昆虫の仰天擬態を暴く⑤=「ギャー毒蛇」…じゃないの?イモムシ?
ビロードスズメという蛾の幼虫の写真を、虫の本のカバーに使って大失敗した。あまりにも蛇(ヘビ)に似ていたからだ。虫の本なのに「何で蛇の写真をデカデカと載せているんだ」というお叱りを、読者から受けたのである。
昆虫記者の生活を支えてくれているのは、ただでさえ数が少ない虫好きの人々なのに、そのうち蛇嫌いの人々が背を向けてしまったらどうなるのか。虫好きだが、蛇は大嫌いという人はかなり多いだろう。つまり昆虫記者の支持者は、限りなくゼロに近くなる恐れがある。
しかし、そこまで蛇に似ているということは、ビロードスズメにとっては大勝利と言える。蛇に似ていればその分、天敵に襲われる可能性が低くなるからだ。
ビロードスズメの幼虫の頭に近い部分は、膨らみ方から目玉模様まで、まさに蛇の頭に見える。その部分を少し前に伸ばすと、三角形の毒蛇の頭部のようになる。だだ、あまり伸ばし過ぎると馬面になって、蛇の怖さが薄れてしまうのが、玉に瑕(たまにきず)だ。
そして、極め付きは、まるで蛇のウロコのような胴体の模様だ。こんな姿がツタ(ビロードスズメ幼虫の食樹)の間から、ニュルニュルと出てきたら「ウギャー、毒蛇!」と、思わず後ずさりしてしまうだろう。
そして、昆虫記者はまたしても大失敗を犯してしまった。この記事の写真を見た蛇嫌いの人々はきっと「昆虫記者のページは二度と見たくない」と思ったことだろう。人間をも恐れさせる蛇擬態。ビロードスズメ幼虫の勝利の雄叫び(おたけび)が聞こえてきそうだ。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)