Yahoo!ニュース

来季のチーム再建を託して、レッドソックスが「トレードの鬼」ドンブロウスキー氏に白羽の矢。

一村順子フリーランス・スポーツライター
ドンブロウスキー氏が野球運営部門のトップに就任。19日に就任会見が行われた。

レッドソックスが来季のチーム再建に向けて大きな一歩を踏み出した。19日(日本時間20日)に、本拠地のフェンウエイパークで野球運営部門のトップに就任したドンブロウスキー氏(59)の就任記者会見が行われた。ヘンリー筆頭オーナーから「今日は未来のレッドソックスにとって大切な日になった。チーム再建に必要な人材。戦力分析、スカウティング、育成計画など、チーム作りのためのあらゆる道具が詰まった道具箱のような存在だ」と紹介された同氏は、「レッドソックスのために尽力することは、この上なく名誉なこと。まずは、現状を把握することから始めたい」と抱負を語った。

今月4日にタイガースを電撃解任されたドンブロウスキー氏の獲得に迅速に動いたレ軍。13日にシカゴでヘンリーオーナーら首脳陣が会合を持ち、交渉を進めた。従来のGM職以上に権限を持つプレジデント・オブ・ベースボールオペレーションという新規の職を設け、編成全般の統括を委ねる。4年間GMに在職し、2013年のワールドシリーズ制覇に貢献したチェリントンGMが球団幹部から説明を受けたのは、その2日後。チェリントンGMは現職を退く意向を固め、ドンブロウスキー氏が新たなGMを招聘する形となる。

同氏は、ヘンリーオーナーが1998年にマーリンズを買収した際のGMで、前年の1997年にはワールドシリーズの優勝を果たしている。GM兼社長だったタイガースでは、低迷が続くチームを常勝軍団に改革し、06年と12年にワールドシリーズ出場を果たした。14年間の在職期間中には、幾つもの大型トレードを成立させ、サイヤング賞獲得のマックス・シャーザー、三冠王のミゲル・カブレラらトレードで獲得した選手が活躍するなど、選手を見る目に定評がある。

一方、今季、レッドソックスは大型契約を結んだ補強でことごとく失敗した。オフにFAでラミレス、サンドバルと2人併せて1億8000万ドルという巨額の投資をしながら結果が伴わず、年俸950万ドルの先発マスターソンは奇しくもこの日、契約を解除された。2019年まで年俸総額8250万ドルで契約延長した先発ポーセロは5勝11敗と大きく期待を裏切り、故障者リスト入りしている。2年連続で低迷が続くレッドソックスは、FA選手の見極めという課題でも、「トレードの鬼」の眼力に期待している。

さて、今回の人事は、編成理念のシフトチェンジという意味でも注目される。先物取引で財をなし、データ分析を得意とするヘンリーオーナーが球団を買収した02年に招聘されたエプスタインGM以降、バトンを受けたチェリントンGMもデータに基づく統計学を元にしたサイバーメトリクスを重視して、編成を行ってきた。その結果、04年から10年の間に3度のワールドシリーズ優勝を果たし、そのアプローチは成功したと言えるだろう。だが、ここ2年間のチーム構築は失敗に終わり、首脳陣はデータ重視の編成に“限界”を感じたのかもしれない。今回、野球運営部門のトップに座るドンブロウスキー氏はデータよりも、スカウティングを重視する“オールドスクール派”と言われている。

なぜ、サイバーメトリクスに基づいた編成が失敗するのか。あるア・リーグの球団幹部は「データだけでは、選手のここは測れない」と心臓を指差した。選手個々のハート。人柄。統率力や協調性など、地道に球場に足を運び、実際に選手を調査しなければ得られない情報もある。

例えば、エースは必要かという問題。昨オフ、レッドソックスは生え抜き左腕のレスター残留に本腰を入れなかった。長期大型契約となりコストが嵩むFA先発投手の補強に積極的ではなく、超一流でなくても、20代でそこそこの実績がある投手を集めてローテーションを乗り切ろうとしたが、失敗。この日ドンブロウスキー氏は「通常、エースは必要だ。連敗を食い止めるとか、長いイニングを投げて、ブルペンを休ませるとか、他の先発投手の重圧を減らすとか、一般に優勝チームには、そういう存在がいるものだ」と、精神的支柱となるエースが不可欠だという見解を述べている。FA選手がデータ以上に付加価値を高めるのは、そういった経験に基づいたリーダーシップなど、プラスアルファの要素がチームにもたらす効果を認めてのこと。今回の人事によって、チーム方針がオールドスクールに回帰する可能性もあるだろう。

編成の方針を問われたドンブロウスキー氏は「ボガーツやベッツら、若くて実力ある選手がコアになる。そこにどうベテランを組み合わせていくか。私はパワーピッチャーが好きだし、守備の重要性を感じている。コーナー(両翼)にはパワーある打者を置き、パワーとスピードの融合を図りたい」と話した。記者会見のひな壇にはヘンリー、ワーナー両オーナーとドンブロウスキー、今季限りで退任するルチーノ社長の後任に就任したケネディー最高執行責任者の4人が並んだ。「これが、2016年のフロント布陣だ」とヘンリーオーナーは、新時代の到来を宣言した。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

一村順子の最近の記事