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カジノ、公営競技、パチンコ:各業界の依存対策は?

木曽崇国際カジノ研究所・所長

以下、時事通信からの転載。

カジノ、本格検討に着手=推進本部が初会合―政府

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170404-00000031-jij-pol

政府は4日午前、カジノを含む統合型リゾート(IR)の整備に向けた推進本部の初会合を首相官邸で開き、本格検討に着手した。カジノの運営方法や入場規制の在り方、IRを造りたい地方自治体が国の認定を受けるための手続きなどを話し合い、今秋の臨時国会にも詳細なルールを定めたIR実施法案を提出する。

現在政府においては、IR整備推進本部とは別にギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議という会議体が組成されているわけですが、今後はこの二つの主体が連携を取りながらカジノ合法化に向けた具体的な検討を行ってゆくこととなります。

ギャンブル等依存の対策に関してはカジノ業界のみならず、公営競技、パチンコなどへの業界規制も合わせて論議が進められており、実はギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議側ではすでに各業界が今後どのような形で対策を行ってゆくのかの大体の方向性が示されている状況。各業界を比較できる形でざっくりと纏めると以下のような形になります。

カジノ、公営競技、パチンコにおいて検討されている依存対策

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※)カジノは昨年の国会審議等の中で公式に語られた内容に基づく、公営競技・パチンコはギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議内で検討すると謳われたもの。

このように並べて比較してみると、おしなべてカジノへの適用が検討されている依存対策が他業界と比べると非常に厳しいという事がみえてきます。勿論、各業界ごとの「特性」があるので、全ての関連業種が横並びで同じ施策を打つ必要はないわけですが、カジノに採用されている施策を公営競技やパチンコが採用しないのだとすれば、「なぜ、それを採用しないのか」に関する説明は少なくともして頂かなければなりません。勿論、その逆もまた然りですが。

1)相談窓口

例えば、依存問題の相談窓口の設定ですが、今までカジノ側では施設内にヘルプラインの掲示は義務付けるべきとする論議はなされてきたものの、その窓口に関してはパチンコ、公営競技、カジノに関わらず統合して対処を行うことを前提としていたところもあり、カジノだけを専用であつかうものの設置検討は(私が知る限りは)これまでなされたことがありません。

一方、今回公営競技やパチンコ業はそれぞれ各業界ごとの相談窓口を独自で作る、もしくは既存の窓口を強化してゆく方向性を示しているわけで、私としては正直「何でそんな非効率的なやり方すんの?」というところもあるのですが、ひょっとするとカジノはカジノで独立した窓口の設置を検討しなければならないかもしれません。

2)青少年の利用対策

カジノ側の論議では、そもそもカジノフロアの入口において全入場者のIDチェックを行うことが前提としてこれまで論議が行われています。一方、現時点で公営競技とパチンコが示しているのは「青少年に対する注意喚起をより積極的に行い、若そうに見える利用者には警備員による年齢確認を行う」というだけのもの。カジノ側は全顧客のIDチェックが前提になっているのに対して、なぜ公営競技、パチンコは「疑わしき者のみ」のチェックで十分であると考えているのか、その点に関するご説明は頂きたいものです。

3)入場制限

カジノ側の論議では、いわゆる自己排除、家族排除と呼ばれる利用客自身もしくはその家族の申請により特定人物の施設入場を禁止する制度を導入することになっています。今回、公営競技、パチンコ側でも類似する仕組みの導入検討は示されたわけですが、一方で先述の通り入口において全入場者のチェックを行うカジノとは違い、全入場管理を前提としていない公営競技やパチンコでその制度の実効性をどのように高めるつもりなのか。制度はあっても実質機能しないような仕組みであっては意味がないわけで、そのあたりの腹づもりをシッカリと各関係者にはご説明をいただかなければなりません。

4)利用金額の制限

この点に関しては3業態の中で唯一インターネットによる賭けを認めている公営競技が導入検討を示した施策でありますが、公営競技はネットでの投票券販売に関して一定期間内の賭け上限を設定できる精度の検討を行うそうです。一方でカジノ、パチンコはそもそもネットでのゲーム参加は想定されていないわけですが、公営競技のネット販売に上限を付けるのと同様の仕組みをリアル側の施設で導入すべきか否かに関しては別途検討が必要かもしれません。

