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いま最も注目を集める若手俳優のひとり、藤原季節。彼が常に「絶望した状態」に身を置く理由とは?

水上賢治映画ライター
「中村屋酒店の兄弟」で主演を務めた藤原季節 筆者撮影

 俳優としても活動する白磯大知が、独学で脚本を書きあげ初監督した映画「中村屋酒店の兄弟」。

 第13回田辺・弁慶映画祭をはじめ国内映画祭で受賞を重ねた本作は、今はもうない一軒の酒屋を舞台にしている。

 その酒屋は都内にあった「中村屋酒店」。ただ、同店は、本作において単なる撮影場所では片付けられない場になった。

 出発点は別のところから始まっている。中村屋酒店をモチーフにシナリオが書かれたわけではない。

 だが、不思議なめぐりあわせで本作は、中村屋酒店の歴史でありお店を切り盛りしてきた夫婦の歩みを封じ込めることになる。

 そして、それは白磯監督のみならず、キャストの望みが結実してそういう形になったといっていい。

 かつてあった酒店が物語にも、監督にも、キャストにも大きく影響を与えた「中村屋酒店の兄弟」はいかにして生まれたのか?

 スタッフとキャストに訊くインタビュー集。

 ひとり目は、いまもっとも注目を集める若手俳優のひとりといっていいだろう、内山拓也監督の「佐々木、イン、マイマイン」や山本起也監督の「のさりの島」をはじめ数々の話題作に立て続けに出演し、本作において中村兄弟の弟、和馬を演じた藤原季節のインタビューは3回にわたって届けた。(第一回第二回第三回)。

 今回はその番外編として、作品から少し離れ、目指す役者像などについて訊いた。

現在地はゼロ地点です

 彼のプロフィールを調べて確認してもらえれば一目瞭然だが、現在、出演作が相次ぐ。この現状を前に、自分の現在地をどう考えているのだろうか?

「現在地はゼロ地点に近いです。いや、ゼロですね。

 ゼロであるっていうのと、ゼロでありたいっていう気持ちもある気がします。

 俳優の柄本明さんがあるインタビューの中で『絶望がゼロ地点、絶望が出発点だ』という言葉を残している。

 この言葉が僕はものすごい好きで、自分の現在地ということをきかれたときに、自分はゼロでというか。

 ひとつの原点的な意味だけではなくて、絶望している状態を、スタート地点に置いておきたい気持ちがある。

 だから、ゼロです。

 また、ちょっと矛盾しているかもしれないですけど、絶望している状態っていうのは、何かにものすごく希望を抱いてる状態でもあると思う。

 そういう状態に自分を置いておきたい」

「中村屋酒店の兄弟」より
「中村屋酒店の兄弟」より

僕は俳優だけど他者を演じきれないかもしれない、

映画は世の中に必要じゃないのかもしれない、

その上で自分はなにができるのかを考えています

 気づけば、来年には30代を迎え、若手と言われる時期から少し抜けつつある。

 いま俳優という仕事をどう受けとめているだろうか?

「気づいてきたのは、たとえば『映画は絶対に必要』とか、『俳優は他人に成りきれる』とかいった断定的なもの言いは常にできないなと。

 さきほどの話に戻るんですけど、俳優という仕事も僕は、どこか絶望の状態からみていて、僕は俳優だけど他者を演じきれないかもしれない、映画は世の中に必要じゃないのかもしれない、その上で自分はなにができるのかを考えています。

 絶望した状態から、自分が社会とどう関わっていくかとか、俳優としてなにができるのかを考えていく。

 ネガティブかもしれないけど、その状況に俳優としても人間としても軸を置いておきたい。

 常に間違ってるかもしれないっていう臆病さを自分の中に持っておきたい

 というのも、そういうふうに自らを律しておかないと、やっぱり人間っておごりがでてしまう。

 冷徹なぐらい厳しく自分をみておかないと、おかしな方向にいく可能性がある。

 だから、悲観的な思考かもしれないけど、臆病でいていいと思っています。

 ただ、それだけだと下しか向けなくなってしまうから、そういう感情を抱きつつも、いかなる場合も前を向くことは忘れない。

 きっと自分には『この作品を乗り越えられるはずだ』といった自信も持っておく。

 その相反する感情を常に僕は持っている状態を続けてます。

 だから、俳優の仕事は楽ではないです。

 変な話ですけど、俳優ってちやほやされるんです(笑)。

 たとえば、舞台挨拶に立って花束をいただいたりとか、今日もこうして取材を受けていますけど、ヘアメイクの方や衣装の方がいろいろと尽くしてくれる。

 これほど頻繁にお花をいただいたりすることってそうそうないと思うんです。

 着飾ってめかしこんだりする機会って、人によっては一生に一度あるかないかかもしれない。

 俳優という仕事においては当たり前かもしれないけど、それを当たり前に感じてはいけないと思うんです。

 僕はそれを肝に銘じておきたい。

 なぜなら、僕が映画で演じるのは、実際の世界で社会で生活を送っている人たち。

 この世界の片隅で懸命に生きている人たちを演じているわけです。

 映画の主人公のような経験をしている人たちはいっぱいいると思うんです。

 たとえば、耐えがたい哀しみに直面するヒロインや、目標に向けて頑張る主人公などに、自身を重ねてみる。

 『自分も同じような経験したな』とか『同じような境遇にいたな』とか思う人がたくさんいる。

 そういう市井の人を、僕は演じている。

 そして、僕はこの世界で懸命に生きている人を、これからも演じていきたい。

 ですから、ちやほやされて高慢になっては話にならない。

 そもそも演じられないと思うんですよ。そんなことになってしまっては。

 だから、話が戻りますけど、絶望の状態に自分を置いておいて、これからもこの仕事を頑張っていけたらと思っています」

【藤原季節インタビュー第一回はこちら】

【藤原季節インタビュー第二回はこちら】

【藤原季節インタビュー第三回はこちら】

「中村屋酒店の兄弟」ポスタービジュアル
「中村屋酒店の兄弟」ポスタービジュアル

「中村屋酒店の兄弟」

監督・脚本:白磯大知

出演:藤原季節 長尾卓磨 藤城長子

橘 美緒 千葉龍都 新井秀吾 高橋良浩 中村元江

撮影:光岡兵庫 撮影助手:山田弘樹、森本悠太、斎藤愛斗

録音:小笹竜馬

照明:岩渕隆斗、小松慎吉

制作:徳平弘一、長野隆太、光岡兵庫、樋井明日香、白磯大知

編集:キルゾ伊東、白磯大知

音楽:総理(響心 SoundsorChestrA)「とある兄弟」

ロケ地協力:中村屋酒店、清水宅

公式サイト:https://nakamurayasaketennokyoudai.com/

全国順次公開中

ポスタービジュアルおよび場面写真は(C)『中村屋酒店の兄弟』

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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