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札幌冬季五輪招致延期で新幹線の札幌延伸が遅れても、北海道~本州・四国・九州の鉄道貨物の検討は急務

森田富士夫物流ジャーナリスト
北海道~本州の貨物鉄道の存続は全国の物流にも影響(写真:イメージマート)

 2030年冬季五輪の札幌招致が見送りになり、札幌への招致は2038年大会以降になりそうだ。報道によると、札幌冬季五輪招致の先送りに伴い、2031年春ごろを目標にしていた北海道新幹線の札幌延伸も延期になるという。冬季五輪招致の先送りで急ぐ必要がなくなったからである。

 北海道新幹線の札幌延伸に関連して大きな課題になっているのが在来線の存続である。長万部~函館の在来線がどうなるかは鉄道貨物輸送にも影響してくるが、新幹線の札幌延伸が2031年春より遅れることになると、鉄道貨物の検討も若干の猶予ができたことになる。

 だが、北海道~本州・四国・九州の鉄道貨物のあり方の検討を先延ばしすることはできない。物流の「2024年問題」もさることながら、今後の国内物流のあり方にも関わる問題だからである。

北海道~本州・四国・九州の鉄道による移出186万トン、移入191万トン、ホクレン取扱分だけでも道外移出はタマネギやジャガイモなど66.8万トンも

 北海道~本州・四国・九州でどのくらいの貨物が鉄道輸送されているのか。

 JR貨物北海道支社によると北海道~本州・四国・九州間の鉄道輸送量は、2022年度で道外への移出が186万トン、移入が191万トンになっている。

 北海道からは農産品、乳製品、紙製品などが全国に送られている。また全国各地からは宅配便、加工食品、飲料、衣類、雑貨、書籍などの生活必需品が道内に鉄道で運ばれてくる。

 北海道からの移出貨物186万トンの方面別の割合は、東北10%、関東41%、東海12%、関西・四国26%、九州10%である。北海道への移入貨物191万トンの出荷地別の割合は、東北10%、関東51%、東海14%、関西・四国20%、九州3%となっている。

 北海道から道外に移出される荷物の多くは農産品で、ホクレンの取り扱いが多い。ホクレンが2021年度に取り扱った道外への移出量は257万トン強で、そのうちの67万トン弱(約27%)が鉄道輸送だ。主な品目はタマネギ30万トン、ジャガイモ8.5万トン、米7.4万トン、でん粉3.5万トンなどである。

 道外から北海道に鉄道で運ばれてくる品目の中で宅配便は大きな割合を占める。ヤマトHDによると「鉄道は全国で1日当たり10トントラック換算で約60台分ほど利用している。そのうち北海道から道外には平日の1日平均で5台、道外から北海道には12台」という。予想より少ないが、鉄道利用の約28%が北海道発着である。

 佐川急便は「2022年度実績は本州などから北海道が約2万3600コンテナ、北海道から道外が約1700コンテナ」という。佐川急便では北海道発着の幹線輸送で鉄道をかなり利用している。

 道外からは北海道に加工食品が多く輸送されている。大手加工食品メーカーの共同物流を担っているF-LINEでは、北海道発の荷物が年間約2万9700トン、北海道着が年間8万3100トン程度ある。だが輸送機関別の集計はしていないため、鉄道輸送がどれだけあるかは分からない。全体的には鉄道よりフェリーなどの海上輸送の方が多いという。

 また、冷凍の鉄道コンテナ(30フィート)を180本所有し、個別企業としては鉄道の冷凍コンテナを一番多く所有しているランテックはどうか。同社は全国では年間約1万7000本を鉄道輸送している。だが、北海道には年間約180本、北海道からは年間約60本しか鉄道を利用していない。舞鶴航路と大洗航路のフェリー利用が多いという。

 北海道発着の鉄道利用が少ない理由は、青函トンネルの高さ制限、もう一つはトンネル内では冷凍機を止めなければならないからだ。背丈の低いコンテナでないとトンネル内を鉄道輸送できない。また、同社ではGPSで冷凍コンテナの温度管理をし、冷凍機のオン、オフも遠隔操作しているが、青函トンネル内は冷凍機をオフにしなければならないため北海道発着の鉄道利用は少ない、という。

貨物鉄道をめぐる様々な状況、長万部~函館、青函トンネル共用走行、道内の維持困難路線と貨物3線区、本州側の第三セクター鉄道への影響など

 このような中で、北海道新幹線の札幌延伸に伴って大きな焦点になっているのが併行在来線の存続問題だ。長万部~函館間(144.2キロメートル)である。旅客輸送の存続問題はもちろんだが、もし貨物列車の走行ができなくなると、北海道経済と道民生活に多大な影響が出ることは間違いない。他方、道外の本州や四国、九州でも、北海道産の農畜産品などの供給に支障が生じる。

 長万部~函館の間にある森~大沼は本線と砂原支線(海線)に分かれており、さらに大沼~七飯も本線と藤城支線(海線)に分かれている。このうち貨物列車が走っているのは海線だ。

 JR貨物北海道支社によると、地形による路線の勾配の関係である。貨物列車は勾配の緩い海線を走らないと「電動式ディーゼル車のDF200で20両の貨車を引けない」からだ。本線の存続については関係者の協議によって存続の形態などが今後、具体化されるものと思われる。一方の海線は旅客利用が少なく、存続させるとしても前例のない貨物専用線の第三セクター方式、といった可能性もある。その場合、レールの所有や保守、維持費用など様々な観点からの検討が必要になる。

