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「スタトレ」スールーをゲイにすることに、ジョージ・タケイは反対だった

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
長年スールーを演じてきたジョージ・タケイ(写真:REX FEATURES/アフロ)

今月北米公開される「スター・トレック BEYOND」で、ヒカル・スールーがゲイとして描かれることが判明したのを受けて(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160708-00059744/)、ジョージ・タケイが本心を明かした。

ジャスティン・リン監督と、今作で脚本家を兼任するサイモン・ペグは、LGBTコミュニティのために積極的な活動を行ってきたタケイに敬意を払う意味も込めて、この決断を下した。しかし、タケイは最初から反対を主張してきたのだという。

タケイが「The Hollywood Reporter」に対して語ったところによると、彼が初めてこのアイデアを聞いたのは、昨年のこと。ジョン・チョーが電話をしてきて、このことを伝えた時、タケイは、「想像力を働かせて、最初からゲイである新しいキャラクターを作りなさい。これまでずっとストレートで通してきたスールーが、事実を隠していたことにするんじゃなくて」と主張したという。そのすぐ後に、今度はリンが電話をしてきたが、タケイは、「この映画は『スター・トレック』の50周年の年に公開される。ならば、ジーン・ロッデンベリーに敬意を表するべきだ。彼のビジョンが、50年も生き続けたのだから。彼のためにも、新しいキャラクターを作りなさい」と言った。

それからしばらく何も起こらなかったが、2ヶ月ほど前に、タケイはペグからのメールを受け取る。メールは、タケイのLGBTコミュニティのための活動を讃える内容だったので、「これはきっと、ジャスティンがサイモンを説得してくれて、考えを変えたんだな」と思った。しかし、先月、チョーからのメールで、スールーはやはりゲイとして描かれることを知る。タケイは、「ゲイのキャラクターが出てくることはうれしい。でも、これは、ジーンが創造したものを変えてしまう。ジーンが一生懸命考え出したものを。とても残念だ」と語った。

これを受けて、ペグは、なぜ新しいキャラクターではなく、スールーをゲイにしたのかを説明する声明を発表している。

「僕はジョージ・タケイのことを、心から尊敬します。彼は、勇気、愛、ユーモアにあふれ、僕に多くのインスピレーションを与えてくれます」とした上で、「しかし、スールーに関しては、お言葉ではありますが、反対です」と述べた。「新しいキャラクターを出してくることはもちろんできましたが、そうすると、観客は、最初から『ゲイのキャラクター』と受け止めてしまいます。その人をきちんと人間として見る前に。それだと、形だけの平等主義になりませんか?」と言うペグは、スールーはすでに長い間存在し、観客に良く知られているからこそ、ふさわしかったのだと主張。そうすることで、彼の性的指向は、彼がもつ多くの側面のひとつにしかすぎず、キャラクターを定義するものにはならないからというのが理由だ。「それに、観客は、『スター・トレック』のユニバースには、最初からLGBTのキャラクターがいたのだと納得するでしょう。ゲイのヒーローは、新しくも、奇妙でも、なんでもないのです。もうひとつ大事なことですが、僕らは、スールーがゲイであることを隠していたとはしていません。そんな必要は、ないですよね?ただこれまで話題に上らなかっただけです」とも付け加えている。

近年、ハリウッドでは、人種の多様化、男女のギャラの平等化などに加えて、映画の中に、もっと多く、正しい形で描かれたLGBTのキャラクターを出してくる必要性も、強く訴えられてきている。「アナと雪の女王」の続編でエルサをレズビアンにするべきだとか(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160503-00057331/)、キャプテン・アメリカはゲイであるべきか(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160525-00058032/)、あるいは「ファインディング・ドリー」にちらりと登場する人間の女性ふたりはレズビアンカップルか(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160620-00059022/)など、最近、ソーシャルメディアでは盛んに声が上がっているだけに、このスールーの件についても、賛否両論、さまざまな意見が飛び交っている。「みんな騒いでいるけど、そのシーンはどうせ1分もないんじゃないの?」という冷めたコメントもあるが、その1分(あるいはもっと短いのかもしれない)が映画の歴史に与える影響は、はかりしれないのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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