結論: オンライン賭博は違法である
職業人としてカジノ合法化を迫ったり、風営法の改正を主張したりと、何やらもの凄くワイルドな人間と思われがちなところもありますが、私自身は少なくとも皆様と同程度、もしくはそれ以上の遵法意識を持った人間です。特に、私の専門性に関与するところで違法なことを行なっている人間に対しては非常に厳しいスタンスで望みますし、何よりもその違法行為を謎の論法で「正当化」する人間が大嫌いです。
一方、違法行為を正当化する人間は「グレーゾーン」という表現が非常にお好きなようで、法に違反する行為であってもそこに摘発事例がない、判例がないという一点のみを根拠にグレーゾーンを強弁する方々が沢山存在します。ただ、「過去の摘発事例がない」ということは、その行為が適法である事をなんら保証するものではない。それは、かつては己自身をグレーゾーンだなどと主張していた無許可営業の脱法ダンスクラブが、近年続々と摘発を喰らっていることをみればお判りのとおりでしょう。ま、最近では「法律の方が間違っている」などと、更に「開き直り」を大きく展開している方もおられますが…
これと同様に、賭博の世界にも当の違法行為を正当化する論者が沢山存在する業界があります。それが、オンライン賭博の世界です。この業界では、店舗を構えて客に海外のオンライン賭博サイトに接続をさせる業者(いわゆるインターネット賭博カフェ業者)の摘発がやっと行なわれ始めたという状態。一方で、家庭内PCからそれらにアクセスする形の賭博行為も世の中に横行しているものの、その捜査の難しさからか、未だ摘発事例はありません。ただ、繰り返しになるけれども、摘発事例がない事は、その行為が適法である事をなんら保証するものではないのです。
オンライン賭博を「正当化」しようとする方々が、頻繁に使う論法には基本的に二つのパターンがあります。
一 海外サーバーを経由して運営されるカジノは、日本人が海外旅行中にカジノをプレイするのと同様に国内法の適用は成されない。
二 賭博罪はそれを取り仕切る賭博開帳者とセットではじめて罪が成立するものである(必要的共犯という)。多くのオンラインカジノは、オンライン賭博を合法とする国において正規のライセンスを取得して営業をしているものであり、そこに日本国内からアクセスして行う賭博は必要的共犯が成立しないため罪とならない。
このような理論を展開しながら、消費者を自らオンライン賭博を運営するサイト、もしくはアフィリエイト契約を結んだサイトに流すことを生業としている方々が我が国には沢山存在していて、正確な市場規模推計は不可能なものの、一説にはすでに2,000~3,000億円もの市場が地下経済として形成されているとする論者も存在する状態です。私自身も含めて、我々日本の賭博業に関わる人間は、「職業人の責任」としてこれら違法な賭博行為に対して明確に「NO!」と叫び続けて行くことが一方で求められるわけであって、私自身もこのテーマに関しては過去に何度もブログ上で取り上げ、注意喚起を行なってきました。
ところが最近、非常に危機的な状況が生まれつつあるのが、我が国のカジノ合法化の波に文字通り「紛れ込む」形で、我が国におけるネット賭博の推進をしようとするグループが業界に乗り込んできているという実態。「我が国初のカジノメディア」などいうふれ込みで独自媒体の展開を行なうのは野心溢れるベンチャー企業のアプローチとして非常に結構なことだと思うのですが、カジノ議連に所属する議員へのインタビューなどを掲載する一方で、上で挙げたような論法でネット賭博の推奨を行い、さらにその横にオンラインカジノ業者の広告が載っているなどという状態は、ハッキリ申し上げて幾らなんでも「危なすぎる」でしょう。
明確に申し上げておかなければならないのは、我が国のカジノ研究者の中でオンラインカジノを適法であるなどとしている人間はほぼ居ないですし、現在の日本のカジノ合法化のお話はオンラインカジノ論議とは完全に切り離された形で進められています。オンラインカジノの推進を図る者達は、意図してそこを混同、若しくはリンクさせようとしているのでしょうが、そこのところは読者の方々には真にご理解頂きたいし、我々研究者は職業人の責任としてより広くその認知を広めて行かなければならない。
…という話をしていた所、最近一緒にカジノ制度研究を続けている渡邊弁護士(@三宅法律事務所)が「判例がないのならば、せめて政府の公式見解を引き出しましょうよ」と持ちかけてくれたのが数ヶ月前のこと。その後、弁護士出身の国会議員で、かねてより渡邊弁護士と親交のあった階猛議員のご協力を得て、以下の形で衆議院に質問主意書を提出する段まで至りましたのでご報告申し上げます。
