読書バリアフリーへの取り組みは未だ「総論賛成」のままだとの『ハンチバック』市川沙央さんの指摘
2024年11月5日に横浜市で開催された「図書館総合展」に足を運び、「著者・出版社・図書館による読書バリアフリーへの挑戦」というシンポに参加した。ちょっと時間がたってしまったが、その後、そのシンポでの『ハンチバック』の著者・市川沙央さんと会場のやりとりがウェブに公開されている。ぜひ観ていただきたいので紹介しよう。
パネリストとコーディネイタ―は下記メンバーだった。
三田 誠広氏(作家、日本文藝家協会副理事長)
落合 早苗氏(アクセシブル・ブックス・サポートセンター(ABSC)センター長、 日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長)
立花 明彦氏(日本点字図書館館長)
湯浅 俊彦氏(追手門学院大学国際教養学部教授/図書館長 日本ペンクラブ言論表現委員会委員)
図書館総合展には多くの図書館関係者が参加するというので、そのシンポにも恐らく関係者が来ていたと思われる。図書館現場の人たちがこの問題をどう考え、どう対応しているかなどぜひ聞きたかったのだが、時間の関係で会場の質疑応答の場が設けられなかったのは残念だった。
この問題は以前このヤフーニュースにも書いたが、1年以上前から日本ペンクラブで議論し、2023年11月には、市川沙央さんと桐野夏生ペンクラブ会長、金平茂紀ペンクラブ言論表現委員長らによるトークが行われた。
そして2024年4月9日に作家3団体の共同声明、6月には出版5団体共同声明が出された。この歴史的意義の大きな経緯を経て、図書館のバリアフリー対策を考えようと開かれたのが今回のシンポだった。
ちなみに作家3団体の声明に至る経緯は下記記事をご覧いただきたい。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7c7b5d60e2a5f1749be619c6ff4ddd2f3b71ea95
作家3団体による読書バリアフリーに関する共同声明はとても意義のある歴史的出来事だ
さて横浜での図書館総合展の話に戻ろう。詳細は映像をご覧いただきたいが、市川さんの話を久々に聞いて、彼女のブレのない批判精神と一方でのバランス感覚が改めてすばらしいと思った。
例えば、作家3団体声明、出版5団体声明などを経て、現状は少しずつ変わりつつあると思うか、現状をどう見ているか、という問いに、彼女は日本ではやはり「総論賛成各論反対」という現実があると語った。相変わらず批判精神旺盛なのに感心したが、同時に彼女は、これまでこの問題に関わってきた人たちにリスペクトも示した。このあたりのバランス感覚は彼女ならではだ。
また日本の図書館にマジョリティ志向が強く、何冊利用されたかという閲覧数を気にするために、よく読まれている本を置こうとする傾向があることなども指摘した。かつて、図書館がベストセラーの本を何冊も購入しているという「複本」問題で図書館と作家・出版社とが対立したことがあったが、図書館の存在や役割について、今回の市川さんの提起を受ける形で、図書館に求められているものは何か、図書館はどういう存在なのか議論を深めていってほしい。
図書館総合展での市川さんとのやりとりは、動画をホームページで見ることができる。下記をクリックすると図書館総合展のホームページに移動するが、中央付近にその動画が公開されている。
https://www.libraryfair.jp/forum/2024/1313
読書バリアフリー問題は、確かに「総論賛成だが各論は別」となりがちだ。市川さんの問題提起をぜひ共有し、現状を改めていってほしいと思う。
さてそのシンポ会場を出て1階に足を運ぶと様々な団体の展示が行われていた。なかには能登半島の地震後の図書館の取り組みといった、とても興味深い展示コーナーもあった。私は初めての参加だが、図書館総合展、なかなか有意義な取り組みだと思った。