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「ファインディング・ドリー」が全米で爆発的ヒット。1作目から13年がたっていても「不安はなかった」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

先週金曜日に北米公開された「ファインディング・ドリー」が、数々の記録を塗り替える大ヒットとなっている。

公開初日の金曜日の売り上げは5,500万ドルで、アニメ映画の1日の売り上げとしては史上最高記録。公開初週末3日間の興行成績は、西海岸時間19日(日)時点で1億3,600万ドルと推定されている(正確な数字は、西海岸時間月曜日に明らかになる。)アニメ映画の史上最高記録で、当然、ピクサー映画としても過去最高記録だ。6月の公開作品としても、昨年の「ジュラシック・ワールド」(2億880万ドル)に次いで、歴代2位。批評家受けも上々で、rottentmatoes.comによると、全米の95%の批評家が褒めている。

主人公は、2003年の「ファインディング・ニモ」で、いなくなってしまったニモを、ニモの父マーリンとともに探し出そうとするドリー。1作目ではドリーの背景が語られなかったが、今作で、ドリーは、自分の過去に想いを寄せ、両親を探す旅に出る。物忘れが激しく、さっき話したことも覚えていないドリーを心配し、今度は、マーリンとニモがドリーを探しに出かけるというストーリーだ。

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英語版でドリーの声を務めるコメディアンのエレン・デジェネレスは、自分のトーク番組で、以前からしばしば「ニモ」の続編をジョークのネタにしていた。「続編が作られる気配がまったくなかったからジョークにしたのよ。そうしたらついに続編ができることになって、それもなんとドリーが主役だったの」と、北米公開前にL.A.で行われた記者会見で、デジェネレスは、当時の驚きを振り返っている。

記者会見のエレン・デジェネレス(右端)
記者会見のエレン・デジェネレス(右端)

ドリーを主役にした理由について、監督のアンドリュー・スタントンは、「3D版公開の時に久々に『ニモ』を見直して、ドリーのキャラクターは、解決していないと感じた。彼女に関しては、ドアがまだ閉められていなかったんだよ」と打ち明けた。ドリーというキャラクターの魅力については、「マーリンは過去にとらわれていて、未来に不安をもっている。今という瞬間を生きられない。でも(忘れっぽい)ドリーは、今だけしか見ない。彼女は、子供のように、今見るすべてに喜びを発見する。究極の楽観主義者なんだ」と語っている。デジェネレスも同感だ。「ドリーの性格の要素のすべてを、私も欲しいと思うわ。彼女は他人のことを決めつけたりしないし、怒ったりもしない。被害者意識もない。何かが起きても、自分のことも、他人のことも責めずに、ただ泳ぎ続けるのよ」(デジェネレス。)

1作目との間に13年もの年月が流れたことに不安は感じなかったとスタントンは言う。「続編を見たいという意見は聞いたが、そう言われるから作るべきだとは思わないんだよね。この業界では、作品がヒットしたら、『できるだけ早く続編を作らなきゃ』という風潮がある。ちょっと時間がたってしまったら、『もう遅すぎる』みたいな。でも、時間がたったからこそ、良いタイミングだということもあると思う。たとえば『トイ・ストーリー3』もそうだったよね。『ニモ』はDVDも売れていて、誰の家にもあるし、長い時間がたっても、みんなが見に来てくれる可能性は高いと思った」(スタントン。)

スタントンの読みは正しく、公開前から「ドリー」には強い期待が寄せられていた。あまりに盛り上がったせいか、予告編に一瞬登場する人間の女性ふたりに関して、「ついにディズニーが映画にレズビアンカップルを登場させたか?」と、ソーシャルメディアで騒ぎが起きたほどだ。問題のふたりの女性は、下のアメリカ版予告編の、1分7秒目に登場する。

最近、「『アナと雪の女王』のエルサにガールフレンドを」とか(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160503-00057331/)、「キャプテン・アメリカをゲイに」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160525-00058032/)などという運動がソーシャルメディアで起きたばかりとあって、レズビアンカップルを出してくるには絶妙のタイミングではあったが、製作側は、とくにそういった意識はしていなかったようだ。レズビアンであることを昔から公にしているデジェネレスは、この件について聞かれると、「そんなこと、考えたこともなかった」と明かした。「昨夜、映画を見た時、そのふたりが出てくるシーンを見逃すまいと、注意を払っていたの。そうしたら、女性がふたり一緒に出てくるシーンがあって、そのうちのひとりが、すごくセンスの悪いショートカットだったのよ。センスの悪いショートカットを見たらレズビアンと決めつけるなんて、ひどくない(笑)?でも、よーく見ると、後ろのほうに、ゲイの魚が泳いでいるのよ。だから映画館に何度か足を運んで、じっくり見ることをお勧めするわ(笑)。」 

そんなジョークをすかさず飛ばすところはさすがデジェネレス。だが、最後はまじめな言葉で締めくくっている。「そういう会話が出ること自体は、素敵だと思う。映画は私たちの住む世界を反映しているべき。世界に存在する人々すべてが、そこに描かれているべきよ。だから、こういう話題が出るのは良いこと。ひどいショートカットだからレズビアンと決めつけられることが絡むとしてもね(笑)。」

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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