LGBTと企業、悩みを共有
LGBTなど性的マイノリティー社員が働きやすい職場作りに取り組む企業・団体を表彰するイベント「work with Pride 2017」が11日、東京都内で開かれ、ソニーや資生堂、第一生命保険、東日本旅客鉄道(JR東日本)など日本を代表する多くの企業が表彰された。
86企業・団体が最優秀賞
同イベントは、LGBTの視点から企業のダイバーシティ経営の促進と定着を支援する任意団体「work with Pride」が主催し、今年が第2回。応募してきた企業・団体の中から、過去1年間、LGBTに対する偏見や差別をなくすための優れた取り組みをしてきた組織を、ゴールド、シルバー、ブロンズに分けて表彰した。
最優秀のゴールドを受賞した企業・団体は86社で、昨年の53社から大幅増。また今年は、日本経済団体連合会が会場を提供するなど、働き方改革やダイバーシティ経営を推進するため、経済界を挙げてLGBT施策に関する悩みや課題を解決しようという機運の高まりを色濃く反映した内容となった。
表彰式に先んじ、企業などで働くLGBT当事者による、「日本の職場での、カミングアウトの今」と題したパネル討論も実施。普段はなかなか知ることのできない当事者の本音や思い、さらには当事者ならではの視点からの企業への提案に、企業関係者を中心とする500人を超える参加者が聞き入った。
上司の後押しでカミングアウト
パネリストの一人、トランスジェンダーの谷生俊美さんは日本テレビ放送網の社員で、同局の映画番組「金曜ロードSHOW!」のプロデューサーを務める。もともと男性として入社し、事件記者やカイロ支局の特派員などを経て、現在の部署に異動になった。
カイロ支局時代、戦争やテロの現場を取材して人の死を目の当たりにし、「人はいつ死ぬかわからない、だったら自分らしく生きたい」と、女性として生きていくことを決意。帰国後、髪を伸ばしたり中性っぽいファッションにしたりと、少しずつ慎重に見た目を変えていった。
トランスジェンダーの中には、外見を変える際に勤めていた会社を辞める人も多い。しかし谷生さんは、「それまでの自分のキャリアを否定したくなかったし、報道の現場で12年間積み重ねてきた経験が自分の血や肉となり力の源泉となっているので、それを映画番組作りにも生かしたかった」と、社内でカミングアウトする気持ちを固めた。
現在の部署に異動後しばらくたったある日、思い切って直属の女性上司にカミングアウト。すると、その上司は「今まで全然気付かなかったので、言ってもらってよかった」と谷生さんに感謝の言葉を述べ、さらに「だったら、もっとスピードアップして早く女性になったほうがいい」と言って、自ら積極的に人事や関係部署に根回してカミングアウトを後押ししてくれたという。
「自分は上司に恵まれた」と言う谷生さんは、「カミングアウトしたことで、自分のエネルギーや創造力、発信力がものすごくパワーアップした気がする。それは番組作りにも間違いなく役立っているし、会社のためにもなっていると思う」と話し、LGBT当事者が気持ちよく働き本来の能力を発揮できるようにするには、LGBTに対する管理職の意識や理解、当事者との率直なコミュニケーションが欠かせないと強調した。
制度作りが大切
7月にゲイであることをカミングアウトした東京都文京区議会議員の前田邦博さんは、LGBTであるがゆえの辛い思いを何度も経験してきた。
33歳で区議会議員に初当選した時には、ゲイであることを密告する、いわゆるアウティングのはがきが議会事務所に届いた。支援者からは、今後の選挙に影響が出るから隠しておくよう忠告された。37歳の時、8年間一緒に暮らしたパートナーと死別したが、法的な婚姻関係がないため喪主になれず、忌引きもとれなかった。告別式の日は午前中に骨上げをし、悲しみをこらえながら午後の本会議で一般質問に立った。
前田さんのカミングアウトを後押ししたのは、4年前に施行された区の「男女平等参画推進条例」だった。LGBTへの差別禁止も盛り込まれたため、それを機にLGBTを理解するための研修が教職員向けに開かれるなど、LGBTに対する住民の理解が急速に進んだ。
現在51歳の前田さんは、介護や死別の問題を以前よりも身近に感じるようになった。LGBTが一般の人と同等の保障を得られるよう法律を変えるには、当事者である自分が前面に出る必要があると考え、カミングアウトを決意。今年7月、「LGBT自治体議員連盟」の設立会見の場でカミングアウトした。
前田さんは、「LGBT施策の推進に消極的な自治体は、よく『住民の理解が得られないから』と言う。でも逆に文京区の例のように、政治がリーダーシップを発揮して制度を作ることによって、住民の理解が進むこともある」と指摘し、企業もまず制度を作ることが重要だと訴えた。
人材確保にも有効
クラウド会計ソフトのfreee(フリー)で採用マネージャーをしている吉村美音さんは、以前勤めていた会社では、レズビアンであることを隠し、我慢して仕事を続けた。上司がゲイを揶揄するネタで笑いをとり、それを周囲も受け入れる社風を見て、カミングアウトを躊躇した。
転職先を探すにあたっては、本当の自分を受け入れてくれ、自分らしく仕事のできる会社を探した。目に留まったのが、現在の会社。会社が掲げる「価値基準」(社是)の中の「人とチームを知る。知られるように共有する」という一文に、強く惹かれた。
入社後、「LGBTは身近にいるということをみんなに知ってもらいたい、そして、みんなの学びにしてもらいたい」との思いを込め、全社員宛ての自己紹介メールでカミングアウトした。ネガティブな反応も覚悟したが、好意的な反応ばかりだったという。
吉村さんは、「LGBT当事者は、企業の社風やLGBTに関する制度にとても敏感」と語り、「社風や制度を見て、一緒に働きたいとの思いを強くする」と強調。そして、「企業の中には効果に疑問を感じて制度作りを最初から諦めたり躊躇したりするところもあるかもしれないが、当事者の心には必ず響くから、企業は自信を持って制度作りを推進し、社会にも積極的にアピールしてほしい」と要望した。