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駅からゴミ箱が消える背景は? 東京メトロが一斉撤去、残す会社も いまの「鉄道のゴミ」事情は?

小林拓矢フリーライター
多くの駅にはゴミ箱があったが消えていく(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 駅のゴミ箱は、何かあるたびに撤去されたり、封鎖されたりしてきた。大規模な国際会議やスポーツイベントのときは「テロ対策」という理由で、ゴミ箱が使えなかった。

 それと同じ理由で、東京メトロは駅のゴミ箱を今月16日終電以降に撤去した。不審物などがゴミ箱に入れられたりすることを防ぎ、セキュリティ対策を強化するためだと報じられている。

「ないと不便」という声は多く聞かれる。確かにそうだろう。そもそも、一般的な鉄道のゴミ箱は、どのようなものだろうか。

大阪サミットの際には駅のゴミ箱を封鎖した
大阪サミットの際には駅のゴミ箱を封鎖した写真:アフロ

要人来日の際には警戒のためにゴミ箱をふさぐ
要人来日の際には警戒のためにゴミ箱をふさぐ写真:森田直樹/アフロ

3種類に区分されたゴミ箱

 関東圏のだいたいの鉄道ゴミ箱は、ペットボトルや空き缶などを捨てるところ、紙ごみなどを捨てるところ、新聞や雑誌などを捨てるところと、三種類に分かれている。ゴミ箱は、近年は透明になっていて中が見えるようになっている。

 たいていの場合、ペットボトルが多く入っており、紙ごみは少々、新聞や雑誌はほとんどないという状況になっている。

 ゴミ箱は、一般の人が簡単に開けられるようにはなっていない。20年以上前は、駅のゴミ箱(や鉄道の網棚)から古雑誌を拾い集めて路上で販売する人たちがいたが、ゴミ箱に鍵がかけられ、かつ多くの人がスマートフォンで情報収集をするようになって電車内で雑誌や新聞を読む人が激減、駅のゴミ箱にも捨てられないということになり、そういう人たちもいなくなった。駅の売店も減っていった。

 紙ごみなどのくず類は駅によってもさまざまだ。東京駅の新幹線ホームなどには、駅弁など列車内で食べたもののゴミが捨てられることはあるものの、列車内にもくず入れはあり、かつ降車時に清掃の人がゴミ袋を持ってドアの前に立っていることは多い。

 いまの鉄道において、ゴミのメインはペットボトルである。500ml程度のペットボトルが普及し始めてからおよそ25年程度の時間となり、多くの人がペットボトル飲料を買い、持ち歩くようになった。

 缶飲料しかなかった時代には、駅の自動販売機で買った飲み物はその場で飲むしかなかった。自販機の横にはそのためのゴミ箱があり、駅にはベンチも多く、ゴミ箱も多かった。

 しかしペットボトル飲料が普及し、飲み物を持ち歩くようになった。ある駅で買って飲み始めたものを、別の駅のゴミ箱に捨てる、ということが多くなった。いっぽうでゴミ箱は減った。その結果、ペットボトルが集中する。

 鉄道会社によっては、すでにゴミ箱をなくしているところもある。しかし、自動販売機の横にあるリサイクルボックスだけは、残している。

駅の飲料自動販売機にはリサイクルボックスが備えられている
駅の飲料自動販売機にはリサイクルボックスが備えられている写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

ペットボトル以外のゴミが消える

 この状況下、ペットボトルのゴミのみが増え、その他のゴミは減っている。多くの人は、駅のゴミ箱にゴミを捨てないようになっているのではないだろうか。新幹線や特急などで駅弁を食べる場合ならともかく、そうでない場合はゴミそのものが出ないようになっている。新聞や雑誌は、駅で買っても家まで持ち帰ってしまうことも多い。

 東京メトロの場合、小田急に直通するロマンスカー以外に特急はなく、「S-TRAIN」や「THライナー」も、東京メトロ区間内着のものは飲料を飲み切れずにそのまま持って降りるのではないか。おそらく、飲み切った人は駅のリサイクルボックスに捨てる。

 いくら「セキュリティ対策」とは言っても、ゴミ箱の必然性があったら何らかの形で残そうとするものだ。

 1995年の地下鉄サリン事件以降、駅のゴミ箱が撤去された。何かあるたびにゴミ箱の使用は制限された。海外でのテロの状況を見て、その対策として行われてきたものだ。

 また近年のコロナ禍で、使用済みマスクが捨てられることへの警戒感ももちろんある。

 いっぽう、都市鉄道事業者、とくに有料特急のない事業者は、そもそもゴミが出にくいような状況になってきている。ちょっとした鼻紙ならば、かばんの片隅に入れておけばすむものであり、新聞や雑誌なら自宅に持って帰る。東京メトロは都心の事業者なので、帰宅時に夕刊紙や週刊誌を駅売店などで乗客が買うことはあっても、郊外の人が降りる駅で捨てられるということは一部を除きない。懸案のペットボトルは自動販売機横のリサイクルボックスがある。

 JR東日本が駅構内のゴミ箱を残し続けるというのが象徴的で、在来線特急や普通列車グリーン車などの利用者が、弁当などのゴミくずを捨てることがあることを想定していると考えるのが妥当だろう。

 また東京メトロは、前身の営団地下鉄が地下鉄サリン事件で直接被害を受けたということもあり、セキュリティ対策には熱心な事業者である。そのうえ、ゴミ箱を設けなければならない必然性もなく、ゴミは減っていくということが予想される。とくに新聞・雑誌である。

 乗客のゴミをめぐる状況の変化と、セキュリティ対策という長年の東京メトロの課題が合致したところで、ゴミ箱撤去という判断となったのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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