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俳優として活動する中、突然思い立って映画作りに初挑戦。町から消えゆく酒屋さんに思いを寄せて

水上賢治映画ライター
「中村屋酒店の兄弟」の白磯大知監督  筆者撮影

 俳優としても活動する白磯大知が、独学で脚本を書きあげ初監督した映画「中村屋酒店の兄弟」。

 第13回田辺・弁慶映画祭をはじめ国内映画祭で受賞を重ねた本作は、今はもうない一軒の酒屋を舞台にしている。

 その酒屋は都内にあった「中村屋酒店」。ただ、同店は、本作において単なる撮影場所では片付けられない場になった。

 出発点は別のところから始まっている。中村屋酒店をモチーフにシナリオが書かれたわけではない。

 だが、不思議なめぐりあわせで本作は、中村屋酒店の歴史でありお店を切り盛りしてきた夫婦の歩みを封じ込めることになる。

 そして、それは白磯監督のみならず、キャストの望みが結実してそういう形になったといっていい。

 かつてあった酒店が物語にも、監督にも、キャストにも大きく影響を与えた「中村屋酒店の兄弟」はいかにして生まれたのか?

 スタッフとキャストに訊くインタビュー集。

 主演を務めた藤原季節(第一回第二回第三回番外編)に続いて、手掛けた白磯監督に訊く。(全四回)

脚本を書き始めた理由

 はじめに脚本の話から。そもそもの話として、白磯監督は俳優として活動する一方、ずっと脚本を書き続けていたという。

「もともとひとつの物語を書きたい意欲があって。

 別に映画にするとか関係なく、誰にみせるわけでもなく、頭の中に浮かんだ物語を書いていたんです。そして、書いたものをほんとうに身内というか知り合いに見てもらったりしていた。

 そうしたら、当時のマネジャーさんがそのことを聞きつけて、自分にも1回見せてほしいということになった。

 そのマネージャーさんというのが脚本の勉強を一時期していて、つまり脚本のノウハウを心得ている人だった。

 で、僕の書いたものを見て、『白石君は脚本の方が向いているかもしれない』と言われたんです。

 当時の意識としては小説を書くような感覚でいたんですけど、それからちょっと脚本を意識して書くようになった。

 いつか形になったらいいなと思って、短いモノから長いモノまでいろいろと書きためていました。

 今回の『中村屋酒店の兄弟』に関しては、ある程度、自分の中で脚本というものを楽しみながら、でもちょっとひとつの物語を書きあげる生みの苦しみみたいなことを感じながら書けるようになってきたときにできたものです」

自分の中で「これは映像で見てみたい」と純粋に思ったんです

 『中村屋酒店の兄弟』の脚本に関しては、映像にしたい思いに駆られたという。

「理由はわからないんですけど、自分の中で『これは映像で見てみたい』と純粋に思ったんです。

 それまで、そういう思いにかられることはあまりなかった。

 どうにかして映像化できないかという衝動にかられ、はじめて自分で動き出した。

 ただ、これまで作品を撮ったことはないので、どう動けばいいかわからない。

 なので、まず役者としてお世話になったことのあるCMディレクターの方に相談しました。『映画を撮りたいんですけど、どうすればいいでしょうか』と(苦笑)。

 そうしたら、その方ものりで『いいじゃん、撮りなよ』といってくれたんです。

 僕はもう本気でしたから、『じゃあ』ということで、たまたまそのCMディレクターの方がCMプロデューサーの方を連れてきていたので、その人も巻き込んで『もう撮りますから』ということで、スタッフを紹介していただいたんです。

 そのときが、今回の作品のはじまりでした(笑)」

「中村屋酒店の兄弟」より
「中村屋酒店の兄弟」より

おやじに連れられてよくビールを買いにいっていた酒屋の思い出

 では、なぜ酒屋を舞台にした脚本を書き上げたのだろうか?

白磯監督自身は東京で育った。年代としても酒屋はあまりなじみがない気がするのだが?

「脚本を書くときにイメージした酒屋は僕が住んでいた近所にあったお店です。

 当時、住んでいた練馬の方にあった酒屋で、いまはもうお店はなくて更地になっちゃっています。

 その酒屋には、おやじに連れられてよくビールを買いにいっていました。

 年齢を重ねるにつれていく機会は減っていったんですけど、あるとき、お店が閉店する話が僕の耳に入ってきた。

 そのとき、実際にお店にいったりもしたんですけど、なんともいえない気持ちになったんですよね。

 それこそ、子どものころの懐かしさがこみあげてきたり、これまであったものがなくなってしまうという寂しさがあったりと、いろいろな感情が僕の中にわいてきた。

 これがいわゆる『ノスタルジー』というものなのかなと思って。

 そのことと僕がずっと書きたいと思っていた兄弟関係を合わせて、落とし込んだのが今回の『中村屋酒店の兄弟』の脚本です」

(※第二回に続く)

【藤原季節インタビュー第一回はこちら】

【藤原季節インタビュー第二回はこちら】

【藤原季節インタビュー第三回はこちら】

【藤原季節インタビュー番外編はこちら】

「中村屋酒店の兄弟」ポスタービジュアルより
「中村屋酒店の兄弟」ポスタービジュアルより

「中村屋酒店の兄弟」

監督・脚本:白磯大知

出演:藤原季節 長尾卓磨 藤城長子

橘 美緒 千葉龍都 新井秀吾 高橋良浩 中村元江

撮影:光岡兵庫 撮影助手:山田弘樹、森本悠太、斎藤愛斗

録音:小笹竜馬

照明:岩渕隆斗、小松慎吉

制作:徳平弘一、長野隆太、光岡兵庫、樋井明日香、白磯大知

編集:キルゾ伊東、白磯大知

音楽:総理(響心 SoundsorChestrA)「とある兄弟」

ロケ地協力:中村屋酒店、清水宅

公式サイト:https://nakamurayasaketennokyoudai.com/

全国順次公開中

ポスタービジュアルおよび場面写真は(C)『中村屋酒店の兄弟』

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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