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ロープのないリングで闘うプロレス、日本に初上陸を果たした「ブラッドスポーツ」とは?

清野茂樹実況アナウンサー
ジョシュ・バーネットとジョン・モクスリーの試合(写真:東京スポーツ/アフロ)

今月22日、両国国技館でジョシュ・バーネットがプロデュースするプロレス興行「ブラッドスポーツ武士道」が日本に初めて上陸した。ロープのないリングでKOとギブアップのみで決着する試合は、いったいどんなものだったのか。令和の時代に米国から逆輸入された格闘技スタイルのプロレスについて考えてみたい。

米国GCWによって誕生

ブラッドスポーツが生まれたのは2018年。米国のプロレス団体GCWが、元UFCファイターのマット・リドルと一緒に考案したものである。ロープのないリングでKOかギブアップで決着するスタイルは当時からのアイデアで、旗揚げ戦はリドルと鈴木みのるの対戦がメインイベントであった。第2回大会以降、プロデューサーはジョシュ・バーネットに引き継がれ、ルールと興行の両面で改良を重ねられてきたのが現在のブラッドスポーツにあたる。ジョシュ体制に移ってから、興行は全米各地で10回を数えて、この度初めて日本大会が開催されたという経緯だ。

UWFの理念とも重なる

ジョシュによれば、ブラッドスポーツの名称は元々、ジャン=クロード・ヴァン・ダムの映画タイトルに由来するものだが、カール・ゴッチ、ビル・ロビンソン、アントニオ猪木らの「血を受け継ぐ」という意味も込められているという。レスラー同士が技術だけで競い合い、プロレスの原点回帰を目指すという理念は、80年代に日本に存在した団体UWFとも一致している。今大会の対戦カードに船木誠勝や鈴木みのる、桜庭和志らの名が並び、リングサイドに前田日明や藤原喜明を揃えたのはブラッドスポーツが「UWFの血」も重視していることがわかる。

ロープのないリングで変わる試合展開

ロープのないリングの中では、走ったり跳んだりの展開はない。全試合のほとんどが打撃と寝技、投げ技を主体に10分以内の決着であった。UWFルールの基礎を作った佐山サトルの弟子であり、元修斗王者の中井祐樹は試合を見て「ロープがないため、選手は高所から落ちてしまう恐怖心があったでしょう。反面、ピンフォールがないので失敗を恐れずにサブミッションやKOを狙えたように思います。UWFルールとの本質的な違いは感じませんでしたが、ロープエスケープがないために関節を極められそうになったら、自力で逃げなくてはならない技術が必要です」と指摘する。

目標は年一回の日本大会

メインイベントに登場したジョシュは、現IWGP世界王者ジョン・モクスリーに延長戦の末にTKOで敗れたものの、プロデューサーとしては達成感を得たのではないだろうか。GCWのオーナーからの信頼も厚く、次回大会は来月28日に米国ニューヨーク州ブルックリンで開催が決定している。「試合を見た前田さんと藤原さんからも楽しかったと言ってもらえた。二人のようなレジェンドに時間と知識を与えてもらえることは本当に幸運だよ」と語り、今後は年一回の日本開催を目標に掲げる。そのためには先人たちの血を受け継ぐ若いレスラーの存在が鍵だろう。現在ではクロスオーバーすることがほとんどなくなった格闘技とプロレスを結びつける存在として、ブラッドスポーツには大いに期待したい。

※文中敬称略

実況アナウンサー

実況アナウンサー。1973年神戸市生まれ。プロレス、総合格闘技、大相撲などで活躍。2015年にはアナウンス史上初めて、新日本プロレス、WWE、UFCの世界3大メジャー団体の実況を制覇。また、ラジオ日本で放送中のレギュラー番組「真夜中のハーリー&レイス」では、アントニオ猪木を筆頭に600人以上にインタビューしている。「コブラツイストに愛をこめて」「1000のプロレスレコードを持つ男」「もえプロ♡」シリーズなどプロレスに関する著作も多い。2018年には早稲田大学大学院でジャーナリズム修士号を取得。

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