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ラーメンを完食して娘を待っていたら退店の催促! 賛否両論あるも重要となる6つの考察

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

完食後の退店

飲食店に家族や友人など、複数人で訪れることがあると思います。その際に、食べ終えた人からすぐ店を出るようにしていますか。

完食後の退店について、SNSでマナー論争が起きています。

2人で訪れたラーメン店、完食した人は先に退店すべき?「当たり前」「客離れる」SNSでマナー論争/J-CAST ニュース

事の発端は2023年2月1日のTwitterへの投稿。もとのツイートは既に削除されています。

投稿者がお昼を食べに高校生の娘と一緒にラーメン店へ訪れました。先に食べ終えると、従業員から退店を促され、「連れがまだ食べている」というと「お待ちの方がいますので」といわれます。仕方なく退店すると、食事中の娘が追いかけてきたという話です。

SNSでは賛否両論

後で店から電話があります。「回転率重視でどの客にも同じような対応をしている」「ボックス席には15分で退店する旨を提示してあるが、カウンター席には提示していなかった」ということでした。

最後に投稿者は、店内に残した娘に対して申し訳なかったと結んでいます。

この事案に対する反応は賛否両論。「こんな店に行きたくない」「やりすぎだ」という店への批判から、「行列もできているので店の立場もわかる」「高校生なら1人でも大丈夫だろう」と投稿者への苦言まであります。

今回の件はどのように考えればよいのでしょうか。いくつかのポイントについて考察していきたいと思います。

空間の価値

最初に飲食店の空間の価値について説明します。

ラーメン店をはじめとした飲食店は空間に少なからぬコストをかけています。

賃貸料があるのは当然のことながら、灯りや空調といった光熱費、テーブルやイス、インテリアやランチョンマット、カトラリーやプレート、グラスなどのテーブルウェアなどにも、お金がかかっているのです。コストの差はありますが、ファインダイニングではなく、カジュアルな業態であったとしても同様です。

飲食店の経営は慈善事業ではありません。快適な空間は無償で提供されるものではないと認識する必要があります。こういった空間は飲食するための場所であり、注文した客=お金を支払う客にだけ提供されるべきです。

当事案では、2人とも店内で飲食しているので、空間を利用する権利はあります。したがって問題となるのは、食べ終えた後も、その価値ある空間を専有できるかどうかになるでしょう。

回転率の重要性

飲食店では、平均客単価と席数と平均回転率をかけあわせたものが売上となります。席数は変わらないので、客単価と回転率を上げていくしか売上を増やす方法はありません。

ただ、客により多くオーダーしてもらうことは容易ではない上に、飲食店は客離れを恐れてできるだけ値上げもしたがらないものです。そのため、飲食店は客単価ではなく、回転率を上げるように努めます。

ファインダイニングであれば完全予約制に近く、ディナーで1回転というところが多いですが、一斉スタートのカウンターガストロノミーであれば、2部制を採用しており、2回転も普通です。

ラーメン店はファインダイニングと違って非常にカジュアルな業態なので、1日に10回転することもあります。客単価も高くなく、通し営業ということも多いので、回転させていくのに必死です。予約して訪れることはほとんどないだけに、ウォークインの客をどんどん入れる必要に迫られます。当事案のランチタイムはディナータイムよりも客単価が低いだけに、回転率に敏感となるのは仕方がないかもしれません。

滞在時間の長さ

回転率を上げるにはどうすればよいでしょうか。

客の滞在時間を短くし、すぐに次の客を入店させることです。ただ、客の滞在時間が短くても次の客が入らなければ意味がなく、反対に、行列ができているなどして客が待っていたとしても席が空いていなければ回転できません。当事案では、行列ができていて次の客はたくさんいたので、ラーメン店としては、早く客に退店してもらいたいと思ったことでしょう。

平均滞在時間の例を挙げると、ファミリーレストランは50分から70分、レストランは60分から90分、ファインダイニングは120分から150分という程度。もっとカジュアルな業態であれば、立ち食い蕎麦店は5分から10分、牛丼店は10分から15分、そしてラーメン店は15分から20分くらいとなっています。

件のラーメン店は滞在時間を15分に設定していました。15分ではゆっくりできず、食べるのが遅い方や子どもにとっては、ちょっと厳しい時間です。ただ、ラーメンを食すのであれば、決して無理な時間ではないでしょう。

席の種類

席の種類も考慮しなければなりません。

なぜならば、テーブル席とカウンター席では大きな違いがあるからです。

飲食店は、テーブル席であれば、何人で利用していたとしても、そのテーブルの単位で入店と退店を管理しています。同じテーブルの中で誰かが先に食べ終えていたとしても、その人に退店を促すようなことはありません。なぜならば、もしも食べ終えた人に退店してもらったとしても、別の見知らぬ客をその席に案内することができないからです。

カウンター席であれば、少し事情が異なります。カウンター席は1人客を入れ易いので、1席単位で管理しているものです。したがって、グループは関係なしに、食べ終えた客から順に退店してもらい、空いたところから客を入れることを考えます。ラーメン店は1人客も多いだけに、こういった考えは強いでしょう。

当事案では、カウンター席を利用していたとありました。それだけに、食べ終えた投稿者に早く退店してもらい、次の客を入れたかったのは、想像に難くありません。

共食の食体験

飲食店は、ただ単に食べたり飲んだりするだけの場所ではありません。サービス、雰囲気や居心地、アプローチや眺望、インテリアやテーブルウェアなど、食べ物や飲み物以外で、食体験に大きな影響を及ぼす要素がたくさんあります。

特に誰かと一緒に食事する共食では、より食体験の振幅は大きくなるでしょう。同じ空間で同じように食べたり、飲んだりすることによって、互いの絆が深まったり、よりおいしく感じられたりするのです。

飲食店における共食は、入店から退店までが当てはまります。最初から一人で食べていたのであればまだしも、食べている途中で相手が席を発たなければならなくなれば、急に一人となるので、不安な気持ちになったり、居心地が悪くなったりしても仕方ありません。

しかも、スタッフに退店を促されたのであれば、追い出された印象をもちます。残された客も、早く退店しなければと焦ってしまい、おいしく食べるような気分ではなくなるでしょう。

これでは、せっかく一生懸命につくった料理人にとっても、残念な帰結となってしまいます。

ルールとコミュニケーション

飲食店は、客を神様として扱う必要はありませんが、客を蔑ろにしてよいわけではありません。客は食事を楽しむ権利を有していますが、飲食店に対するリスペクトは必要不可欠です。

飲食店における食事は、飲食店と客の契約。食品衛生法に則り、飲食店営業許可の基準範囲内であれば、業態を新たに生み出したり、ルールを自由に決められたりします。どのように経営していき、運営していけばよいのか、正解はありません。最も重要なことは、飲食店と客がしっかりコミュニケーションをとり、双方とも納得することです。

それには、まず飲食店がしっかりとルールを定めて周知することが大切。その上で、客がルールを受け入れて入店するかしないかを決めればよいだけです。

残念な体験がなくなるように

2013年に「日本人の伝統的食文化」として「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。ミシュランガイドにおいては、東京は世界で最も多くの星を獲得する都市です。

日本の飲食店は非常に素晴らしいだけに、残念な体験が少しでもなくなることを願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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