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カマラ・ハリス敗北に思う:ハリウッドセレブの支持は、無意味か、逆効果か

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
スーパースターのテイラー・スウィフトもカマラ・ハリスを支持したが…(写真:REX/アフロ)

 ハリウッドが、とてつもない絶望と悲しみに暮れている。

 大統領選でトランプの勝利が判明した現地時間5日朝、アレック・ボールドウィンは、ただ真っ黒な画像をインスタグラムに投稿した。言葉すら出ないというように。一方で、クリスティーナ・アップルゲートは、「女性の権利に反対する票を入れた人は、私のフォローをやめて。あなたたちがやったことは普通じゃないから。そういうフォロワーはいらないわ。それと、私は、ファンのためのこのアカウントを閉鎖する。本当に気分が悪い」と、X(旧ツイッター)で怒りをぶちまけている。その後、彼女は少し落ち着いたようで追加の投稿をしたが、ベッド・ミドラーは、トランプのキャンペーンを支えたイーロン・マスクが所有するXのアカウントを無言で削除した。

 カマラ・ハリスを公に支持し、キャンペーンに貢献したハリウッドセレブには、超大物もたくさんいる。その人たちはまだ何も発言していないが、8年前のデジャヴだということは、みんな感じているのではないか。

(アレック・ボールドウィンのインスタグラムより)
(アレック・ボールドウィンのインスタグラムより)

 そう、考えてみればみるほど、今回の状況は2016年に重なるのだ。

 トランプとヒラリー・クリントンの争いだった8年前の選挙では、ロバート・デ・ニーロ、ジュリア・ロバーツ、ジェニファー・アニストン、メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、レオナルド・ディカプリオをはじめ、200人以上の大物ハリウッドセレブがヒラリー支持を表明した。民主党全国大会ではその年に初めて選挙権を得たクロエ・グレース・モレッツが舞台に登場し、選挙が近づいた頃には「アベンジャーズ」の主要キャストが特別な動画を制作している。

 トップクラスのセレブに囲まれたヒラリーのキャンペーンには、知名度のずっと劣るひと握りのセレブにしか応援してもらえないトランプのキャンペーンに比べ、段違いの華やかさがあった。だが、肝心の勝利を手にしたのは、トランプだったのである。

テイラー・スウィフトの若い女性ファンは結局投票したのか

 今回のトランプ対ハリスの選挙でも、前回と同じ大物セレブがハリス支持を表明した。デ・ニーロはハリスのキャンペーン経由で有権者たちにハリスへの寄付を呼びかけるメールを送ったし、ロバーツ、ストリープ、ハサウェイらは、寄付金集めのイベントに出席。モレッツは、LGBTQの一因であることをカミングアウトしつつ、なぜハリスを投票するのかをインスタグラムの投稿で述べた。「アベンジャーズ」のキャストらも、ハリスの応援のためにまた集まっている。

 さらに今回は、テイラー・スウィフト、ハリソン・フォード、アーノルド・シュワルツェネッガーらが、ハリス支持を堂々と宣言したのだ。世界最大のスーパースターで、トランプもその影響力を恐れるスウィフトが発言したことのインパクトは、とりわけ大きかった。実際、スウィフトがインスタグラムでハリス支持を表明したすぐ後には、投票者登録の情報を提供するサイトへのアクセスが100%増えている。それらの人たちには、18歳から24歳の層が一番多かったという。

 にもかかわらず、民主党とハリウッドセレブは、今回もトランプに負けてしまったのだ。

 報道によれば、人種差別者として知られるトランプが黒人やラティーノ男性の票を獲得したのに対し、ハリスは頼りだった女性票を取り込めなかったとのこと。スウィフトのインスタグラムを見て投票者登録について調べた若い女性のファンは、結局、投票にしたのか、しなかったのか。

 大物セレブが発言すればニュースになる。それを知っているから、セレブたちは、自らの名声を、(彼らの信じる)より良い社会づくりのために使おうと、発言をする。だが、一般人は、好きなセレブの映画やコンサートは見ても、どちらの候補者に入れるかに関してとやかく言われたくないのかもしれない。ボールドウィンの真っ黒い画像のインスタグラム投稿には、「セレブが悲しんでいるんですか。かかわらなきゃ良かったんだよ。あなたが誰を支持するかなんて私たちは興味ないから」「彼女(ハリス)にはハリウッドがついていた。彼(トランプ)には私たちがついていた」というコメントも見られる。

 2020年のバイデン対トランプの選挙では、バイデンが勝った。とはいえ、今思えば、ハリウッドセレブらの支持のおかげはどれほどあったのだろうか。イベントに出席してもらえたりするので、寄付金を集める上では大きいだろう。だが、セレブの言葉に説得されてバイデンを選んだ有権者は、果たしてどれだけいたのか。

逆効果になる恐れを知っているジョージ・クルーニー

 今年6月、バイデンのための寄付金集めパーティをロバーツ、オバマ元大統領、ジミー・キンメルらと一緒に主催し、その後バイデンは選挙を降りるべきだとの意見記事を書いたジョージ・クルーニーは、最も熱心に政治にかかわるセレブのひとり。同時に、逆効果になりえることも知っている。

 彼の父でテレビジャーナリストのニック・クルーニーは、2004年、ケンタッキー州から民主党候補者として下院選挙に出馬した。最初は優勢だったのだが、メディアが“ジョージ・クルーニーの父”と呼び始めると、ライバルの共和党候補者が「この選挙はハートランド(保守的で伝統的な価値観が強いアメリカの中心部)対ハリウッドの戦いだ」と強調するようになり、最終的に負けてしまった。

 そこから学んだクルーニーは、2008年の大統領選でオバマを支持するにあたり、あまり表に出ないよう配慮したと語っている。今回彼は、バイデン下ろしに大きな役割を担ったが、それ以外に目立ちすぎることはしていない。もっとも、その必要はなかったというのもあるだろう。クルーニーが出なくても、あれだけたくさんのスターがこぞって出てきたのだ。

 そんなセレブ祭りの状況を見て、この大統領選を「ハートランド対ハリウッド」のように受け止めた有権者はいたのだろうか。それとも、そんなことはまるで関係なく、人はただ素直に自分の入れたい人に入れたのか。

 悲しみから少し立ち直れたら、4年後に向けて、分析し、考えてみたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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