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毎日新聞が「こたつ記事」でお詫び なりすましアカウントを見抜けず

藤代裕之ジャーナリスト
毎日新聞のサイトに掲載されたお詫び(筆者によるキャプチャ、一部加工しています)

毎日新聞は11月5日、アイドルグループSnow Manの渡辺翔太さんのなりすましアカウントの投稿をもとに公開・配信した「こたつ記事」を削除し、お詫びした。ネットメディアやスポーツ紙ではなく全国紙が「こたつ記事」に手を染め、フェイクニュースを拡散したことに驚きが広がっている。

なりすましアカウントを見抜けず

問題の記事は、<「Snow Man・渡辺翔太 32歳の誕生日に「感謝だらけの日々です」 メンバーやファンから祝福の声」>というタイトルで、『渡辺翔太/Shota Watanabe【公式】』と書かれたアカウントの投稿をもとに、ファンの反応、他メンバーの祝福の投稿を紹介。ヤフーやgooなどのポータルサイトにも記事を配信した。

芸能人、アナウンサー、スポーツ選手などのSNS投稿と、それに対するネットの反応を組み合わせるのは「こたつ記事」の典型的な手法だ。しかし、今回は情報源としたSNSアカウントがなりすましだった。毎日新聞は「このアカウントはなりすましとみられることが分かりました。関係者の皆さまにおわびします。記事を削除しました」とのお詫びをサイトに掲載、ポータルサイトにもお詫び記事を配信した。

記事が掲載されていたのは毎日新聞サイト内にある「エンタ・ボックス」というコーナーで、確認した時点では10月28日から11月6日までの間、「こたつ記事」が量産されていた。毎日新聞は記事には原則として署名がつけられることで知られるが、これらの記事には(エンタ・ボックス)とあるだけだ。毎日新聞によれば、外部のコンテンツ制作会社から提供を受けた記事だという。

毎日新聞のサイト内にあるエンタ・ボックスのコーナーでは「こたつ記事」が量産されていた(筆者によるキャプチャ、一部加工しています)
毎日新聞のサイト内にあるエンタ・ボックスのコーナーでは「こたつ記事」が量産されていた(筆者によるキャプチャ、一部加工しています)

三大紙の「こたつ記事」に衝撃

Xで以下のような投稿をした村井弦さんにコメントを求めると「スポーツ紙や一部の雑誌がコタツ記事を配信していることは把握していましたが、いわゆる三大紙のウェブ媒体がこたつ記事を出していたことには、少なからず衝撃を受けました。日本を代表する報道機関でもこたつ記事配信に手を染めないとビジネスが成立しなくなっている。その現実が何よりも深刻です」と返信があった。

「こたつ記事」は手軽にページビューを稼ぐことができる記事制作手法として、ネットメディアやスポーツ紙に広がった。しかしながら、不十分な取材は謝罪や訂正と隣合わせだ。

朝日新聞は2020年12月に、「著名人のソーシャルメディアなどでの発言を引用し、ネットで報じたスポーツ新聞社が謝罪や訂正をする事態が相次いでいる」として、中日スポーツとデイリースポーツの事例を取り上げた。いずれもSNSの投稿内容をそのまま取り上げて問題となった。

問題は指摘されながら「こたつ記事」は止まらず、中日スポーツは2022年2月にロシアのウクライナ侵攻に関連して、ロシアのプロパガンダに加担する記事を配信した。「こたつ記事」は情報戦・認知戦のウィークポイントでもある。

今回の問題の深刻さは、朝日新聞や読売新聞とともに三大紙と言われてきた歴史ある毎日新聞発のフェイクニュースが各ポータルサイトに配信されたこと、それが「取材する」という報道機関の原則が守られていない記事であったこと、コンテンツ制作会社による「外注」記事が説明もなく毎日新聞の名前で公開・配信されている、ことにある。

ページビューを優先する姿勢が、新聞社としての信頼を低下させることになったが、お詫び記事が出た11月5日15時以降も「エンタ・ボックス」では20本の記事が更新されていた。

毎日新聞の「こたつ記事」はヤフーやgooなどポータルサイトに配信されていた(筆者によるキャプチャ、一部加工しています)
毎日新聞の「こたつ記事」はヤフーやgooなどポータルサイトに配信されていた(筆者によるキャプチャ、一部加工しています)

毎日新聞の回答

毎日新聞に今後の対応などについて問い合わせを行い、同社社長室広報ユニットから以下の回答があった。全文を掲載する。

ニュースサイトを訪れる読者の多様なニーズに応えられるかを検証するため、外部のコンテンツ制作会社から期間限定で試験的に記事の提供を受けました。記事の内容については、毎日新聞社とコンテンツ制作会社で点検したうえで、毎日新聞社の責任で掲載していますが、当該記事では確認が不十分でした。当該記事に引用したアカウントは【公式】を掲げて数万人のフォロワーがおり、ファンとみられるアカウントから誕生日を祝福する多数の投稿があったため、本人のアカウントと誤認しました。本事案を含め、提供された記事の内容や効果を総合的に判断して、試験運用は終了することにしました。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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