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文科省、教員の増員要求――小学校英語等への対応

寺沢拓敬言語社会学者

筆者が再三指摘し続けてきたとおり、小学校英語教科化は予算――要は新たな専科教員等を雇う人件費――をつけずに、学級担任に丸投げする形でスタートされようとしている(以下の記事参照)。

その点で、悲惨な結果を招く危険性の非常に大きい政策である。

 

そんな中、以下のニュースが報じられた。

教職員3800人増要求へ=小学校英語教科化に対応-文科省:時事ドットコム

文部科学省は24日、2018年度の公立小中学校の教職員定数を3800人増やすよう求める方針を固めた。新学習指導要領で小学校英語が正式教科化されるのに対応して専任教員を大幅に増やし、学級担任が受け持つ授業の負担を減らす。事務職員も増員し学校の運営体制を強化。長時間勤務が顕著な教員の働き方改革を推進する。

 

10校にひとりの増員

教員増の方向性を示した文科省の姿勢は、ひとまず評価できるだろう。

記事によれば、3800人増は小中学校の合計で、小学校に限れば2200人増の要求とのことである。

公立小学校は全国に約2万校あるので、だいたい10校につき一人の増員ということになる。「焼け石に水」感があるが、小学校英語の正式なスタートは2020年度である。それまでにいかに毎年度定数を増やせるかが重要だろう。

学級担任中心から専科教員中心へ

もう一点。小学校英語は専科教員ではなく学級担任が指導するほうが良いという、いわゆる「担任の指導こそが良い」論が現在のところ優勢だった。

文科省的に言えばこれは新規予算をつけずに始めるための「方便」だったと思われるが、小学校英語関係者の中には、この理屈を真に受けている真剣に支持している人も多い。曰く、「日々の子どもたちの様子を知っている学級担任が指導するのに意義がある」「英語に慣れていない担任が必死にコミュニケーションをしようとしている姿勢を子どもに見せることが大切」など。

今回の要求は、従来の「学級担任中心」という方向性から「専科教員主導」に部分的にせよ舵を切ったことを意味している。いままで散々(方便にせよ)「学級担任の指導こそに意味がある」と述べてきた人たちは、過去の主張との整合性を問われるだろう。

筆者は常々「担任が教えるからこそ良い」論は、種々の点で破綻している(たとえば、学級担任主導の過度の強調は、専科教員中心の音楽科等と整合性がとれない)と考えているため、「教員増員(大増員)による専科教員による指導」という方向性は基本的に支持である。

教員定数の増員

なお、今回のニュースは教員定数に関するものであることに注意されたい。今年度の教員数からプラスしてさらに3,800人増えるというわけではない。実質的には、小中合わせて800人の増加とのことである。

公立小中学校において制度上定められた教員数は、児童生徒数(厳密に言えば学級数)と連動している。そのため、児童数が減れば教員定数も減る。2018年度も児童数が大幅に減ることが見込まれており、従来の基準では教員定数も3000人減である。今回の文科省の要求は、今年度の教員数を維持し、さらに800人を上乗せすることを要求したものである。

小学校教員の純粋な増員は、300人~500人辺りだろうか。

やはり「焼け石に水」の感はあるが、そもそも教職員定数の改善を目指している点で、文科省は財務省相手になかなか頑張っているようにも思う。

言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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