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「シーシャ」って本当に害が少ないの?

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 世界的にシーシャ(水タバコ)が特に若い世代を中心に広がっているようだ。日本でも都市部の繁華街などでシーシャの喫煙可能店が増え始めているが、このシーシャ、健康への害はないのだろうか。

シーシャって何?

 シーシャというのは、イスラム圏やインドなどで行われてきたタバコの喫煙法の一つだ。水タバコというように、水に通したタバコ煙を吸い込んで喫煙する。

 一般的なシーシャの喫煙具は、タバコの葉が置かれる火皿、ホース、水を入れた容器、ホースにつながれたマウスピース(吸い口)で構成されている。アルミホイルなどの上に置かれた葉タバコは、火皿の木炭などによって加熱される。加熱された葉タバコの煙を喫煙者が吸い込むことで容器の水の中へタバコ煙が導かれ、水で冷却されたタバコ煙を喫煙者がさらに吸い込む。

 シーシャは、フルーツやメンソールなど多様なフレーバーが用意されていることもあるが、若い世代が集まるクラブやカフェなどで魅力的な文化であるように訴求するマーケティングが奏功し、欧米や日本などイスラム圏以外にも広がりつつある。

 また、シーシャはタバコより有害性が低く、中毒性も低いという誤解があり、本格的な喫煙へのゲートウェイになる危険性も指摘され、公衆衛生上の理由からシーシャに関する正しい情報の提供や禁煙サポートが求められている(※1)。なぜなら、シーシャを吸うことによるニコチンの量は紙巻きタバコと同等かそれ以上になるからで、それによってニコチン依存症になってしまい、喫煙者はシーシャ以外のタバコ製品に手を出すようになるからだ(※2)。

有害性はどうなの?

 では、シーシャを吸引、喫煙すると、タバコと同じような有害物質を摂取することになるのだろうか。タバコ煙を水に通すことで、そうした有害物質が除去されるのだろうか。

 これについては、特にシーシャでの喫煙が長く続いてきたイスラム圏などでの研究が多い。

 水をくぐって出てきたシーシャの煙を分析すると、発がん性物質であるタバコ特異的ニトロソアミン、多環芳香族炭化水素、ホルムアルデヒドなど、また、ベンゼン、一酸化窒素、重金属といった有害物質が含まれていることが明らかになっている(※3)。特に、最近では電気的に加熱する器具もあるが、一般的な喫煙具ではタバコ成分を加熱するために木炭を使い、タールでペースト状に固めているものが多いので、多環芳香族炭化水素、一酸化炭素、タールの量が多くなるようだ。

 このため、シーシャを吸うことで、発がん性物質や有害物質も同時に吸い込み、がん、心血管疾患、呼吸器疾患、一酸化炭素中毒、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などのタバコに特有の病気にかかるリスクが上がる(※4)。

ニコチンフリーも受動喫煙も

 では、葉タバコを含まない、つまりニコチンフリーのシーシャではどうだろうか。これまでの研究によれば、こうしたシーシャにニコチンは確かに含まれないが、タールなどの発がん性物質、一酸化窒素、一酸化炭素、多環芳香族炭化水素といった有害物質は同じように含まれていることがわかっている(※5)。

 また、シーシャの受動喫煙についても研究があり、シーシャ提供店の空気中の有害物質であるホルムアルデヒド、アセトアルデヒドは健康へ悪影響を及ぼす許容値を大きく超えているようだ(※6)。

 筆者も提供店でニコチンフリーのシーシャを吸ってみたことがあるが、水をくぐらせるために長く息を吸い込むことで、一回ごとの吸引量が多くなった。紙巻きタバコや加熱式タバコより、深く吸引することで肺の奥へタバコ煙が吸い込まれる危険性がある。

 また、シーシャ店やクラブは長い時間、滞在することが多く、シーシャ由来のタバコ煙にさらされるリスクは吸引者、受動喫煙者、従業員などで高くなるだろう。

 以上をまとめると、シーシャの有害性は他のタバコ製品と同じで、がん、心血管疾患、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患などのタバコ関連の病気にかかるリスクもある、ということになる。

