュー。デビュー後1ヶ月で米国ビルボード1位の快挙。この時ミン氏はパン氏から「楽しい?」と皮肉を言われたと証言。
2024年4月 ここ数日の動き
4月22日午前<HYBEの告発>
◆HYBE側が取締役会議を開催。「ADOR経営陣が契約書などの社外秘である内部資料を流出させている」「HYBEが保有しているADORの株式を売るよう誘導する計画を立てているという状況を把握している」つまりは「HYBE経営権奪取のための動き」と発表。
◆ADOR役員であるミン・ヒジン代表とシン・ドンフン副代表などに対する監査に着手した。
◆HYBE側が主張する「証拠」は以下の通り。
・HYBEは「ミン派」として知られるシン・ドンフン副代表の行動を問題視。「職位を利用してHYBE内部情報をADORに渡したことも把握」。
・シン副代表はもともとHYBE財務部署でIRを担当。上場業務などを遂行していた。その後シン副代表はHYBEから子会社のADORに転職。その際に大量の内部ファイルをダウンロードしていた。
・その後、独立に必要な非公開文書、営業秘密などをADOR側に渡したと疑っていると見ている。
◆上記を調査するため、HYBE監査チームなどがこの日の午前、ADOR経営陣の業務区域(自社ビル内)を訪れた。
・会社の電算資産回収と対面での陳述確保。
・対面監査だけでなく、ミン・ヒジンADOR代表とシン・ドンフン副代表などに監査質問書を送付。
・質問書の内容「ADOR経営権奪取謀議の内容、事業上の秘密流出、人事請託などADOR経営陣が犯した非違に対する事実関係を問うもの」
・この過程で不適切な外部コンサルティングを受けた状況も把握。
◆監査によりHYBE側が把握したとする内容(韓国国内の報道による)
・今年初めからHYBEから経営権を奪取するための計画を立てており、親会社であるHYBEがADORに不当な要求をしているという点を口実に世論を悪化させようとした。
・HYBEが保有するADORの持分80%を現ADOR経営陣に友好的な投資家に売却させるというもの。
・ADOR経営陣は、その過程で証券会社アナリストと海外投資顧問会社、プライベート・エクイティ・ファンド(PEF)、ベンチャーキャピタル(VC)関係者などに売却構造をレビューしてもらった。
・ADORとHYBEの間で締結された契約情報などを任意に流出させた。
・さらにHYBEにプレッシャーを与えるためのカードとして、HYBEのアーティストに対する否定的な世論形成作業とアーティストの両親に対する懐柔作業も密かに進めたのではないか。
◆HYBE側はシン・ドンフン副代表が外部に流出したと疑われる項目は、単に経営に関する領域だけではなかったと見ている。
・デビュー前の練習生たちの肖像と健康状況、職員たちの個人情報および発令と採用など人事関連の核心情報などが含まれていた。
◆結果=HYBE側は監査と同時にADORの株主総会召集とミン・ヒジン代表の辞任を要求した。
・株主総会召集のためにはADOR取締役会の承認が必要。現状ではADOR取締役会は、ミン・ヒジン代表側の人事たちが取締役会を掌握している。
・株主総会開催が行われない場合、最大株主であるHYBEが裁判所に株主総会を開催してほしいという仮処分申請を提起できる。
4月22日午後<ミン・ヒジン氏側の反論 プレスリリース発行>
・パン・シヒョク氏との衝突が発生したのは、HYBEのもう一つの子会社であるBELIEF LABからデビューしたガールズグループILLITのコンセプトと「スタイル、振り付けがNewJeansと非常に類似しており、NewJeansをそのままコピーしているのではないか」と提起したことから。
・この疑惑を正式にHYBEに提起したところ、突然自分を解任しようとしている。
・経営権奪取の試みについては否認。
・主たる内容は不和の原因についてのみ明らかにしたものであり、現在メディアで提起されている「経営乗っ取り説」についてはほぼ説明せず。
4月23日<メディア報道相次ぐ>
・ミン・ヒジン代表が「韓国日刊スポーツ」のインタビューに応じる。
・HYBE側の主張とは異なり、本人はいかなる投資家とも会ったことがない
・「HYBEが80%の持分を持っているため、私がADORの経営権を奪取するのは最初から不可能。80%の持分権者であるHYBEの同意なしでは、ADORがHYBEから独立することも不可能だ。そもそも不可能なことを企図したというHYBEの主張は納得しがたい」
・「お金が目的なら、最初からこのような内部告発、異議提起をしなかっただろう」
・「5月にNewJeansのカムバックを控えた状況でHYBEの行動が理解できない」
・各メディアは「ミン・ヒジン氏のクーデター」という論調で多く報じる。
4月24日午前<HYBE、ADOR内部の文書で会社の独立に関する内容を公開>
具体的にミン氏がHYBEからの独立を図る内容が明らかになったとしている。
・それぞれ先月23日と29日に作成されたもの。
・23日付の文書には「アジェンダ」(Agenda)というタイトルの下に「1. 経営企画」などのサブタイトル、その下に「契約書変更合意」のような細部シナリオが書かれていた。
・「外部投資家誘致案1・2のまとめ」という項目では「G(シンガポール投資庁GIC)・P(公共投資基金PIF)はどう買うか」という部分と内部担当者の名前も明示されていた。
・「HYBEはどうすれば売るれるか」という文章もあり、もう一人の担当者の名前が書かれていた。
・最近のHYBE内部会議でミン・ヒジン氏が「ILLITもNewJeansを真似て、TOURSもNewJeansを真似て、RIIZEもNewJeansを真似た」と言ったと伝えられ、さらに「防弾少年団も私のものを真似てここまで来たグループ」という発言をした。
・29日付の文書には「目標」という項目の下に「究極的に抜け出す」「我々を誰も触れられないようにする」などの内容が書かれていた。
4月25日午前<HYBE、ミン・ヒジン氏のカカオトークの会話録を公開>
・HYBEは、ミン・ヒジン代表主導で経営権奪取計画が立てられたという具体的な事実として「物的証拠も確保した」。
・合わせて中間監査結果を発表し報道した。
・公開されたカカオトークでの会話内容には「ADORを空っぽの殻にして連れ出す」といったものややNewJeansの契約解除などを議論したことが把握されたと公表。
・HYBEは、ミン・ヒジン氏を業務上背任の疑いで告発すると明らかに。
・合わせてパク・ジウォンHYBE代表(ナンバー2)が「事件が一段落したので、アーティストの心理療法と情緒的安定に最善を尽くす」と明らかにした。
4月25日<午後ミン・ヒジン氏緊急会見>
・25日午後3時に緊急記者会見を開催。
・自らの主張と質疑応答を合わせ7時間超の会見はその長さと、大胆な暴露により話題に。
(了)
【筆者による関連記事】
NewJeansが最大の被害者に⁉ 「ミン・ヒジン騒動」韓国メディアが報じる「事の真相」