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芸能界を激震させた松本人志「性加害」問題の行方を決める『週刊文春』の続報と#MeToo

篠田博之月刊『創』編集長
松本人志さん(写真:Splash/アフロ)

芸能界に激震!『週刊文春』の松本人志「性加害」報道

 2023年12月27日に発売された『週刊文春』1月4・11日合併号(新年特大号)が大きな波紋を広げている。年末年始の合併号には各誌とも強いネタをぶつけるのだが、同誌の場合はお笑い芸人、松本人志さんのスキャンダルだった。日本の芸能界のトップと目されている人物の性加害スキャンダルとあって、発売前日から芸能界で騒動になったという。見出しは「松本人志と恐怖の一夜『俺の子ども産めや!』」とすさまじいものだった。

 匿名の女性2人が8年前の2015年に起きた出来事を告発しているのだが、仕事関係の飲み会で知り合ったお笑いコンビ「スピードワゴン」の小沢一敬さんから呼び出され高級ホテルに行ってみると、他にも女性が呼び出されており、松本さんらから性的行為を迫られたという内容だ。12月上旬に弁護士同席のもと取材に応じたという女性A子さんは、当日の様子を詳細に語っている。彼女は、ジャニーズ性加害問題で「被害者が一斉に立ち上がり、大きな山が動いた。それを見て勇気をもらいました」と告発の動機を語っている。

 また記事では、その3カ月前、やはり小沢さんから連絡を受けて同じ高級ホテルで松本さんらの性加害を受けたというB子さんの告白も紹介している。2つの事例とも、女性たちはそこに松本さんが現れることを事前に聞かされておらず、集められたあとの段取りなど酷似している。

『週刊文春』1月4・11日新年特大号(筆者撮影)
『週刊文春』1月4・11日新年特大号(筆者撮影)

 ただし12月22日、締切直前の直撃に松本さんは「証拠見せてよ。わかんない!記憶ないって言ってんじゃん!」などと、そうした内容を否定した。女性らの告発によると、ホテルでは小沢さんに携帯電話を没収されていたというから、写真などの証拠を記者が持っていないことを直撃を受けた時に確認し、否定の対応をとったようだ。

 そして『週刊文春』発売当日、所属事務所の吉本興業が公式サイトで報道内容を全面否定、「法的措置を検討していく予定です」と発表した。全文を引用しよう。

《一部週刊誌報道について (2023年12月27日)

 本日発売の一部週刊誌において、当社所属タレント ダウンタウン 松本人志(以下、本件タレント)が、8年前となる2015年における女性との性的行為に関する記事が掲載されております。

 しかしながら、当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです。当社としては、本件記事について、新幹線内で執拗に質問・撮影を継続するといった取材態様を含め厳重に抗議し、今後、法的措置を検討していく予定です。

 ファン及び関係者の皆様には大変ご心配をおかけする記事内容でしたが、以上のとおり本件記事は客観的事実に反するものですので、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。》

 マスコミは、吉本興業が否定コメントを発表したことをニュースで報じたのだが、その報道に際して『週刊文春』側は「記事には自信がある」とコメントした。

多くの週刊誌がデジタル版でこの問題を報道

 ちょうど週刊誌はほとんどが年末年始合併号だったため、『週刊文春』の記事を受けて、デジタル版でこの件を取り上げた。

『週刊文春』は紙の雑誌の発売前日12月26日に主な内容を文春オンラインで配信したのだが、それを受けて『SmartFLASH』は27日に「松本人志に性加害疑惑報道『信じたくない』SNS激震、事務所は全面否定&本人沈黙…テレビ各局に報道姿勢を聞いた」を配信、その後も続報を配信している。

https://smart-flash.jp/entame/267376/

 また『FRIDAY DIGITAL』が1月3日付で「『性加害疑惑が海外で続々報道』の松本人志 “ジャニーズ問題と構図酷似”でスポンサー離れ加速か」という記事を配信した。

https://friday.kodansha.co.jp/article/351932

 この記事では「海外で続々報道」といってもシンガポールの新聞など一部を紹介しただけだったが、その後、日本での波紋が広がるにつけ、旧ジャニーズ問題に揺れた日本でまたも…と、この問題の海外報道は広がっているようだ。

