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森林ボランティアが進める?森の少子高齢化

田中淳夫森林ジャーナリスト
スイス・エメンタールの多様な樹種樹齢の混ざった森。もちろん木材生産も行っている。

少子高齢化と言えば、現代日本の大問題である。世界に類を見ない速さで進行する高齢者人口の増加と、生れる子供たちの数の減少。この進行は国民の年齢構成をいびつにして、人口減と社会の活力減をもたらす。

だが、同じ少子高齢化が森林の世界にも広がっていることをご存じだろうか。

森林面積や材積(樹木の量)は増えているが、生えているのは高齢の大木ばかりに偏り、若木の少ない森林になりつつあるのだ。

少し前まで、森林保護といえば「木を伐るな」の大合唱だった。しかし、最近は「間伐をしよう」に変わりつつある。だが、この間伐のやり方に問題があるのだ。

まず、その対象には2種類ある。一つは人工林、もう一方は里山の雑木林だ。

人工林は、最初にたくさんの苗を植えるから、徐々に本数を減らしていく作業(間伐)をしないと、森林全体が健全に育ちににくい。木々も太らないが、枝葉が茂りすぎて林内に光が入らなくなるため、下草も生えなくなる。すると雨滴が直接地面を打ち、土壌を削って流れ出してしまう。だが、近年は材価が落ちたため伐採せずに放置する山が増えた。それでは森の若返りも進まず、資源の循環にも問題が出ている。

こうした事態を憂慮して、間伐の促進が訴えられている。官主導もあれば、森林ボランティア的な活動も広がってきた。が、ここで妙なことが起きる。

現在の間伐は、森を暗くしている大木を伐採するのではなく、曲がったり育ちの悪い木を伐ることが多いのだ。いわゆる劣勢間伐だ。劣る木を除き、育ちのよい木をより育てようという発想である。生長がよくまっすぐ伸びた木を残す方が木材としての価値も高まる。また間伐だから、伐採跡地に新たな苗を植えなくてすむ。

しかし、森林生態学的には間違っている。劣勢木は放置しても劣勢ゆえに生長を止めたり枯れていくから、優勢木の生長には影響を与えない。むしろ、他の木を被圧している優勢木を除くことで、林内に光を入れるべきなのだ。光が入れば、林床に草が生え土壌も守られるだろう。そして被圧された木も、再び生長することが期待できる。

一方、里山は常に人の手が入ることで維持されてきた自然だ。とくに雑木林は、薪や木炭、シイタケの原木、道具の材料などに一定のサイクルで伐採されることによって林内が明るい環境になる。主に落葉広葉樹が多いが、下草もよく生え、それらを餌にする昆虫や野生動物も多く生息する森が保たれてきた。ところが、近年は雑木林の木や草の利用が行われなくなり、老齢の大木が増えて暗い森に変わってきた。すると照葉樹などに樹種が変わるほか、草も生えなくなる。生息できる動物も減ってくる。

そんな里山の森を蘇らせようとする活動も行われている。行政だけでなく、ここでも市民などが間伐する森林ボランティアが増えている。ところが、人工林と同じような誤りを犯しがちだ。

素人が間伐すると、太い木を残して細くて背の低い木々や下草ばかりを刈ってしまうのだ。太い木を伐るのは危険なため、専門的な技術がないと無理という事情もあるが、立派な大木は伐りたくない、という心理的抵抗も強いようだ。

若木や草はブッシュになりがちだから、それを伐り開けば林内の見通しがよくなる。それで森を美しくしたと感じがちだが、実は人の手で後継樹を除去してしまったことになる。しかも林内は十分に明るくならず、草も生えない。

結果的に、現在の森林整備のやり方では、人工林も雑木林も高齢木ばかりを残し、森の次世代になる芽を摘んでいることになる。そのままでは樹齢のいびつな森林になってしまうだろう。もし、高齢木の寿命が一斉に尽きたら、あるいは強風や病害虫のため倒れたり枯れたら、その後に伸びる木が少ないのだから、森はなかなか再生しない。

ところでスイスには、有名なエメンタールの森がある。100年以上前から近自然の森づくりを行っていて、人が手を入れながら針葉樹も広葉樹も混ざった森をつくっている。

そこを訪れると、現地を管轄しているフォレスターは、巨木の森に案内してくれた。直径80センチを超えるようなトウヒやモミが、文字通り林立している。

が、フォレスターは言った。「この森は失敗の見本だ」。

なぜなら、高齢木ばかりを残して次世代の木が育っていないからだという。本来の森づくりは、多様な種類と樹齢が混ざるようにしなければならない。後で、そうした森にも案内してもらったが、それは天然林に近い生態系を持っていた。

日本の人工林も雑木林も、せっかく手を入れて美しく健全になるよう整備しようというのに、誤った方法では、少子高齢化を進めて本来の森の機能を失わせてしまいがちだ。

間伐など森の手入れは、今の森を見映えよくするだけではいけない。森林の未来をつくるために行うものなのだ。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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