5)入場料

実は、この点は私自身は「依存対策として逆効果である」として反対をしている施策内容ではあるのですが、現在までのところ我が国のカジノは自国民の入場に対して1万円前後の高額の入場料を課すという方向で検討が行われています。これがもし本当に有効な依存対策であるとしてカジノ側に課されるとするのならば、公営競技やパチンコにも同様の高額入場料を課すかどうかの検討をする必要は出てきますし、もしその施策を採用しないのなら採用しないで「何故、必要がないのか」を説明する必要が出てきます。

6)広告制限

現在までの我が国でのカジノ規制論議では、カジノ事業者は少なくとも「カジノ」に関するマスメディアでの広告を一切禁じられるべきであるとの主張が主流となっています。一方、公営競技側が示している今後の検討内容では、a)射幸性を煽る内容とならないようにする、b)広告に依存対策メッセージを付加する、c)屋外広告が過剰にならぬよう抑制する、とはしていますが、カジノに対して検討が行われている「マス広告の禁止」は謳っていません。一方、パチンコに関して警察庁は、広告に関する新たな規制措置に一切言及していませんので、現時点で業界に課されている規制で十分であると考えているようです。このあたりの「温度差」というのは、かなりカジノと乖離があるようにも見えるので、この点に関しては各業界になぜマス広告の禁止は必要がないのかをご説明頂く必要があります。

7)ゲームの射幸性制限

パチンコはそもそも、カジノ、公営競技と違い法律上「賭博であってはならない」ものであるわけで、近年高くなりすぎたと言われているパチンコの射幸性に関して、改めて上限を定めなおすとの方針を警察庁は示しているようです。また、警察庁は法令に定められた基準が守られているかを判別できる機能を各遊技機に設置義務付けることを検討するとのこと。ま、このあたりはパチンコ特有の論議かもしれません。

8)ATMの設置

この点、私はちょっとびっくりしてしまったのですが、公営競技では競技場の中に設置してあるATMにおいて、キャッシング(金銭の貸与)機能までもを提供しているそうです。公営競技は、今回の依存対策の検討において、そのキャッシング機能の廃止を謳っています。一方、同様にパチンコも店舗内にATMを設置することまでは認められているのですが、こちらは事業者側の自主規制によってキャッシングの機能はなし、銀行引き落としも一日3万円という上限措置が採られています。それに対してカジノはというと、実は公式の論議の中で「カジノ施設内でのATMの設置そのものを禁ずるべきだ」との主張が行われており、この点においても公営競技、パチンコ、カジノの間で適用する規制に差異があるように思えます。

9)第三者機関による評価

これはパチンコ業側から新たに出されてきた依存対策案であり、パチンコ業界は依存対策に関して評価、提言を行う第三者機関を設立し、定期的に業界への報告を行う形式を検討しているようです。この種の案はカジノ業界側ではあまり表立って聞いたことがないのですが、公営競技業界も合わせて導入検討の必要があるかもしれません。

10)依存対策の財源拠出

そして最後に一番重要なお話なのですが、各種依存対策に必要となる財源をどのように拠出するのかという議論です。カジノではこれまでの公的論議の中で「カジノに課されるカジノ税の中から、一定比率を依存対策予算に充当する」との主張が行われています。一方、現時点で公営競技、パチンコの両業界から出されてきている検討案の中では、そのような財源拠出の話は一切触れられていません。当たり前の話なのですが、あらゆるギャンブル等サービスに対する依存対策をカジノ側だけが拠出する財源で実施するなんてのは有り得ないわけで、各業界の売上規模、およびその社会的影響度などを勘案した上で応分の負担をして頂かなければなりません。

繰り返しになりますが、各業界によって業界特性というのはあるのですから、依存対策に関して必ずしも全産業が横一線で同じ施策を行う必要はないとは私自身も思っています。一方で当然ながら同様のギャンブル等産業の一員として、互いが実施する依存対策の間に一定の整合性はなければならないワケで、特定の施策を実施しないのならば実施しないとして、その理由や根拠をシッカリと示す必要が出てきます。今回纏めたとおり、現時点で各業界から出されてきている規制はかなりガチャガチャになっているわけで、この辺りは引き続き論議を深めてゆく必要があると考えているところです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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