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いまだに続く被災地の断水 水道民営化との関係は?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
「小さな水道」の取水口(著者撮影)

水道民営化だから災害発生でも整備されない?

 平成30年7月豪雨から3か月が経つが、広島県呉市の被災地ではいまだに断水が続いている。

 呉市安浦町では、公営水道が一部にしか敷かれておらず、地域住民が「小さな水道」を管理していた。

 施設の復旧には多額の費用がかかる。地域住民は支援を求めるが、呉市は「"民間の水道"の修繕に税金は使えない」としていて、復旧の見通しが立っていない。

 この「民間の水道」という表現が誤解を生んでいる。

 この場合、「地域住民が自主管理する水道」という意味だが、「民営化された水道事業」と勘違いされ、「水道が民営化されると災害が発生した際に整備されなくなる」などの声がネットに広がっている。

 一般的にはあまり知られていないことだが、水道は利用者数によって、名称が変わる。

 上水道は利用者数が5001人以上

 簡易水道は利用者数が101人から5000人。もちろん施設が「簡易」という意味ではない。それらは上水道と同一の基準が適用されている。全国簡易水道協会によると、全国には5133の簡易水道がある(2017年3月31日現在)。

 飲料水供給施設は給水人口50人以上100人以下。「水道法」では利用者数101人以上を「水道」と定義しているので、厳密には水道ではないが、水道に準ずる扱いを受け、簡易水道と同様、検査や補助を受けられる場合もある。

 簡易水道や飲料水供給施設以外にも、さらに利用者の少ない「小さな水道」が日本各地に存在する。

小さな水道(ろ過装置/著者撮影)
小さな水道(ろ過装置/著者撮影)

「小さな水道」が危機に瀕している

「人口減少や水道施設の老朽化から水道事業の持続性に黄色信号が灯る。その解決方法が民営化(コンセッション)」

 などと報道されることがあるが、そこには誤解がある。

 企業が運営権を欲しいのは、規模の大きな水道事業だ。そうでなければ企業は利益を上げられない。

 「小さな水道」はもちろん民営化(コンセッション)の対象にはない。だが事業の持続性がより危ういのは「小さな水道」のほうである。

 まず、簡易水道について話をしよう。

 水道事業はコストを原則、住民から集める料金でまかなう建前だが、簡易水道は国の補助金や市町村の一般会計からの繰入金で支えられる割合が高い。

 なぜか?

 簡易水道は、農山漁村など、小さな集落に給水することを目標に建設された。

 水道事業を採算という点で考えた場合、1つの目安となるのが、水道管の長さに対する利用者の人数である。

 東京など大都市には水道管1キロ当たりに1万人が暮らすが、地方都市では1000人、過疎地では100人以下となる。

 簡易水道の敷設された地域は、そもそも人口密度が低く、1戸当りの配管延長が長い。財政的、地形的に水道の建設に不利な地域である。こうした地域にも水道を普及するために、国が補助金を交付してつくられた。

進まない簡易水道の統合

 現在、政府は、簡易水道の経営基盤強化に向け、上水道や簡易水道同士の統合を進める。

 統合の考え方は主に、水道設備を接続するハード面の統合、経営基盤を1つにするソフト面の統合がある。

 たとえば、岡山県新見市の場合、中心部は上水道が敷設されているが、周辺部に25の簡易水道がある。

 人口減で料金収入は今後も減少、一方で、老朽した施設の更新など、巨額な経費が見込まれる。

 そこで、金の出入りのみ記録する単式簿記で特別会計の簡易水道を、財政実態がより詳細に把握できる複式簿記で公営企業会計の上水道に移行し、水道料金を統一する方針だ。

 しかし、全国的に見ると統合は難航している。

 ハード面での統合は、地理的な面での難しさがある。中山間地では統合のメリットが出にくいことが多い。山村で低い場所から高い場所へと水道菅を通せば、水をポンプ圧送するエネルギーコストがかかることになる。

 ソフト面での統合には料金への不満がつきもの。料金を統一すると、料金が上がる地域から不満が出る。

 また、別荘地などの水道を、住民の負担で支えることに理解を得られないこともある。

 たとえば、長野県千曲市の樺平地区は、水道料金が日本一高い。1970年代、約20ヘクタールに231区画の別荘地ができ、当初は1250人の利用者を想定し、総延長7・7キロの水道管と配水池2カ所などを備える簡易水道が引かれた。

 しかし、リゾート開発が頓挫し、実際に建築されたのは18区画。簡易水道の利用者も8戸に過ぎない。このため水道料金は10立法メートルで6535円と、当初の3倍超に上がった。水道料金が最も低い地域の1つ鹿児島県三島村(300円)との差は22倍だ。

「小さな水道」を切り捨てるな

 

 深刻なのは簡易水道よりも、さらに「小さな水道」だ。

 呉市の被災地域のように、地域住民が組合などをつくって自主管理するケースも多い。

小さな水道(著者撮影)
小さな水道(著者撮影)

 取水施設は整備から数十年が経過し老朽化が目立ち、人口減少で組合の収入も減少。加えて水道管の埋設状況も管路図が残されていないケースもあり、今後の管理に不安が残る。

 このように「小さな水道」の持続性は難しいのだが、簡易水道設立の精神を考えると、「経済性」というものさしだけで考えるべきではない。

 山間部等に分散した施設の統廃合は、管路施設のコスト増大をまねくだけでなく、運用時の環境負荷やリスク分散の視点でマイナス面もある。

 人口減少により給水区域の再編や廃止等が予測される場合は、地域特性に応じたあらたな分散処理システムが提供される必要がある。

 その際、効率的な監視業務や保守点検業務が重要だ。

 「小さな水道」の多くは、維持管理を地元の組合が行うことも多いため、

  •  できるだけ構造が単純で管理の手間が少ない
  •  ポンプ等の動力を使用しないで自然流下とする
  •  できる限り薬品類を必要としない施設とする

などの条件が必要。

 もちろんなるべく低廉な施設が選ばれるべきだが、それでも住民の負担が大きいときには、地域福祉の観点から補助が必要だ。

 また、維持管理についても高齢化が進んでいることから、住民にすべてを任せるのが難しいケースも増えている。自治体が主体となって共助できるしくみを構築する必要があるだろう。

 「小さな水道」は、施設とその管理において、分散化と統合化を地域特性に適したかたちで構築していくべきだ。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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