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「アナ雪」エルサに続き、今度は「キャプテン・アメリカをゲイに」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
クリス・エヴァンス(左)とセバスチャン・スタン(写真:Splash/アフロ)

「エルサにガールフレンドを」キャンペーンに続いて、今度は「キャプテン・アメリカにボーイフレンドを」と訴える運動が、ソーシャルメディアを騒がせている。

「#GiveCaptainAmericaABoyfriend」は、米西海岸時間火曜日現在、ツィッターでトレンド入りしている話題のひとつ。推進派は、キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)が、彼を支え続けるバッキー・バーンズ(セバスチャン・スタン)と恋に落ちるべきだと主張している。「もしバッキーが女だったら、ふたりはもうすでにカップルになっているはず」「今は2016年なのに、人はまだスーパーヒーローは全員ストレートだと思っているから」「女性とみつばちが恋に落ちる映画だってあるんだし、いいじゃないか」「これは革命だ!」「キャプテンとバッキーは、マーベル映画で最高のラブストーリーになると思うよ」というのが理由だ。

一方で、スティーブ・ロジャースは過去に女性とキスをしたりしており、今さら彼をゲイにするしっかりした土壌がないという主張も見られる。そういった疑問をもつ人々は、「ゲイのスーパーヒーローを何人作ってもいいけれど、すでに築き上げられているキャラクターを変える必要はない」「キャプテン・アメリカはストレートだ。なんでもゲイにするのはやめてくれ」「この運動に賛成しないからといって、ゲイ嫌いだということにはならない。ただ、愛されるキャラクターを簡単に変えてほしくないというだけ」「僕はゲイの男だが、キャプテン・アメリカにボーイフレンドは作ってほしくない。彼はシャロン・カーターと一緒になるべきなんだ。ゲイにしようという理由だけで人をゲイにしないで」などとコメントしている。

3週間ほど前には、「アナと雪の女王」続編で主人公エルサをレズビアンにしてほしいという「#GiveElsaAGirlfriend」運動が話題を集めたばかり。この時も、ファンの間で熱い論議が起こっている。この現象について聞かれたイディナ・メンゼルは、22日(日、)テレビ番組「Entertainment Tonight」に対し、「素敵なことよ。ディズニーは話し合わなきゃいけないわね。彼らに考えてもらうわ」と答え、どちらに決まったとしてもこの役を愛すると語っている。

ハリウッドでは、今年に入ってからとくに、人種の偏りや男女の賃金平等などが大きな話題になっているが、スクリーンにおけるLGBTのキャラクターの存在も、問題があるとされていることのひとつだ。GLAAD(中傷と闘うゲイ&レズビアン同盟)は、映画の中でLGBTがどう扱われているかについての今年の報告書で、2015年、ディズニーとパラマウントは、映画の中でひとりもLGBTのキャラクターを出してこなかったと発表。正しい形で描かれるLGBTの人物をもっと多く出すことをスタジオに対して要求している。

「アナ雪」も「キャプテン・アメリカ」もディズニーの作品で、スタジオのエクゼクティブにしても、こういった強い声が全然気にならないということはないだろう。しかし、アナの声を務めるクリステン・ベルは、つい最近のインタビューで、「続編の脚本は完成していて、まもなくレコーディングに入る」と語っているし、キャプテン・アメリカにしても、多数の熱烈なコミックファンがいる以上、そんな重要な部分を変えるのは、そう簡単ではないはずだ。とは言え、今の時代の人たちが何を望んでいるのかがわかったのだから、新しいキャラクターが出てくる新しい映画で、それをやってみせることはできる。次の映画でエルサにガールフレンドができなくても、またキャプテン・アメリカとバッキーが永遠に友達のままでも、別の映画で愛すべきレズビアンやゲイのキャラクターが生まれることにつながるならば、この運動は、何かをもたらしたということなのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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