「名水百選」から大腸菌。そもそも「名水百選」の基準ってなに?
国の名水百選から大腸菌、水くみ場利用を一部停止
名水百選の1つ、北海道京極町の名水「ふきだし湧水」から微量の大腸菌が検出され、町は水くみ場の利用を一部停止しているというニュースがあった。
国の名水百選から大腸菌、水くみ場利用を一部停止…配水管交換へ
「名水」から「大腸菌」ということで「驚いた」という人が多かったが、実は「名水百選」のなかには飲用に適さないものもある。
では、そもそも「名水百選」とは何だろうか。
「名水百選」には1985年に選出された「昭和の名水百選」と、2008年に選出された「平成の名水百選」がある。
昭和と平成を合わせて200ある名水の内訳を見ると、以下のようになる(※富山市「いたち川の水辺と清水」は湧水、河川、地下水から、木曽郡木祖村「木曽川源流の里 水木沢」は湧水、河川から構成されているので内訳の合計は203になる)。
これを見ると、湧き水が138か所と7割近くを占める。そのほかは、河川が49か所、地下水が11か所選ばれているが、かわったところでは、用水が4か所、自噴水が1か所選ばれている。
河川のなかには、たとえば、宮城県を流れる「広瀬川」も含まれる。都市の中の清らかな水辺として愛されてはいるが、そのまま飲めるとは思わないだろう。
自噴水は、愛媛県の西条市の「うちぬき」。石鎚山系のふもとにある西条市は、その恩恵により古来より地下水が豊富で、日本でも珍しい地下水の自噴地帯となっている。自噴井は確認されているだけで約2000か所、湧出量は1日あたり9万トンに達する。生活用水、産業用水の需要を十分に満たしているので、中心市街地に上水道はない。
浅い所からも自噴するので、場所によっては管をさすだけで湧き出す。かつては、まず鉄の棒を地面に打ち込み、できた縦穴に、節をくり抜いた竹を差し込んで、わき上がる水をつかまえていた。この方法は江戸時代から昭和20年頃まで行われていたが、いまでは先端を加工し、根元に穴をあけたパイプを地下水層まで打ち込んで、水を導いている。
用水は、4つのうちの1つが、群馬県甘楽郡にある「雄川堰」。これは織田信長の次男信雄が、大阪夏の陣の功績により上州小幡2万石を与えられ、この地に陣屋を築いたときに整備したもの。人工水路として築かれたこの用水は、総延長20キロで3カ所に取水口を設け、陣屋地内・侍屋敷の間をぬっていく筋にも用水路をめぐらし、地域の人たちの飲み水、生活用水、灌漑用水として利用されてきた。
さて、湧き水、河川、地下水、用水、自噴水と形はさまざまで、飲めるものも、飲めないものもあるが、名水は各都道府県から1つ以上選ばれている。以下は昭和の名水百選をマッピングしたものだ。
なかには複数の名水が選出されている県もある。
昭和の名水百選、平成の名水百選を合わせると、いちばん多いのは8か所選出されている富山と熊本、それに次ぐのが7か所選出されている石川、山梨、長野、岐阜、鹿児島。いずれも「水どころ」として有名な県が並ぶ。
「名水」=「おいしい水」ではない
では「名水」の選定基準はどういうものか。「名水百選」には山麓に湧き出る湧水などもあるし、なかにはペットボトルに詰められ商品化された有名な水も含まれているので、「名水」=「おいしい水」と思っている人が多いかもしれないが、実は選定基準に「味」は入っていない。
そもそも選定の目的は、全国の清澄な水を紹介し、水質保全の意識を高めることだ。
選定の条件は、
1)水質・水量、周辺環境(景観)、親水性の観点からみて保全状況が良好なこと
2)地域住民等による保全活動があること
の2点を必須条件とし、
3)規模
4)故事来歴
5)希少性、特異性、著名度
などを加味して選ばれている。
たとえば、滋賀県の「十王村の水」は昔から清水として周囲の人々に大切にされ、水源のすぐ近くには地蔵堂があり祭祀が行われている。三重県の「恵利原の水穴」は伊勢志摩国立公園内の逢坂山の中腹に位置し、石灰岩の洞窟から湧き出している。この洞窟は天照大神が隠れ住んだという伝説がある。
これらの「名水」に行ってみると、水汲みをしている人の姿をよく目にする。その一方で、汚染が進み、大腸菌が検出されるなど、飲用には適さなくなっている水もある。
「名水百選」=「おいしい水百選」というのは誤解である。