 ネットでは、この間放送された松本さんの番組でACジャパンの広告が目についたからスポンサー降板が起きているのではないかという指摘がなされ、また『週刊文春』の記事に出てくる小沢さんが司会を務めたNHK番組が3日放送予定だったのが見合わせになったことも話題になった。NHK自身はマスコミの問い合わせに対して「編成上の都合」「総合的判断」などと答えており、性加害報道が原因だったかどうかは曖昧にしている。

 こうした経緯を比較的わかりやすくまとめているのは『女性自身WEB』で1月6日に配信された「『ダウンタウンDX』特番がACジャパン、提供クレジットなしで波紋…読売テレビの見解は?」だ。

https://jisin.jp/entertainment/entertainment-news/2280571/

 その中でCMへの影響についてはこう書いていた。

《12月29日に放送された『人志松本の酒のツマミになる話 2時間スペシャルin福岡』(フジテレビ系)では、通常なら10社以上名を連ねている提供欄に前半で記載されていたのは2社のみ。後半と合わせても6社ほどと、スポンサー離れを指摘する報道が出ていた。》

《4日に放送されたダウンタウンがMCを務める『ダウンタウンDX』(読売テレビ/日本テレビ系)のスペシャルは、年始恒例となっている「芸能界 2024 最強運ランキング!」と題した占い企画を行った。

 しかし、ここにも『酒のツマミ』同様CMにも影響が出ていたようだ。番組開始した21時台は、ACジャパンのCMや、こども食堂支援センターの周知を図るCMが相次いで流れることに。一般企業のCMも放送されていたが、番組途中で流れる提供クレジットには企業名が表示されないというまさかの事態となっていた。》

 このあたりの因果関係についても現時点では、可能性はあるが明確ではない。

告発された側が流出?女性が送ったお礼メッセージ

 そんな中、1月5日に『週刊女性PRIME』が配信した「松本人志の性加害疑惑を告発した女性『本当に素敵で…』スピードワゴン小沢に送っていた“お礼”」が話題になった。

https://www.jprime.jp/articles/-/30467?display=b

 今回告発した被害女性が、「今日は幻みたいに稀少な会をありがとうございました。会えて嬉しかったです」などというお礼メッセージを事件直後に送っていたというものだ。前出の小沢さん宛に女性が送ったものらしいメッセージのスクリーンショットが12月29日にXに投稿されたというのだが、告発された側が流出させたのだろう。

『週刊女性PRIME』が取り上げた松本人志さんの投稿(筆者撮影)
『週刊女性PRIME』が取り上げた松本人志さんの投稿(筆者撮影)

 そのスクショの画像の一部を松本人志さん本人が同じ5日に、Xで「とうとう出たね。。。」と引用したことで話題が広がった。その反響について日刊ゲンダイDIGITALが1月6日に「松本人志『とうとう出たね。。。』にファン《ダサすぎ》とドン引き…深まる小沢一敬の言動の謎」という記事を配信。松本さんの投稿について「フォロワーからは『無罪だった』と喜びの声が出ている一方で、一部のファンなどからはガッカリの声が相次いでいる」と報じた。

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/334336

この「性加害」問題の今後の展開はどうなるのか

 さて、この問題が今後どう展開するかは、『週刊文春』が掲載するだろう第2弾第3弾にかかっている。同誌の2022年の映画界性暴力告発も、23年の旧ジャニーズ事務所性加害告発も、第1弾を放った後、次々と告発が続き、まさに#MeTooのうねりとなったことが事態を大きく動かした。

 今回の問題で果たしてそういう動きが広がるのかどうか。そこが今後の展開の分かれ目だ。既に自分も同じような目にあったといったコメントをSNSに投稿している女性もいるが、『週刊文春』がそうした女性の声をどこまで拾い上げることができるのか。

 2022年の映画界性暴力告発の時も、第1弾を掲載する過程で、既に複数の告発した女性たちが連携していたが、誌面掲載を機にさらに多くの被害女性から情報提供がなされ、毎週のように#MeTooの輪が拡大していったが、今回はどうなのだろうか。

