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大人の日帰りウォーキング 頑張るのはやめて良し 健康が気になるアラフィフ世代に必要な運動の習慣とは?

わか子ライター

少し、休憩しようよ。
そう言いながら、運動が苦手な晴美さんの足は公園のベンチに一直線に向かっている。一緒に歩いている明子さんも迷いもなく後ろに続き、2人はそろって公園のベンチに座る。

朝からどれくらいの距離を歩いたのかな?
タオルで汗を拭きながら晴美さんが言った。晴美さんは、私の元同僚で今回の街道ウォークの発起人。1年程前に糖尿病と診断され通院中である。明子さんは、晴美さんの友人で街道ウォーキングに興味があると言い、一緒に歩いている。私を含めて三人のおばさんは、東京日本橋を出発して旧東海道を歩き、ようやく最初の宿場である品川宿までやってきた。

旧東海道 品川宿交流館本宿お休み処(品川区北品川2丁目)
旧東海道 品川宿交流館本宿お休み処(品川区北品川2丁目)

どれくらい歩いたかな。二つ目の一里塚は過ぎたから8kmか9kmぐらいになるかな。三つ目の一里塚まで行ければと思っているけれど大丈夫そう? 
一里塚とは、五街道が整備されるときに一里毎に造られた塚。一里の距離は4km弱(3.927km)であり、江戸時代の旅人は一里を一時間で歩いたと言われている。実際に歩いてみると、時速4kmで歩けなくはないが、何時間も歩き続けるのはかなり大変な速さである。

えー、あと4kmも歩くなんて無理だよ。
晴美さんがそう言い、となりで座っている明子さんが大きく頷いている。
今朝、明子さんは日本橋を出発する前に「晴美さんより歩けると思う」なんてマウントしていたけれどね。余計な事を言わなければ良かったのにと思うと共に、自分にとって都合が悪い事を忘れる能力も高そうだと感じている。そんなことを思う私の心はブラックになってきたかもしれない。
街道ウォーキングは距離が長いので体力が要ることは、明子さんの想像以上だったようだ。

旧東海道品川宿 街道松の広場(品川区南品川1丁目)
旧東海道品川宿 街道松の広場(品川区南品川1丁目)

私も座ろうか。
座っている間に少しでも蒸れた足を乾かそうと、靴と靴下を脱いだ。長い時間を歩き続けると足が蒸れるので、休憩中は靴を脱ぐ。気持ちが良くてさっぱりするし、気になる匂い対策にもなる。いくら自分の足でも、臭い足の匂いを嗅いでしまうと意識が無くなりそうになる。私が靴を脱いでいるのを見て、晴美さんと明子さんも靴を脱いでいた。
2人の様子では、特に足にトラブルはなさそうだ。私も大丈夫そう。長い時間を歩く街道ウォークでは足のトラブルが起こると歩けなくなることもある。カットバンなどで応急処置をしても、痛めた足と、長く歩いた疲労が溜まっている足の合わせ技では、自宅に帰るのも大変になってしまう。

小腹が空いた、おにぎりを食べよう。
私はリュックの中から自宅で作ってきたおにぎりを取り出した。もちろん、暑い季節では保冷バックに入れている。少し溶けている保冷剤を取り出して首からかけているタオルに巻き込むと、首の後ろが冷えて気持ちが良い。
コンビニのおにぎりも好きだだけれど、一個が小さいし、値段も高くなった。具にもよるが、おにぎり1個で150円もする。街道歩きは歩くだけだけれど、長時間になるとかなりお腹が空く。街道ウォーキングでも、登山でも、歩く旅の途中で休憩して食べるおにぎりは、格別に美味しいと感じるのが不思議だ。今日の具は鮭で、味付けは塩のみ。海苔は後から巻いてパリッとしたおにぎりも好きだけれど、直まきのしっとりしたおにぎりも好き。

以前、海苔はパリッとしていなければ食べないと言う人と、海苔討論をしたことを思い出した。パリパリ海苔派は少しでもしっとりした海苔は食べないと言う。おにぎりはもちろん、海苔弁当の海苔、ざるそばの海苔、ラーメンに乗っている海苔は、注文するときに海苔抜きをお願いすると言う徹底ぶりを主張した。海苔抜きの海苔弁当は、もはやのり弁とは言わないのではないかと、突っ込みを入れたくなる。チーズ抜きのチーズバーガーだ。そして、何かの間違いで海苔が乗ってしまっていればすぐに救出するらしいが、ざるそばの海苔の救出は困難を極めると言う。確かに、細切り海苔は大変だと思う。
好みは人それぞれだけれど、しっとり海苔も食べられる私は食の楽しみが増えて幸せだ。

大きめサイズのおにぎりを口いっぱいにほおばりながら、いつも思う。世の中にこんなに美味しい物があったのか。運動して食べるおにぎり程、美味しい物はない。
美味しいは、幸せだ。
私1人だけが、むしゃむしゃとおにぎりを食べて自分だけの世界に浸っていた。

まずい、ここは気遣い、心遣いだ。
お菓子があるよ。食べない?二人に声をかけた。歩く旅に出る時は、何かしらの食べ物を持参するようにしている。腹が減っては戦が出来ぬではなく、足が動くのを拒否してしまう。そして、道中でおにぎりやおやつを食べるのも楽しみの1つだったりする。
しかし、お昼に蕎麦屋さんでお腹いっぱいに食べた2人は、まだおなかが空いていない様子だった。もう少し休憩したら出発しようか。

