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大学生の都知事選に関する情報・ニュースの接触調査、SNSにもテレビにも偏りを感じている

藤代裕之ジャーナリスト
対象は法政大学社会学部「ソーシャルメディア論」受講者

東京都知事選挙が投開票され小池百合子さんが3選を果たし、石丸伸二さんが2位、蓮舫さんが3位となり「立憲民主党に衝撃」などと報じられています。選挙期間中に勤務している法政大学社会学部の授業で簡易アンケートを行い、都知事選に関する情報・ニュースの接触について聞きました。結果は、テレビ、X、検索の順で、ソーシャルメディア(SNS)にも、テレビにも、偏りを感じていました。

候補者情報にたどり着くのに一苦労

「インターネットを使い慣れているはずの私でさえ、候補者の情報までたどり着くのに一苦労」というコメントが担当している『ソーシャルメディア論』に寄せられたこと。IT企業に勤めるエンジニアの友人と食事した時に「今回の都知事選ネットはカオスだよね。普段全然見ないテレビを見たら、コンパクトだけど良く分かった」という話が出たことが、アンケート実施の背景です。『ソーシャルメディア論』の登録者数は230人、解答は207人でした。質問は情報・ニュースの接触のみで、投票意向などは質問していません。

対象は法政大学社会学部「ソーシャルメディア論」受講者。回答数は207。
対象は法政大学社会学部「ソーシャルメディア論」受講者。回答数は207。

東京都知事選挙の情報・ニュースを自分で探したり、収集したりしましたか、という質問に対しては、「した」49.3%、「していない」50.7%でした。東京都だけでなく、神奈川県や埼玉県から通っている学生がおり、選挙権がないため情報・ニュースの収集を「していない」という場合もありました。

テレビ、X、検索、Yahoo!ニュースの順

情報・ニュースの収集をした学生に、どの媒体から行ったのか選択肢を示して複数回答可として尋ねたところ、最も多かったのは「テレビ」57.1%、次いで「X(旧ツイッター)」41%、「検索」39%、「Yahoo!ニュース」31.4%、「YouTube」30.5%、「新聞」23.8%、「TikTok」9.5%、「SmartNews」8.6%、「Instagram」2.9%、でした(LINE NEWSがないのは選択肢に入れ忘れたため)。その他には「駅前で配布しているビラ」「選挙公報」などがあり、「Wikipedia」「ChatGPT」という解答もありました。新聞購読者は約200人の授業で数名で、日頃はほとんど読んでいないことを考えれば、新聞は健闘しているといえるでしょう。

対象は法政大学社会学部「ソーシャルメディア論」受講者。回答数は267。
対象は法政大学社会学部「ソーシャルメディア論」受講者。回答数は267。

ソーシャルメディアでは、読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞、時事通信、NHK、日本テレビ、TBS、テレビ東京などの既存メディアの投稿やニュースに触れたという回答もあり、朝日新聞ポッドキャスト(ニュースの現場から)もありました。

各候補者のアカウントにも触れており、小池百合子、石丸伸二、蓮舫、田母神俊雄、桜井誠、後藤輝樹、内海聡、ひまそらあかねらの名前がありました(敬称略)。

中田敦彦のYouTube大学、古舘伊知郎チャンネル 、青ヶ島ちゃんねる、西村ひろゆきの切り抜き動画、SIRUP、KAZUYA、丹羽薫、ホリエモン(堀江貴文)、吉田弘幸などのインフルエンサーやアーティストのアカウントもありました。

メディア接触としてソーシャルメディアの割合は多いですが、学生が記載したアカウントにはほとんど重複がなく、以前に『アフターソーシャルメディア』(日経BP)で明らかにしたように断片的な接触となっていることがうかがえます。

SNSにもテレビにも偏りを感じている

冒頭に書いた背景もあり「どの媒体からどのような情報・ニュースを知ることができましたか?また、収集できなかった情報・ニュースがあれば教えてください。」という自由回答を設定しました。非常に多くの回答があり、学生が真剣に考えていることが伝わりました。その一部を紹介します。

「YouTubeで候補者の政策や性格を知ることが出来た」「Xでは、トレンドから都知事選に関連のある特定のワードについて、どのような賛否が挙がっているかを知ることができた。一方で公平な観点からの情報を知ることはできなかった」「Xでは、偏った意見が多かったり、一般人が作った本当か嘘かわからない内容が拡散されていたりしたため、あまり多くの人の情報を知ることはできなかった」

「個人にカスタマイズされたものが表示されるソーシャルメディア上では、選挙に対して意識を持たなければ表示されない。実際私はソーシャルメディア上で選挙に関する情報を見なかった」

これらの意見は『ソーシャルメディア論』でアルゴリズムについて学んでいる影響もありそうです。

また、偏りについては「テレビでは一部の候補だけを流している」「テレビをつけたときに、毎回同じような人について報道されていることが問題だと思う」との意見もありました。

公約を知るには複数の情報源を調べる必要

「テレビや新聞などからは、候補者の政治活動や主義主張など、"事実"に関して簡潔に知ることができた。Xからは、有権者の主観が入った"意見"や新たな視点などを知ることができた」「テレビや新聞では議員の対立構造や発言の意図の解説など。SNSではそれぞれの議員が直接発信している取り組みやアピールポイント、世間の反応についての情報を収集していた」といったようにメディアを使い分けている学生もいました。

公約について調べた学生は、「新聞に加えて東京都選挙管理委員会HPも拝見した。新聞で気になった候補者について詳しい公約の内容を各候補者のHPで確認することができた」「ポストに投函されていた選挙公報から一人一人の公約をまとめて知ることができ、何を推したいのか一目で分かりやすかったが、選挙公報だけでは詳しい公約内容がわからず、気になった人を自分で調べて投票する必要があった」と複数の情報源を調べていました。「Googleで候補者の公約を調べるときに、候補者の公約で検索しても公約は出てこず、選挙公報で調べないと出てこないのは少し分かりづらいなと感じました」といったように手間をかけており、多くの学生が「候補者情報にたどり着くのに一苦労」していました。

今回の調査は対象も限られた簡易なものですが、関心を持った学生が候補者の情報や公約にたどり着くのが難しいメディア環境をどのように改善していくか、考えていく必要がありそうです。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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