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宗山塁と山縣秀。秋の天王山・早明直接対決はショート2人の守備にも注目

上原伸一ノンフィクションライター
10月19日から始まる早明戦は天皇杯の行方を左右する大一番になる(筆者撮影)

宗山は「シルク」で山縣は「コットン」

明日(10月19日)から始まる早稲田大学対明治大学のカードは、秋の東京六大学リーグ戦の天王山だ。両校とも3カードを終え、6勝1敗1分で勝ち点3。首位で並んでいる。優勝争いが早大と明大に絞られたなか、この直接対決は、どちらにとっても絶対に落とせない大一番である。

両校は投打の成績も拮抗している。チーム防御率は、明大が1.38(リーグ1位)で、早大が1.77(リーグ2位)。チーム打率は、早大が.310(リーグ1位)で、明大が.305(リーグ2位)である(いずれも3カード終了時点)。

ともに守備力も高い。失策数は明大がゼロ(リーグ最少)で、早大は2番目に少ない3だ。堅い守りが投手陣を支え、攻撃のリズムを作っている。

この守備力を引っ張っているのが、早大は山縣秀(4年、早大学院)であり、明大は宗山塁(4年、広陵)だ。2人は同じ内野の要・ショートが定位置だが、タイプは全く違う。

かつて往年の名ショート3人について、阪神・吉田義男は「絹」、西鉄・豊田泰光は「木綿」、巨人・広岡達朗は「麻」と評された。それになぞって言うなら、宗山は「シルク」(絹)のような滑らかさがあり、山縣の守備には耐久性に優れる「コットン」のような力強さがある。

経歴も、宗山は1年春からリーグ戦に出場した「エリート」に対し、山縣は「叩き上げ」の選手だ。

大学で野球を続けるつもりはなかった

そもそも山縣は、付属校から早大に内部進学しても、野球部に入るつもりはなかった。「名門」でやれる自信がなかったからだ。ただ高校時代から、守りには定評があった。山縣がいた早大学院と対戦したことがある日大二高の齊藤寛文監督は「当時からずば抜けていましたね」と振り返る。

早大入学後、その守備力は小宮山悟監督の目にも留まった。1年秋にAチームに昇格すると、2年春にはリーグ戦デビュー。同秋にはショートのポジションをつかんだ。

山縣は小学時代、器械体操のスクールに通い、中学時代は学校のバドミントン部にも所属していた。器械体操で培ったボディバランスと、バドミントンで養ったフットワーク。守備でも必要とされる2つの要素は他競技で育んだ。

ここまでリーグ戦には通算57試合出場して、トータルの失策数はわずかに3。球際(捕れるか捕れないかギリギリのところ)にも果敢にチャレンジしてのこの数字である。

今春のキャンプは、1センチでも2センチでもいいから、自分が捕れる限界を広げようと、泥だらけになりながらノックを受けた。ウエートトレーニングにも力を入れ、アンダースローのように腕を下げた位置からも正確に送球できるようになった。          

春のリーグ戦では課題としていた打撃力も向上。リーグ4位の打率を残し、初のベストナインに選出された。大学日本代表にも選ばれ、ここでもショートを守った。高校で野球はやめるつもりだった選手が、大学ジャパンの一員になり、プロ志望届を提出する。叩き上げの山縣は、サクセスストーリーを描いた。

10月13日のリーグ戦。3連休の中日で好天にも恵まれ、多くの観客が神宮に訪れた(筆者撮影)
10月13日のリーグ戦。3連休の中日で好天にも恵まれ、多くの観客が神宮に訪れた(筆者撮影)

難しい打球でも必ずストライク送球

宗山は、山縣とは対照的な「野球ロード」を歩んできた。春夏通算52回の甲子園出場を誇る広陵高では、1年夏からベンチ入り。同夏に初めて甲子園の土を踏むと、2年春の選抜では正遊撃手としてプレーした。

明大では4年春こそ、故障が原因で不本意な成績に終わったが、ラストシーズンとなる今秋は、田中武宏監督がよく口にする「振ればヒットになる」、宗山本来の姿が戻って来た。3カードで、すでに15本のヒットをはなち、リーグ戦通算安打を113まで伸ばした。同じショートとして活躍した早大・鳥谷敬氏(元阪神タイガース)の記録まであと2本と迫っている。今秋のドラフトの最注目選手であり、すでに広島東洋カープは1位指名を公言している。

ここまで無失策の守備も相変わらず軽快だ。宗山はどんな打球に対しても、力むことなく、捕りやすいところにグラブをそっと出す。いや、グラブ面を打球が来るところに置いている感じだ。そこに寸分の狂いもない。まるで体内にセンサーが内蔵されているようだ。

送球も正確だ。筆者は宗山が1年時から、明大の試合をほとんど見ているが、高投や低投したのを見た記憶がない。難しい打球を処理しても、滑らかな動きで、一塁手が構えた姿勢で捕球できるストライクを投げる。

宗山のすごさを感じたのは、あるエラーだ。さほど難しくない低いゴロに対して、いつものようにグラブを出したが、打球はグラブの下を抜けて行った。むろん、エラーであることには変わりがない。だが、ただのエラーとは別次元の、一連の流れが体の中で計算され尽くされているがゆえのエラーに映った。

小宮山監督も田中監督も守備を重視する指揮官だ。両校とも投手の層が厚く、攻撃力も高いが、試合での守備の影響力を熟知している。その守備を2人の名手がどのように大一番でけん引していくか。そのあたりにも注目したい。

ノンフィクションライター

Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。

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