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カマラ・ハリスが人気コメディ番組にサプライズ出演。だが効果のほどは?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
自分を演じるマヤ・ルドルフと共演したカマラ・ハリス(NBC)

 大統領選まであと3日に迫った現地時間2日、カマラ・ハリスが大人気コメディ番組に突如出演し、視聴者を驚かせた。

 メジャーネットワークNBCが毎週土曜日の夜に生放送する長寿番組「Saturday Night Live」(SNL)。彼女が登場するのは、“コールドオープン”と呼ばれる、番組のタイトルが流れる前の8分ほどのスキットの最後だ。

 このスキットのはじめでは、トランプ(ジェームズ・オースティン・ジョンソン)とJD・バンス(ボーウェン・ヤン)が集会を行っており、ハリス(マヤ・ルドルフ)、ハリスの夫ダグ・エムホフ(アンディ・サンバーグ)、ティム・ウォルズ(ジム・ガフィガン)が、その様子をテレビで見ている。デイナ・カーヴィ演じるジョー・バイデンもやって来るが、それらの人たちが部屋を出ていき、ひとりになると、ルドルフ演じるハリスは、「私と同じような人と話せたら良いのに。黒人と南アジアの血が混じった、大統領選に立候補している女性。(カリフォルニア州の)ベイエリア出身ならなおさら良いわ」とつぶやく。すると、鏡の向こう側に、本物のハリスが現れるのだ。

 この瞬間、会場にいる観客からは、一斉に大きな歓声が上がった。30秒以上経って観客の興奮がおさまると、本物のハリスとルドルフのハリスは、鏡をはさんで会話を始める。その中では、本物のハリスが、「あなたには競争相手ができないことができる。あなたはドアを開けることができるのよ」と、最近、ゴミ収集車に乗ろうとしたトランプがドアを開けようとして空振りしたことをネタにしたりもする。

 最後に横に並んで立つと、ルドルフのハリスは「私は、私たちに投票するわ」と言い、本物のハリスは「それは素敵。もしかしてあなたはペンシルヴァニア州で投票者登録をしていたりする?」と激戦区の名前を出す。そこでも会場からの笑いを取ると、ふたりは毎回恒例のかけ声「Live from New York, it’s Saturday Night!」を一緒に叫んで、オープニングのテーマ曲へとつなげる。

絶賛もあればトランプ陣営からの批判も

 このサプライズ出演をしたハリスの狙いは明らかだ。それ自体が話題になるのはもちろんのこと、ユーモアのセンスを披露し、ポジティブなイメージを強調できる。事実、ソーシャルメディアには、「すごく笑えた」「これまでのSNLで最高のスキット」「すばらしいエネルギーがあったね」「ふたりが初めて目を合わせた時、お互いへの強い尊敬がはっきりと見えた」などという絶賛コメントが多数見られる。

 当然のことながら、トランプのキャンペーンの反応は正反対だ。トランプのスポークスマン、スティーブン・チュンは、「カマラ・ハリスは中身のあるものを米国民に提供できないから、左派の『Saturday Night Live』でエリートのお友達とつるんで夢にふけっているのだ」と、声明で批判。トランプに指名されて米国連邦通信委員会(FCC)の委員となったブレンダン・カーも、X(旧ツイッター)で、この出演は、選挙前の候補者は平等な出演時間をもらえるべきと定めるFCCの規定に反すると指摘する。

 さらに、ハリス本人が登場する状況が、大統領選に出馬した2015年、ジミー・ファロンが司会を務めた「Tonight Show」にトランプが出た時のパクリだとする声も出た。たしかに、その2015年のスキットでは、ファロン演じるトランプとトランプ本人が鏡をはさんでおり、一見すると似ている。しかし、トランプが自分自身をインタビューするという設定で、内容は全然違う。それに、ファロンも「SNL」の出身者で人気コメディアンではあるものの、彼がこのスキットで演じているトランプは、現在「SNL」でトランプ役を務めるジョンソンや、ハリスを演じるルドルフに比べるとインパクトが弱い。

肝心の選挙への影響はいかに

 そんなふうに、賛否両論とはいえ、話題集めという意味では成功だったと言っていいだろう。だが、最も肝心なところである選挙への影響はどれほどのものだろうか。

 トランプのスポークスマンもいうように、「Saturday Night Live」は(もっとも、ハリウッド全体がそうなのだが)リベラル寄り。ここ数年はトランプを揶揄するネタを好んできたことから、トランプ支持者への受けはよくない。つまり、この番組の視聴者には、もともとトランプ支持者よりハリス支持者が多いと思われる。

 それに、郵便投票が一般化した今、すでに票を投じてしまった人たちも少なくない。来たる火曜日は、ついに投票できる日なのではなく、実質的には投票の締切日なのだ。筆者のすぐ近所にも投票箱があるが、ここ2、3日は投票用紙が入った封筒を片手に訪れる人を頻繁に目にする。共和党員なのにハリス支持を表明したアーノルド・シュワルツェネッガーも、現地時間先月30日、「私は今週投票する」と、選挙当日を待たずに郵便でハリスに投票することをソーシャルメディアで表明していた。

 とは言っても、広いアメリカにはまだ投票をしていない人、どちらに入れるか決めていない人もいるのは事実。最後の最後までやれることはやらないといけない。今回の選挙は接戦なので、なおさらだ。だが、このコメディ番組のスキットがその人たちの心を望むような形で動かせたかどうかはわからない。人によっては逆効果だったかもしれない。

 いずれにせよ、あらゆる手を尽くせる時間も、いよいよ終わりに迫っている。まもなく来るその時、ハリスは、あのトレードマークの笑い声で勝利を祝うことができるだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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