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再び東京でも上映!ドキュメンタリー映画『ガザからの報告』土井敏邦監督に聞いた

篠田博之月刊『創』編集長
映画『ガザからの報告』©️2024 DOI Toshikuni

2024年10月の新宿のK's cinema上映を皮切りに全国で順次公開されてきた土井敏邦監督のドキュメンタリー映画『ガザからの報告』が再び12月21日からK's cinemaでアンコール上映されるほか、吉祥寺のアップリンクなどでも上映予定だ。

 第1部と2部あわせて205分、3時間超の上映だが、ガザのこれまでの歴史的背景や現状がどうなっているかなど、迫力ある映像で知らせてくれる。ガザのニュースに触れながら、どうしてこういう事態になっているかそもそもよくわからないという人はぜひこの映画を観てほしい。

 これだけ長尺の映画だと、普通は配給会社から、もう少しカットして2時間に収めてほしいと要請されるものだが、上映後のトークで土井監督は「30年間命がけで撮影した映像を、劇場の都合に合わせて短くするなんて本末転倒」と言明。監督・撮影・編集などほとんど自分でやっているし、長年取り組んできたという自負ゆえの言葉だけに説得力がある。

徹底的に民衆の視点に

 もうひとつこの映画の特徴は、徹底的に民衆の立場に立っていることだ。パレスチナ寄りかイスラエル寄りかみたいなことがよく言われるが、土井さんはそのどちらでもない。民衆の立場から見たパレスチナやガザの問題、そういう視点に立つと何が見えるかと提示しているのだ。その視点がある意味で新鮮だ。

 私が観たのは前回、K's cinemaで行った上映の最終日だったが、平日の昼間3時間超の時間というのに、座席は大体埋まっていた。私は映画館に向かう途中でその長尺を知って焦ったが、3時間超観る価値のある映画だ。

 第1部は土井さんがこれまで撮ってきたパレスチナの歴史的経緯を、地元の1家族を通してたどるという映像、休憩をはさんで第2部は昨年来のガザの現実を、地元からSNSで送られた貴重な映像で捉えたもの。テレビなどでは観られない現地の人が映した現場の映像だ。

 この映画について土井さんにインタビューした。

映画『ガザからの報告』©️2024 DOI Toshikuni
映画『ガザからの報告』©️2024 DOI Toshikuni

民衆が何を考えているかが一番大事

ーー映画全体を通じて、闘っているどちらの政府でもなく民衆の視点を意識されて気がしましたが、それはが土井さんの基本的スタンスなのですね。

土井 そうです。どの組織とかではなくて民衆が何を考えてるかというのが僕にとって一番大事なんです。最初からそうですね。

――この映画の撮影はいつ頃から始めたのですか?

土井 パレスチナへジャーナリストとして通い始めたのは1985年ですが、ガザを映像で記録し始めたのは1993年10月からですね。まず3カ月ぐらい行って、1〜2週間帰って、もう1回行く。わりと頻繁に通ってました。半年くらい住み込んだ時期もあります。今回の映画で第1部に出てくるエルアクラ家にはずいぶん通いましたね。

その映像は、94年にNHKのETV特集で一度放送しています。その後DVD化して、『届かぬ声 パレスチナ・占領と生きる人びと』という4部作を出したんです。その第1部『ガザ―「和平合意」はなぜ崩壊したのか―』というのが今回の映画のオリジナルですね。

 僕は多い時には年に2~3回、現地に行っており、1回行くと大体1~2カ月現地にいて取材をしています。撮れた映像はNHK「ETV特集」とか、当時の「ニュースステーション」「news23」などの番組の特集として使っていただきました。

映画上映の後、トークを行う土井監督(筆者撮影)
映画上映の後、トークを行う土井監督(筆者撮影)

――2023年12月以降は、ガザに入るのは難しくなってしまったわけですが、今回の映画の第2部では、現地で友人が撮った映像を使っているわけですね。

土井 SNSの機能を使って、毎週現地とやりとりしています。もうちょうど1年ですね。週に1回か2週間に1回、Mという人物とやりとりしています。

 映画にも出てきますが、彼の家が戦車の砲撃を受けて実弟と義弟の2人が殺されました。その直後から避難し、家族全員で1カ月くらい、ラファでテント生活しました。その間はネットが繋がらず、連絡は途絶えました。それ以外はずっと今まで約1年2ヵ月間続けています。

ハマスと一般市民の関係は?

――その映像はこれまで公開してこなかったのですか?

土井 一部はETV特集「ガザ 私たちは何を目撃しているのか」(2024年1月20日放映)で公開しましたが、1月以降のインタビューは初公開です。

――撮った映像を昔はテレビ局がよく使ってくれたわけですか。

土井 ただテレビはいろんな意味で制限があるんですよ。どこを使うかはテレビ局のディレクターが選ぶのですが、僕としてはどうしてそこを使わないんだ、といった歯痒さがあります。だから最近は自分映画というかたちにして、公開しています。

 僕はね、最初、この映画で人を集めるのは難しいと思ったんですよ。やはり長いしね。でも映画館にかけるために自分の30年間の記録を短くしてしまうというのは本末転倒だろうと思っているんです。僕の記録なんだからとにかくきちんとした形で残すんだという、そういう思いで作ったんです。自分が本当に苦労して取材をして撮った映像ですからね。

――東京のほかにも横浜や大阪など各地で映画館にかかっているわけですが、自主上映も同時に並行してやっていくということですか。

土井 特に地方ではなかなか映画館にかからないから、自主上映という形で10人でも5人でも集まってくださればやろうと考えています。やっぱり多くの人に観てもらいたいという思いがあるんです。

 既に山形ドキュメンタリー映画祭に応募しました。ただ国際映画祭に出すのには非常に微妙な問題があるんですよね。登場する人物には一応モザイクかけましたが、まだ現地でハマスを批判するのは危険なんですよ。

 映画の第1部では、自治政府のアラファト一派の腐敗を描いてますが、それについては既にいろいろなメディアが指摘しています。でも、怖いのはやっぱりハマスですよ。私が「ハマスを批判するジャーナリスト」だとみなされると、ハマスが今後もガザで勢力を維持することになれば、ガザ取材は難しくなるだろうと思います。

 僕は以前、『沈黙を破る』という映画を作ってるんですが、その年、イスラエル経由でガザに入ろうとした時に、イスラエル政府のプレスオフィスでプレスカードの発行を拒否されました。プレスカードがないと、イスラエル側からガザ地区にはいれません。それは5年間続きました。5年後、「あなたは反イスラルのジャーナリストだ、ブラックリストに載っている」とプレスオフィスの担当者から直接言われて、その時、「ああ自分はやっぱりマークされてるんだな」と思い知りましたね。

――今回の映画ではMさんが現地から報告しています。昨年のハマスの越境攻撃は間違いだったという意見が映画の中で語られているし、Mさんの身に危険はないのですか?

土井 いや、彼は「顔を出していいのに、なぜモザイクをかけるんだ?」と言っています。彼は研究者・作家であり、6冊も本を出しています。客観的に状況を観察・記録し、それを表現できる人です。でも彼と彼の家族は守らなければなりません。だから映画ではモザイクをかけています。

――日本での報道を見ていると、ハマスに対して一般の市民はどう感じているのかほとんど伝えられていないので、今回の映画はとても参考になったのですが、いずれにせよ危険を伴う取材なわけで、十分気を付けて続けていただきたいと思います。

『ガザからの報告』監督・撮影・編集・製作:土井敏邦 205分

公式HPは下記。

http://doi-toshikuni.net/j/gaza/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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