 第1弾の記事によるとA子さんへの取材は12月上旬から始まっているし、第1弾でA子さんB子さんと2つの事例が報告されているから、同誌が他の事例も追っている可能性は低くない。第1弾が合併号掲載だったのは、発売期間が長い号で部数を押し上げようという狙いとともに、それを機になされた情報提供を取材して第2弾に間に合わせたいという意図もあるのだろう。第1弾の記事を読むと、A子さんB子さんともに同じホテルが舞台だから、松本さんたちが同じパターンを繰り返していた可能性は高い。『週刊文春』が今後、実態にどこまで踏み込んでいけるのか、そこにこの問題がどこまで広がるかがかかっている。

 告発された側は恐らく、ホテルに女性を呼んだ事実はあったとしても、女性たちも合意のうえでゲームに興じたもので、性加害といった事実はない、という主張なのだろう。その主張を裏付けるものとして、事件直後のA子さんのお礼メッセージも告発された側が流出させたのだろう。これについては、第2弾でA子さん本人が説明するに違いない。

問われる日本の芸能界の構造的問題

 それにしても、旧ジャニーズ事務所に続いて吉本興業となれば、日本の芸能界の2大勢力が性加害問題の激震に見舞われたわけで、今回の告発が芸能界に及ぼす影響は大きいと言える。

 もちろん松本人志さんや吉本興業は、芸能界に君臨し、テレビ界にも大きな影響力を持っているのだが、旧ジャニーズ事務所性加害問題でさんざん自己批判を繰り返したテレビ界にあっては、以前のように「沈黙」や「忖度」で見過ごすわけにもいかないだろう。

 果たして今後の流れがどうなるか。『週刊文春』の第2弾第3弾の告発内容、テレビ界CM界の対応など、この1月中にも方向性は決まるはずだ。かつて芸能界においては性的放縦は”芸のこやし”などと肯定され、それを武勇伝のように語る芸能人もいたが、女性を性的欲求のはけ口としかみなさないような対応については次々と告発がなされるようになった。

 一昨年の映画界の性暴力告発、昨年の旧ジャニーズ事務所性加害告発が大きな影響を及ぼしていることは間違いない。

〔追補〕そして吉本興業が松本さんの活動休止を発表

 以下は追補だが、1月8日、吉本興業が「松本人志の今後の活動に関するお知らせ」を公表した。『週刊文春』の報道などに対する基本姿勢は変わっていないとしながらも、こう説明した。

《しかしながら、その後、当社及び松本だけでなく、お取引先を含めた関係者の皆様に対しても問い合わせ等が相次ぎ、松本のテレビ出演を巡る記事が度々掲載されるなどしておりますところ、このたび、松本から、まずは様々な記事と対峙して、裁判に注力したい旨の申入れがございました。そして、このまま芸能活動を継続すれば、さらに多くの関係者や共演者の皆様に多大なご迷惑とご負担をお掛けすることになる一方で、裁判との同時並行ではこれまでのようにお笑いに全力を傾けることができなくなってしまうため、当面の間活動を休止したい旨の強い意志が示されたことから、当社としましても、様々な事情を考慮し、本人の意志を尊重することといたしました。》

 裁判に注力したい云々は、マスコミへのある種の威嚇で、現実に大きな理由となったのは、テレビ現場でのやりにくさだろう。こういう状況でお笑いということ自体難しいし、何よりもテレビ界がどう対応したらよいか困惑しているに違いない。

 当事者が否定しているから従来なら、視聴率のほしいテレビ界はそのまま松本さんを起用し続けたに違いないが、やはり旧ジャニーズ問題が大きな影を落としている。旧ジャニーズ問題で反省を繰り返し、「紅白歌合戦」から旧ジャニーズのタレントを排除するといった事態を前にして、松本さんの起用をどうすべきか、テレビ局も頭を抱えているはずだ。とりあえずしばらくは様子見、というのが今回の措置に至った経緯だろう。(1月8日追補)

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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