 日本でもシーシャの喫煙者や水タバコを提供する喫煙目的店が増えていると考えられるが、筆者が厚生労働省に確認したところ、その全容を把握しようとする危機感は感じられなかった。

 どのタバコ製品にもいえることだが、どんな成分が入っているかわからない製品を吸い込み、呼吸器から体内へ送り込むのは危険だ。ネットではシーシャの器具も安価で売っているが、他のタバコと同様、シーシャにも手を出さないほうがいいだろう。

※2023/06/29: イスラム圏などにはタールで葉タバコを固めるシーシャ用製品もありますが、日本では一般的ではないようです。読者からの指摘で該当部分を削除しました。

※1:Taghrid Asfar, et al., "Interventions for waterpipe smoking cessation" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD005549.pub4, 7, June, 2023

※2:Mohammad Ebrahimi Kalan, et al., "Predictors of nicotine dependence among adolescent waterpipe and cigarette smokers: A 6-year longitudinal analysis" Drug and Alcohol Dependence, Vol.217, 1, December, 2020

※3-1:Bassel Monzer, et al., "Charcoal emissions as a source of CO and carcinogenic PAH in mainstream narghile waterpipe smoke" Food and Chemical Toxicology, Vol.46, 2008

※3-2:Alan Shihadeh, et al., "Toxicant content, physical properties and biological activity of waterpipe tobacco smoke and its tobacco-free alternatives" Tobacco Control, Vol.24, i22-i30, 9, February, 2015

※3-3:Giovanna La Fauci, et al., "Carbon monoxide poisoning in narghile (water pipe) tobacco smokers" Canadian Journal of Emergency Medicine, Vol.14, Issue1, 11, May, 2015

※4-1:Elie A. Aki, et al., "The effects of waterpipe tobacco smoking on health outcomes: a systematic review" International Journal of Epidemiology, Vol.39, Issue3, 834-857, 2010

※4-2:Georges Khayat, et al., "Waterpipe smoking and dependence are associated with chronic obstructive pulmonary disease: A case control study" EUROPEAN RESPIRATORY journal, Vol.38, Issue Suppler 55, 2011

※4-3:Hafiz Muhammad Aslam, et al., "Harmful effects of shisha: literature review" International Archives of Medicine, Vol.7, No.16, 2014

※4-4:Ziad M. El-Zaatari, et al., "Health effects associated with waterpipe smoking" Tobacco Control, Vol.24, Issue Suppl 1, 6, February, 2015

※4-5:Giovanna La Fauci, et al., "Carbon monoxide poisoning in narghile (water pipe) tobacco smokers" Canadian Journal of Emergency Medicine, Vol.14, Issue1, 11, May, 2015

※4-6:Reem Waziry, et al., "The effects of waterpipe tobacco smoking on health outcomes: an updated systematic review and meta-analysis" International Journal of Epidemiology, Vol.46, Issue1, 32-43, 13, April, 2016

※4-7:Anne S. Kienhuis, Reinskje Thalhout, "Options for waterpipe product regulation: A systematic review on product characteristics that affect attractiveness, addictiveness and toxicity of waterpipe use" Tobacco Induced Diseases, Vol.18, Issue69, 25, August, 2020

※4-8:Fares Darawshy, et al., "Waterpipe smoking: a review of pulmonary and health effects" EUROPEAN RESPIRATORY review, Vol.30, DOI: 10.1183/16000617.0374-2020, 2021

※4-9:Shazia Imran, et al., "A Comparative Histological Study of Effects of Cigarette and Shisha Smoke on Lungs of Mice" Pakistan Journal of Medical & Health Sciences, Vol.17, No.6, 2023

※5:Alan Shihadeh, et al., "Does switching to a tobacco-free waterpipe product reduce toxicant intake? A crossover study comparing CO, NO, PAH, volatile aldehydes, “tar” and nicotine yields" Food and Chemical Toxicology, Vol.50, Issue5, 1494-1498, May, 2012

※6:Kazem Naddafi, et al., "Formaldehyde and acetaldehyde in the indoor air of waterpipe cafés: Measuring exposures and assessing health effects" Building and Environment, Vol.165, 31, August, 2019

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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