賭博罪及び富くじ罪に関する質問主意書
刑法第百八十五条は、「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」と規定している。また、刑法第百八十六条第一項は、「常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。」と規定している。他方、刑法第百八十六条第二項は、「賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。」と規定している。
刑法第百八十七条第一項は、「富くじを発売した者は、二年以下の懲役又は百五十万円以下の罰金に処する。」と規定し、同条第二項は、「富くじ発売の取次ぎをした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」と規定し、同条第三項は、「前二項に規定するもののほか、富くじを授受した者は、二十万円以下の罰金又は科料に処する。」と規定している。
日本人が海外旅行の際に、カジノなどで賭け事をする行為は明らかに賭博行為に該当するが、違法ではない。これは、日本国民の国外犯処罰規定(刑法第三条)の対象となっていないからである。近時、海外にサーバを置いてインターネットのオンラインカジノを利用することにより、又は、海外のカジノをインターネット中継することにより、顧客に賭博をさせるインターネットカジノ店が、賭博罪又は常習賭博罪容疑で検挙されている。多くの場合、インターネットカフェを装い、暴力団の資金源となっている疑いが持たれている。
他方、インターネット上では、賭博罪は、「必要的共犯」であり、賭博開帳者と共に処罰される(刑法第百八十六条第二項参照)ことが前提であり、賭博開帳者が国外犯として処罰されないのであれば、その対抗犯である賭博罪は成立しないとして、「インターネット賭博カフェと異なり、自宅から海外で開設されたインターネットのオンラインカジノにアクセスして、賭博をするのは違法ではない」と説明をして、個人を相手として賭博をさせている業者もいる。
同様に、日本人が海外旅行の際に、海外の宝くじを購入する行為は「富くじを授受」する行為に該当するが(刑法第百八十七条第三項参照)、違法ではない。これは、日本国民の国外犯処罰規定(刑法第三条)の対象となっていないからである。インターネット上では、日本国内にいる者に代わって、海外の宝くじの購入を代行する業者がいる。このような業者には、実際には海外の宝くじを購入せずに、国内の顧客から代金のみを受領する詐欺行為を行うものも多いようである。
これらの事情を踏まえて、以下の点について政府の見解をうかがいたい。
一 日本国内から、インターネットを通じて、海外で開設されたインターネットのオンラインカジノに参加したり、インターネットで中継されている海外のカジノに参加することは、国内のインターネットカジノ店において参加する場合だけでなく、国内の自宅からインターネットを通じて参加する場合であっても、刑法第185条の賭博罪に該当するという理解でよいか。
二 上記一の「日本に所在する者」にサービスを提供した者には、国内犯が適用されるか。すなわち、海外にサーバを置いて賭博サービスを提供する業者にも、賭博開帳罪(同法第186条第2項)が成立し得るという理解でよいか。
三 賭博罪の成立要件とされる必要的共犯に関して、 共犯者の片方(賭博に参加する者)が国内、もう片方(賭博開帳者)が国外に所在する場合に共犯関係は成立し得るのか。片方を罰する事が出来ない(非可罰的な)状態にあっても、両者による共犯関係を立証することが出来ればもう片方の者の罪は成立し得るのか。
四 日本国内から、インターネットを通じて、代行業者を通じて海外の宝くじを購入する行為は、刑法第187条第3項の「富くじを授受」する行為に該当するという理解でよいか。
五 国内からインターネットを通じて、オンラインカジノに参加する行為や海外の宝くじを購入する行為が賭博罪や富くじ罪に該当し、禁止されていることを国民に周知するための政府広報をすべきではないか。
出所:衆議院-質問答弁
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a185017.htm
本質問主意書は、すでに内閣送付がなされ、答弁書の受領も行なわれている状態。恐らく数日中に政府としての公式見解が公表されることと思いますので、引続き本コラム上でもフォローをして行きます。