宇宙一高密度な銀河がヤバイ…新発見で未解決の謎も解明!
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「宇宙一高密度な銀河と、その謎の解明」というテーマで動画をお送りしていきます。
●超コンパクト矮小銀河(UCD)
観測技術の進歩により、これまで多くの種類の銀河が発見されてきました。
そんな多種多様な銀河を含む、あらゆる星の集団の中で特に高密度な天体として知られるのが、「超コンパクト矮小銀河(Ultra-Compact Dwarf galaxy, UCD)」です。
UCDは、大きさの割に非常に大きなブラックホールを持っている傾向があります。
このことから、UCDは過去に巨大だった銀河が別のより巨大な銀河との衝突など、何らかの原因で銀河の核だけが残った姿であると考えられています。
なので、例えば地球からおとめ座の方向に6000万光年ほど離れた、1000個以上の銀河が密集した「おとめ座銀河団」など、銀河が密集していて銀河同士の衝突が激しい領域ではこのようなUCDが多く見つかる傾向があります。
●UCDの代表例「M60-UCD1」
そんなUCDの中でも特に星が密集した銀河に、おとめ座銀河団に属する、「M60-UCD1」という銀河があります。
M60-UCD1の背後に映っているのは、4000億個もの星を含む直径が12万光年の巨大な楕円銀河である「M60」です。
M60-UCD1はこのM60と約100億年前に衝突し、周囲の星々を奪われ超高密度な銀河核だけが残り、現在のような姿になったと考えられています。
M60-UCD1は直径が約300光年と、直径約10万光年の天の川銀河の400分の1程度しかない本当に小柄な銀河です。
銀河の分類は異なりますが、直径自体は背後のM60と天の川銀河が似ているので、その差は歴然です。
この小さな領域内に実に1億4000万個もの恒星が密集していることが知られています。
M60との衝突前には100億個もの恒星を持っていたとも言われているので、本当に超高密度の中心部しか残らなかったことになります。
これだけ高密度な世界なので、仮にこの銀河の中にある恒星の周囲に惑星があったとしたら、その惑星の夜空からは100万個もの星が肉眼で見えるそうです。
参考までに地球上の夜空から肉眼で見える恒星はせいぜい4000個程度です。
この銀河からはその250倍の星が見えることになります…もはや夜でも明るすぎて寝ることができないかもしれません。
○M60-UCD1のブラックホール
そしてこのM60-UCD1は、星の数の割に銀河全体の質量が大きいことが知られていました。
このことから、中心にはかなり質量の大きなブラックホールが存在するのではないかと疑われていました。
そこで中心のブラックホールの質量を計測するために、M60-UCD1を構成する星々の運動を調べたそうです。
地球から5000万光年以上も彼方にある銀河の、星々の動きまで観測できる現在の技術は本当にすさまじいです…
詳細な観測の結果、なんと銀河の中心部に太陽の2100万倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが発見されたと、比較的最近の2014年に発表されています。
比較として天の川銀河の中心部にあるブラックホールいて座A*は、太陽の430万倍ほどの質量を持っています。
M60-UCD1は天の川銀河よりはるかに小柄であるにも関わらず、中心のブラックホールは5倍も重かったのです。
銀河全体の質量のうちブラックホールの質量が占める割合の話でいうと、天の川銀河の総質量はM60-UCD1の1000倍程度あり、銀河全体のうち中心のブラックホールいて座A*の質量はわずか0.01%以下です。
それに対してM60-UCD1の場合、銀河全体の総質量のうち中心ブラックホールだけでなんと15%を占めています。
元々は100億個もの恒星を束ねる巨大銀河であったというのも納得できる、超大質量のブラックホールです。
M60-UCD1は最終的にM60と合体し、一つの銀河になると考えられています。
M60の中心には太陽のなんと45億倍にも相当する超特大のブラックホールがあるので、合体よりかは吸収されるといった表現が近いかもしれません。
○さらなる高密度銀河も…
M60-UCD1で超大質量ブラックホールの質量が判明した翌年の2015年には、M59-UCD3と、M85-HCC1というさらに高密度な可能性のある2つの超コンパクト矮小銀河が発見されました。
M59-UCD3はM60-UCD1とほぼ同じ大きさですが、前者の方が4割ほど明るいそうです。
M85-HCC1はさらに小さい代わりに星の密度はこれらの約100倍にもなるそうです。
●UCDの形成メカニズムが判明!
これまで紹介してきたような超高密度銀河であるUCDは、25年近く前に初めて発見されて以来、中心部に高密度の星団を抱える矮小銀河が、より巨大な銀河との衝突によって外側の星々を剥ぎ取られた結果残った、中心部の残骸であると予想されていました。
しかしそれを証明するためには、矮小銀河がUCDとなるまでの途中過程にいる銀河(以下「進化過程の銀河」)を実際に観測し、進化の途中段階を全て埋める必要がありました。
そんな中、国際的な天文学者たちの研究チームは2023年11月、ハワイのマウナケア山頂にある「ジェミニ北望遠鏡」を使い、おとめ座銀河団から「進化過程の銀河」を106個発見し、UCDの形成メカニズムを解明したと発表しました。
研究チームはまず、同じくマウナケア山頂にある「カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡」による撮影で事前に得られていた、おとめ座銀河団の方向の観測データから、数百個もの「進化過程の銀河」の候補を発見しました。
しかしそれらが実際におとめ座銀河団内にある「進化過程の銀河」なのか、もしくは遥か遠方にあるより巨大な普通の銀河なのか、その時点では判別ができませんでした。
そこで研究チームは、ジェミニ北望遠鏡による分光観測を行うことで、赤方偏移の情報から、数百個の候補天体の地球からの距離を測定し、おとめ座銀河内に存在する「進化過程の銀河」を106個特定しました。
これらの銀河は、中心部に高密度な星団を抱える矮小銀河と、さらにずっと小さな超コンパクト銀河(UCD)の中間的な大きさを持っています。
さらに、これらの銀河が存在する場所や、見た目の色などの特徴が、より巨大な銀河によって星を剥ぎ取られている銀河が持つ特徴を一致しています。
これらのような理由から、新発見の106個の銀河が今まさに矮小銀河からUCDへと進化する途中過程にいる銀河である可能性が高いことがわかりました。
○具体的な進化の段階
新たに発見された銀河を進化の段階順に並べると、以下のような具体的なシナリオが浮かび上がります。
まず中心部に高密度な星団を抱える矮小銀河が、M 87などのより巨大な銀河からの潮汐力によって星々を奪われます。
すると、中心部以外の星の分布が非常に低密度な「Ultra-diffuse galaxy(超淡銀河)」が形成されます。
さらに星々が奪われると、より中心核が際立った矮小銀河が生成されます。
その後「淡い星々の広がりを持った超コンパクト矮小銀河」が形成され、最終的には「超コンパクト矮小銀河(UCD)」が形成されるという流れです。
多くの銀河が属する銀河団の中心部のような、非常に高密度な環境が、銀河にとってもまさに弱肉強食の厳しい世界であることが伺える新発見でした。