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ファミレスでゴミ箱の上に名物ハンバーグの衝撃! なぜこのようなことが行われたのか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:Jphoto/イメージマート)

飲食店は酒類提供の禁止で苦戦

緊急事態宣言の期間中にあって、酒類提供が禁止となった飲食店は非常に苦労を強いられています。

飲食店は厳しい状況に置かれていますが、ファミリーレストランで起きた衝撃的なニュースが飛び込んできました。

Smart FLASHによると、あるファミリーレストランでは、バックヤードにあるゴミ箱の上でハンバーグを解凍していたというのです。真空パックされた3つのハンバーグが大きな業務用トラッシュボックスの上に置かれていたことに加えて、ピザまでもがキッチン以外の場所に置かれていたといいます。

このファミリーレストランで提供されているハンバーグは、2015年に日本ハンバーグ協会が主催する「第一回ハンバーググランプリ」でも金賞に輝いた看板メニュー。アワードを受賞したり、多くのファンがいたりするだけに、大きな話題となっています。

編集部が運営会社に確認したところ、店舗運営基準に合致しておらず、謝罪と共に必要な対応を行っていくということです。経営側がしっかりとした対応を行っていることは非常に好ましいですが、今回の背景について詳説していきたいと思います。

食品衛生責任者の責任

ゴミ箱の上に食品を置くという行為について考えてみましょう。

飲食店をオープンするには、保健所から飲食店営業許可を受ける必要があります。許可されるには、食品衛生法で定められた基準をクリアしなければなりません。

先の記事でも言及されていますが、もう少し細かく挙げるとすれば、食品衛生法では、第二章の第五条で「食品又は添加物の採取、製造、加工、使用、調理、貯蔵、運搬、陳列及び授受は、清潔で衛生的に行われなければならない」と定められています。この食品とは、全ての飲食物を含む食品です。

したがって、そのまま摂取すれば危険となりうる生ゴミも廃棄されるゴミ箱の上で、解凍する行為は好ましいはずがありません。

たとえば、生肉の破片がゴミ箱に付着し、それが何かの拍子にパッケージへ付いてキッチンまで運ばれ、十分に加熱されないままに提供されることがあるとすれば、食中毒を引き起こすこともありえます。

あくまでも可能性があるというだけで、高い確率でこういった事象が起こることはありませんが、不必要に危険性を高めることは確かです。

飲食店を営業するには必ず、施設ごとに食品衛生責任者を置かなければなりません。食品衛生責任者とは、食品衛生責任者養成講習を受講するなどし、食品衛生の責任者として選任されている方です。

食品衛生責任者が果たすべき役目の中には、飲食店の従業員に衛生教育を実施するという項目もあります。それだけに、件のオペレーションを行ったアルバイトやパートタイマーだけではなく、食品衛生責任者にも責任があるのです。

冷凍食品の是非

そもそも飲食店において、冷凍食品はどのような位置付けとなっているのでしょうか。

飲食業界は高度に技術化されており、冷凍ものがよく使われます。セントラルキッチンがあり、全国で同じ味を再現しなければならず、現場のオペレーションの負荷も低減させる必要がある飲食店チェーンでは必須です。

ミシュランガイドで星を獲得するようなファインダイニングであったとしても、海外から食材を輸入するには冷凍された食品を使用します。

冷凍食品を使用するのは、飲食店の営利を最大化するだけではありません。消費者にも恩恵がもたらされます。なぜならば、冷凍食品を使用することによって基本的に、提供されるまでの時間が短縮され、価格も下がるからです。

ファミリーレストランといっても、完全調理されたものを電子レンジで温めるだけではありません。半調理されたものを解凍し、火を入れて調理することが一般的です。

したがって、冷凍された食品を使用することは決して悪いことではありません。

冷蔵庫が狭かった

では、冷凍食品を使用することは仕方がないとして、どうしてゴミ箱の上に食品を置くことになったのでしょうか。

まず考えられるのが、冷蔵庫にスペースがなかったということ。

冷凍食品では、風味を損なわず、よりおいしく味わうには6時間以上の解凍時間がかかります。通常であれば、前日や朝から冷蔵庫に移しておくのが鉄則。

しかし、何かしらの事情で冷蔵庫に入れることができなかったので、仕方なくゴミ箱の上に置かれたということが考えられます。

もしそうであれば、庫内の整理を徹底したり、新しい冷蔵庫にリプレースしたりすることを早急に考えなくてはなりません。

キッチン内にスペースがなかった

冷蔵庫に入れられなかったとしても、ゴミ箱以外の場所で解凍する方法があります。

食味に関していえば、表面と内部の温度差が生じることにより、たとえばハンバーグであればドリップが流出していまい、味が損なわれてしまいます。しかし、温度や湿度など、様々な環境によりますが、長時間でなければ、室内の常温でも衛生面においては大きな問題はないでしょう。

冷蔵庫に入れられなかったので、キッチン内のスペースを探したのかもしれません。しかしキッチン内にも余裕がなかったので、仕方なくゴミ箱の上で解凍したということもあります。

ただ、もしそうであれば、キッチンを片付けるという基本的な業務がされていなかったということであり、改善の余地がたくさん残されているでしょう。

素晴らしい食体験とは

飲食店において重要なことは、ゲストが素晴らしい食体験を得られることです。

それには、おいしい料理やそれにマッチングするお酒、楽しく過ごせるための空間や心地よいサービスが提供されなければなりません。そして、これらの大前提として、保健所からもらった飲食店営業許可を遵守することが必要です。たとえカジュアルで手頃なファミリーレストランであったとしても、食品衛生を守ることは不可欠。

新型コロナウイルスが猛威を奮う中で、飲食店は甚大な損害を被っていることは承知しています。ただ、そういった中にあっても、いえ、そういった渦中にあるからこそ、飲食店の素晴らしさを訴えるために、大前提である食品衛生には十分に留意していただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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