これは大きいわ。
再び歩き始めていたおばさん三人は、旧東海道沿いにある品川寺の前で思わず立ち止まって声が出た。目の前には、自分たちの身長をはるかに超える巨大なお地蔵様があった。
お地蔵様は小さいイメージがあるよね。これだけ大きいと、もはや、お地蔵様にみえない。大仏様だね。
おばさんは、足が疲れても、口は疲れないものである。

旧東海道 品川寺(品川区南品川3丁目)
旧東海道 品川寺(品川区南品川3丁目)

旧東海道沿いにある品川寺。江戸六地蔵と言われているお地蔵様の一体がここにある。京都の六地蔵に習い、江戸の入り口の六ケ所に安置されたというお地蔵様は、1700年に入った江戸中期に作られている。品川寺のお地蔵さまが一番古く1708年に作られているので、2023年の315年も前になり、高さは2.75mもある。
六体あるお地蔵様の内、五体は現存しており、ここ東海道の他、中山道、甲州街道、奥州街道(日光街道)の五街道と、水戸街道の入り口にある。千葉街道にあった六番目のお地蔵様だけは、明治元年の神仏廃止例により、置かれていた江東区の永代寺が廃寺となり取り壊されてしまったという。

江戸六地蔵 左上:甲州街道 右上:水戸街道 左下:中山道 右下:東海道(※奥州街道の写真未)
江戸六地蔵 左上:甲州街道 右上:水戸街道 左下:中山道 右下:東海道(※奥州街道の写真未)

二人は、順番にお地蔵様の前に立って写真を撮っている。疲れたと言っていた二人だけれど、観光客気分で楽しそうに見える。ま、良いか。

一瞬、思ったけれど、良くない。
きっと、この先へと歩き出せば口から出る言葉がある。今でも耳に入ってきそうだ。二人が言う言葉は「もう無理~」か、「歩けな~い」だろう。おばさんが可愛く言っても可愛いと感じるはずはなく、私のブラックに傾きつつある心に、追い打ちをかけるだけだ。だとしたら、ここは何も言わないで、そっと終了するコースに変更した方が、少しでもホワイトにもどれる。
晴美さんは、運動が苦手なのにここまでよく頑張ったと思う。
明子さんも、運動習慣がないと言っていたけれど、よく頑張ったと思う。思ったことをすぐに口から出しすぎてはいたけれど、歩き疲れたともすぐに口に出していたけれど。しかし、むきになりすぎたり、意地を張ったりすることはなかった。そうなってしまうと心配にもなるし、気も使う。気を遣うのが一番疲れてしまう。

アラフィフである年齢になれば、頑張っていても若い頃の体力は無い。体は正直である。ここで、無理をしたり、意地になったりして頑張りすぎると、どうしても体に影響がでる。疲れが残るし、ケガでもしたら大変だ。若い頃ではケガとは無縁でも、加齢によりどうしてもケガをしやすくなってしまっているし、治癒力も若い頃より落ちている。
そして、何より趣味は楽しむものである。
当初は、この先にある「鈴ヶ森刑場遺跡」を越えて、三里目の「大森の一里塚」までの12kmのコースと考えていたけれど、また今度で良い。街道歩きはいつでもできるし、歩いている途中でコースを変更できるのが良い所だ。
今日のコースを楽しく歩けていたならば、次のコースも歩きつなぎたくなるはず。歩く事は健康になるのは事実だけれど、同じ歩くなら楽しい方が良いに決まっている。

江戸東京日本橋を出発したのは9時30分、ここから最寄りの青物横丁まで歩くと14時頃になるだろう。休憩も含めた移動時間が4時間半、歩いた距離は10km程で、普段の生活ではこれだけの距離を歩く事はほとんどない。
同じ距離を電車で移動するならば、日本橋から東京駅まで歩き山手線か京浜東北線に乗る。そして、有楽町、新橋、浜松町、田町、高輪ゲートウェイ、品川で乗り換えて京急で三駅目の青物横丁まで来ている。東京駅から数えて9駅目になる。この辺りの駅と駅の間の距離は短いけれど、電車で移動したら移動時間はたったの21分(東海道線利用)料金は314円である。毎回の事であるが、これを計算すると心の中が微妙な感じになるのは私だけであろうか。

おばさん三人は、お地蔵様を後にして最寄りの京急本線青物横丁駅に向かった。駅までの300m程を歩く様子では、まだ元気がありそうに見えるけれど、明日は三人とも筋肉痛になるのはすでに決まっている。おばさんには、加齢とともに未来が予測できる。
そして、青物横丁駅の東口に着いた。ホームへ向かう階段にエスカレーターが無いことに気付き、この世の終わりとも思える顔をしながら、エスカレーターがある正面に入り口にまで行く気力は無い。のろりのろりと階段の隅を一列になって登るおばさん三人は、階段を登り切ったら冷たいジュースを飲もうと、心に決めている。私はデカビタCが飲みたい。

今回、歩いたコースはこちら

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ライター

東京都在住のおばさんです。子育てが落ち着いてきた頃より趣味で登山や街道歩き等を始めました。歩く旅は大変だというイメージがありますが、歩く事で解る楽しみもあります。実際に歩く旅をして、歩く旅の楽しさをお伝えしたいと思っています。

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