 もし、海線が廃線になって貨物列車が勾配のきつい本線を運行することになると、「被けん引の貨車を減らすか、あるいはけん引車を2台にする」(JR貨物北海道支社)、といった対応などが必要になってくるという。

 また青函トンネルにおける新幹線と貨物列車の共用走行区間(83.1キロメートル)の問題もある。札幌延伸に伴い新幹線の高速化や運行本数の増加などにより貨物列車が青函トンネル内の共用区間を通過できなくなる可能性もあるからだ。

 さらに影響は北海道~本州間の貨物列車の運行だけにはとどまらない。もし貨物鉄道が廃止になったら、本州側の第三セクター鉄道の経営にも関連してくる。

 たとえば青森県の青い森鉄道などは大きな影響が避けられない。青い森鉄道は東北新幹線の全線開通によってJR東日本から経営を移管された第三セクターで、併行在来線として運行している。

 だが、青い森鉄道は第二種鉄道事業者なので、線路や施設の所有者である青森県にレール使用料を払って旅客輸送をしている。そこで青森県の交通政策課に収入割合を尋ねると、青い森鉄道のレール使用料が年間約5億円なのに対して、JR貨物からのレール使用料収入は年間約40億円に上るという。

 約9割がJR貨物のレール使用料収入になっており、それが県から青い森鉄道への「指定管理事業」(鉄道施設の保守管理などの委託)の原資になっている。青い森鉄道の2023年3月期の損益計算書では、鉄道事業(旅客運賃収入)が20億円強なのに、指定管理事業の営業収益は40億円弱である。このようなことから、もし北海道~本州の貨物鉄道が廃止になったら、青い森鉄道の経営に大きな影響が出るため青森県交通政策課も今後の推移を注視している。

 同じような懸念は道内の他の路線にもある。JR北海道が単独では維持困難な線区の存続問題で、そのうち貨物列車走行区間の石北線(新旭川~北見)、根室線(滝川~富良野)、室蘭線(岩見沢~沼ノ端)が今後どのようになるかは、鉄道貨物のみならず道内のトラック輸送などにも大きく影響してくる。

 タマネギ輸送などで実績のある富良野通運では、「鉄道輸送ができなくなったらコンテナをトラックで札幌まで運ばなければならない。一番の課題はドライバーの確保だが、トラックも1日1運行しかできないので稼働効率が悪く、それらのコストの原資確保が大きな問題」としている。

4者連絡会(国交省・北海道庁・JR貨物・JR北海道)では貨物鉄道機能維持で論点を整理、年内にも有識者会議を設置し2025年度中を目途に方策提示

 このように北海道新幹線の札幌延伸に伴う貨物鉄道の存続問題は、貨物鉄道の全国ネットワーク、さらには国内物流全体にも関連してくる。北海道と道外間ということではフェリーやRORO(ロールオン・ロールオフ)船へのシフトも考えられる。だが、関係者の多くは「北海道発着の鉄道貨物を海上輸送に全部シフトするのは難しい」、という見方をしている。

 一つはキャパシティである。全部を受け入れられるだけの新航路の開設や船腹の拡大が難しい。さらに鉄道もフェリーやRORO船も運ぶのは幹線部分だけで、両端はトラック輸送になる。そのため発地から港や貨物駅、港や貨物駅から着地まではトラック輸送(横持ち輸送)が必要だ。

 北海商科大学の相浦宣徳教授によると、「道内では発地から貨物鉄道駅までのトラック輸送の平均距離は30キロメートルで、本州側は平均15キロメートル。しかしフェリーやRORO船の港までは道内全体で見ると185キロメートルぐらいの横持ちが必要で、とくにフェリーやRORO船の港から離れているオホーツク海に近い地域の農産物は厳しくなってくる」という。また、本州側でも大洗港から首都圏までは約70キロメートル、八戸港から仙台までも約70キロメートルの横持ちが必要になる。さらに「これまでは輸送モード間、地域間、荷主の業種間などにおける牽制作用で利用運賃のバランスが保たれていたが、鉄道輸送がなくなるとフェリー側が強気の運賃になってくる懸念もある」(相浦教授)と指摘する。

 なお、横持ち輸送に関連しては、鉄道輸送をすべて海上輸送に転換した場合、農畜産物の輸送繁忙期には新たに道内で700人、道外でも1550人のトラックドライバーが必要になる、というみずほ総研の試算がある。

 このように北海道の鉄道貨物輸送の今後のあり方には多くの課題がある。そこで国交省(鉄道局、北海道運輸局)、北海道庁(総合政策部交通政策課)、JR北海道、JR貨物では2022年11月から「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する情報連絡会(4者協議会)」を設置して議論を重ね、その結果(合意事項)を7月26日に発表した。

 4者協議会での合意事項は、「あくまでも実務者レベルの協議会なので、想定される様々なケースごとにそれぞれの課題を整理したもの」(国交省鉄道局事業課JR担当室ならびに総務課貨物鉄道政策室)である。

 詳細は割愛するが、4者協議会としては新幹線の札幌延伸開業時においては海線の維持により貨物鉄道機能を確保するのが妥当としている。だが、課題が多岐にわたる。そこで年内に有識者を含めた検討会議を立ち上げて、2025年度中には結論が得られるように検討を進めていく予定だ。

 政府が10月6日に示した「物流革新緊急パッケージ」では、「2024年問題」を念頭に鉄道や内航の輸送分担率を今後10年で倍増する、としている。このパッケージの方針も踏まえて、有識者会議では検討がなされるものと思われる。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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