一向に無くならないペダル踏み間違い暴走事故。衝突被害軽減ブレーキは、そのとき何をやっていたのか!?
昨年8月、札幌市でアクセルとブレーキの踏み間違いを犯し、市街地を130km/hの速度で走って死亡事故を起こした80歳の女性が”過失運転致死傷”の疑いで書類送検されたとのニュースが先日報道されました。
事故を起こしたクルマは、トヨタの現行型アクアです。このクルマには、トヨタ最新の安全運転支援システム”Toyota Safety Sense”が標準装備されており、衝突が避けられないと判断されると緊急ブレーキが作動する”プリクラッシュセーフティ”システム(衝突被害軽減ブレーキ)が搭載されています。
にもかかわらず、当該車両は自転車を跳ねた後も暴走し続け、最後はクルマ6台を巻き込んだ衝突事故を起こしています。このとき、衝突被害軽減ブレーキは、いったい何をやっていたのでしょうか?
答えは「作動を停止していた」です。
「そんな馬鹿な!」と思うかもしれませんが、衝突被害軽減ブレーキは、作動中にドライバーがアクセルを踏んだり急ハンドルを切ったりすると、「ドライバーが必要な回避操作を行ったから、それを邪魔してはいけない」と判断して作動を停止する”ドライバー・オーバーライド”という機能が備わっているのです。
ですから、せっかく衝突被害軽減ブレーキが作動しても、ドライバーがブレーキとアクセルを踏み間違えてアクセルを全開にすると、ドライバーの操作を優先して作動を停止してしまうのです。
これはトヨタに限ったことではありません。国土交通省が進めている先進安全自動車(ASV)推進計画において、”運転支援の考えかた8項目”として「ドライバーがより安全に向かうように操作する場合に、ドライバーによる操作がシステムの制御をオーバーライドできること」と定められており、各自動車メーカーは、これに従っているにすぎないのです。
しかし、衝突被害軽減ブレーキが作動するような状態に陥った時、いったいどれだけのドライバーが、アクセルを踏んで衝突を回避できるでしょうか(僕は自信ありません)。むしろ、衝突事故の被害を少しでも小さくするには、運動エネルギー(質量×速度)を可能な限り減らすことのほうが有効なのではないでしょうか。
実はトヨタは、この点でも一歩踏み込んだ対応をすでに始めています。衝突被害軽減ブレーキが作動した際にアクセルが全開にされても、対車両なら10〜30km/hまでの速度域、対歩行者および自転車なら10〜80km/hの速度域であれば、衝突被害軽減ブレーキを解除しないという制御を導入しているのです。
当該事故の車両にも、この制御は組み込まれていましたが、暴走し始めた時の速度が約50km/hで、その後130km/hまで加速したとのことですから、上記の速度域を外れてしまい、事故に至ったものと思われます。
そこで提案したいのが、ドライバー・オーバーライド機能を有効にするか否かをユーザーが選択できるようにすることです。「無効にする」を選択することで、速度にかかわらず、アクセルが全開にされても衝突被害軽減ブレーキが作動し続けるようにするのです。
あるいは複数のドライバーで1台のクルマを使用する場合、特定のスマートキーでエンジン(または電気駆動システム)を始動すると、自動的に「無効にする」に切り替えるという方法もあります。これもトヨタは似たようなことをすでに始めており、”プラスサポート”専用のキーで始動すると、停止〜約30km/hまでの速度域でアクセルが不自然に深く踏まれた場合、障害物の有無に関わらず加速を抑制するという有償サービスを用意しています。それができるのですから、ドライバー・オーバーライドの有無を切り替えるのも、技術的に困難なことではないでしょう。
国交省の指針が策定されたのは20年以上、前のこと。当時と比べれば、衝突被害軽減ブレーキの信頼性は大幅に高まっているのですから、そろそろ見直すべきなのではないでしょうか。