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昆虫の仰天擬態を暴く⑤=「ギャー毒蛇」…じゃないの?イモムシ?

天野和利時事通信社・昆虫記者
毒蛇じゃないです。芋虫です。ビロードスズメという蛾の幼虫です。

 ビロードスズメという蛾の幼虫の写真を、虫の本のカバーに使って大失敗した。あまりにも蛇(ヘビ)に似ていたからだ。虫の本なのに「何で蛇の写真をデカデカと載せているんだ」というお叱りを、読者から受けたのである。

 昆虫記者の生活を支えてくれているのは、ただでさえ数が少ない虫好きの人々なのに、そのうち蛇嫌いの人々が背を向けてしまったらどうなるのか。虫好きだが、蛇は大嫌いという人はかなり多いだろう。つまり昆虫記者の支持者は、限りなくゼロに近くなる恐れがある。

 しかし、そこまで蛇に似ているということは、ビロードスズメにとっては大勝利と言える。蛇に似ていればその分、天敵に襲われる可能性が低くなるからだ。

 ビロードスズメの幼虫の頭に近い部分は、膨らみ方から目玉模様まで、まさに蛇の頭に見える。その部分を少し前に伸ばすと、三角形の毒蛇の頭部のようになる。だだ、あまり伸ばし過ぎると馬面になって、蛇の怖さが薄れてしまうのが、玉に瑕(たまにきず)だ。

ビロードスズメ幼虫が頭の先を少し伸ばすと、毒蛇風の三角頭に。
ビロードスズメ幼虫が頭の先を少し伸ばすと、毒蛇風の三角頭に。

頭を前に伸ばし過ぎると馬面になって、蛇の怖さが薄れるかも。
頭を前に伸ばし過ぎると馬面になって、蛇の怖さが薄れるかも。

緑色系のビロードスズメ幼虫。
緑色系のビロードスズメ幼虫。

 そして、極め付きは、まるで蛇のウロコのような胴体の模様だ。こんな姿がツタ(ビロードスズメ幼虫の食樹)の間から、ニュルニュルと出てきたら「ウギャー、毒蛇!」と、思わず後ずさりしてしまうだろう。

 そして、昆虫記者はまたしても大失敗を犯してしまった。この記事の写真を見た蛇嫌いの人々はきっと「昆虫記者のページは二度と見たくない」と思ったことだろう。人間をも恐れさせる蛇擬態。ビロードスズメ幼虫の勝利の雄叫び(おたけび)が聞こえてきそうだ。

ビロードスズメの成虫。ビロードと言うほど美しくはない。
ビロードスズメの成虫。ビロードと言うほど美しくはない。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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