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日本版カジノ法制、市場を狭める3つの規制案

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:ロイター/アフロ)

さて、政府IR推進会議から我が国の統合型リゾート導入、およびカジノ合法化に関する制度案が示されたということで、色々な物議をかもしています。

カジノ業界、政府案に失望=「投資額は半減」

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017073100883&g=eco

政府が31日まとめたカジノを含む統合型リゾート(IR)の規制案に対し、カジノ業界は失望感をあらわにしている。特にカジノ区域の面積に上限を設ける規制に不満が集中。一つのIR施設で最大1兆円規模との試算もあった投資額は「5000億円に引き下げざるを得ない」との声も上がっている。

肝心の投資を担う事業者側からは特に政府が方針を掲げたシンガポールの規制を念頭において15000平米を基準とするカジノフロア面積上限案について不満が集中しており、投資額が大幅減額せざるを得ない、とのことです。IR推進会議が今回示した制度案に関しては、正直、様々な問題点が含まれているのですが、今回あえて市場形成の観点から問題点を指摘すれば、大きくは前出の面積上限を含めて3つの論点が存在するといえるでしょう。

1)カジノフロアの面積上限

この点に関しては、政府側から面積上限を設けたいとする意見が示された6月の時点で、私はその影響を指摘しています。

日本版カジノ施設の面積規制についての考察2

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9593486.html

詳細は上記リンク先のエントリをご覧頂ければと思いますが「収益性の高いカジノで、収益性の低いその他施設を補完する」という統合型リゾートのビジネスモデルにおいて、その収益源たるカジノに面積上限を設けるということは、そのままイコールでその他施設の開発、ひいては全体の施設投資規模を制限することに他なりません。

この規制は、現時点でIR誘致を表明している自治体の中では、特に大阪(夢洲)のような相対的に大きな民間投資の誘引を期待して広いIR開発用地を既に設定している(設定してしまっている)自治体にとっては影響が甚大で、今後の自治体側の地域施策全体に大きな支障を与えてゆくことと思われます。

2)マイナンバーカードを活用した本人確認

日本のカジノにおいては、依存防止対策の為に様々な入場制限措置の導入が検討されているワケですが、その入場制限の為に政府はマイナンバーカードの利用を掲げています。ただ、マイナンバーカードの普及率は現在たったの9%であり、正直、普及していないカードを前提とした入場制限措置なぞというのは、市場側から見ると「あり得ない」制度設計であるとしか言いようがなく、当然ながらそこに対する事業投資は極小化します。

勿論、我が国に存在するIDのなかでマイナンバーカードが身元の確認にあたって最も「確実」なIDであることは当たり前ではあるのですが、それを前提としてマーケットの中で利用するのであれば、まずは政府側がその普及に対して責任を持つのが当たり前のこと。そのあたりの責任に言及しないまま、この制度をゴリ押しするのは政府側の責任放棄であるといっても良いでしょう。

また、最も懸念されるのが、他のギャンブル等業界への影響です。現在、カジノと同様に公営競技やパチンコ業などにおいても、様々な入場制限措置の実施が検討をされているわけですが、カジノ側でマイナンバーカードを前提とした制度を敷くとなれば、当然ながらその他のギャンブル等業界においてもそれが念頭に置かれた論議となります。カジノにおいては究極的には「マイナンバーカードを前提とするのなら事業者は投資を控える」だけで済む話ではあるのですが、既に産業が存立し様々な事業活動が現在進行形で動いている業種にとって、このような施策をあてられることは死活問題となります。

この点に関しては、「広く国民に普及した先にマイナンバーカードの利用を前提とする」ことを目指すのは全く異論はないものの、普及がなされるまでの経過措置を検討せざるを得ないものと思われます。

3)入場料の賦課

入場料に関しては、我が国において「シンガポールに倣って日本のカジノでも入場料を賦課すべき」という論が形成され始めた2010年の時点から私自身が繰り返し何度も述べてきたことでありますが(参照)、入場料を賦課することがギャンブル依存対策に有用であるとする科学的根拠は世の中にはなく、寧ろマイナスの影響すら与えてしまう可能性のあるリスクのある施策であります。

この様に入場料賦課が依存に対しての効果が未知である施策である一方で、その施策は確実にマーケットに対してはマイナスの施策であり、これが高額になればなるほど日本で予測されるカジノ市場が制限され、そこに対する事業者の投資意欲も急激に減退してゆくこととなる。ハッキリ言ってしまえば入場料は「愚策中の愚作」の施策であると言ってよいと思います。

最近ではやっと、私がこれまで延々と主張してきた論が理解され、入場料賦課に対する反対論が形成されつつありますが、国会審議の中でも「シンガポール並みの入場料を取ります」と法案提案側の議員から宣言されてしまったこの入場料の「取り扱い」を今後どのように処理してゆくのか。その辺りも、日本のカジノ市場の潜在性、およびそこに対する民間投資額を規定する重要な要素になってゆくものと思われます。

以上、とりいそぎマーケットサイドの視点から現在示されている政府案に対してコメントをしました。その他にも山積する論点に関しては、今後、順をおってご紹介してゆきたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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