豆腐チーズに黒トリュフ!? 新しい一つ星レストランが注目されるワケ
ミシュランガイドで新規掲載のフレンチ
レストランにとって毎年11月末は緊張の時期です。なぜならば、2007年に上陸した東京の飲食店を対象としたミシュランガイドの掲載店が発表される頃だからです。
特に気になるのが新規掲載店。ミシュランガイド2022東京では、新規掲載が53店。そのうちビブグルマンが33店、一つ星以上が20店です。美食のフランス料理となると5店しかありません。
「エスト(est)」「セザン(SÉZANNE)」「ヌー トウキョウ(Nœud. TOKYO)」「フロレゾン(Floraison)」「ラルジャン(L'ARGENT)」と、どれも納得のフレンチですが、注目したいのがフォーシーズンズホテル東京大手町の「エスト」。
なぜならば、ギヨーム・ブラカヴァル氏がエグゼクティブシェフを務めているからです。
ギヨーム氏は前職のハイアット リージェンシー 東京「キュイジーヌ[s] ミッシェル トロワグロ」では、2012年8月からエグゼクティブシェフを務め、ずっと二つ星を獲得してきた実力派。今回も星を獲得することはかなり有力視されており、それが予想通りに実現のものとなりました。
エストとは
「エスト」=「est」とは、emotion(感情)、season(季節)、terroir(テロワール)の頭文字を合わせたモダンフレンチレストランです。ペストリー シェフを務めるミケーレ・アッバテマルコ氏やヘッドソムリエの志村武士氏は、ギヨーム氏と共に「キュイジーヌ[s] ミッシェル トロワグロ」で苦楽を共にしてきた盟友。
この最強チームをもってオープンしてからすぐにミシュランガイドで星を獲得するに至りました。
ランチでは「EMOTION(エモーション)」(平日限定、5品コース、12,500円)と「SAISON(セゾン)」(8品コース、20,000円)、ディナーでは「TERROIR(テロワール)」(9品コース、25,000円)と「EST(エスト)」(10品コース、30,000円)が提供されています。使われている食材の95%は日本産で、原産地もしくはつくり手から直接調達するというこだわりようです。
今回紹介したいのは「TERROIR」。アペリティフ、アミューズブッシュ、前菜、メインコース2品、豆腐チーズ、デザート2品、ミニャルディーズ、コーヒーもしくは紅茶といった構成です。
星を獲得したギヨーム氏の料理は、どのようなものでしょうか。
アペタイザーセレクション
最初のアペタイザーは2品です。ジャガイモのタルトレットは、クリーミーなジャガイモのピューレの上に黒トリュフのピューレ。2つ並べると黒いドットが可愛らしいです。海苔のマスタードをまぶしたアジは軽く燻製されており、薫香と磯の香りによって食欲がかき立てられます。
パン
世田谷区にあるシニフィアンシニフィエのパン。クラムがもっちりとしており、香ばしいきな粉が振られています。付け合わされているのは、「エスト」自家製の大豆のフムスとオリーブオイル、もろみのパウダー。
野菜のフラン キャビア
アミューズは、調理の際に発生する野菜の皮や芯から出る栄養と旨味の出汁をとって作られた、滋味のあるフラン。ベースは昆布出汁なので、繊細な旨味が含まれています。仕上げにシェルスプーンでキャビアをたっぷりと載せてくれるという演出。キャビアの塩味が口当たりのよいフランによい躍動感を与えます。
アーティチョークバリグール 黒トリュフ
千葉県産アーティチョークを真空調理し、その旬味を丁寧に凝縮しました。上に被せられているのが、ギヨーム氏いわく「ヨーロッパ産ではありませんが、大きくてクオリティも遜色ありません」というチリ産の黒トリュフ。目の前でかけられるソースは、アーティチョーク、白ワイン、ニンニク、生ハム、チキンブイヨンで作られており、動物性の力強さも携えました。フランスのバリグールは家庭料理ですが、ギヨーム氏が力強いソースと黒トリュフを合わせて、美食の一品に仕上げています。
伊佐木 ナスタチウム ズッキーニ
大分県のイサキを素揚げして、繊細な佳味を閉じ込めました。付け合わせはズッキーニのピクルス、ナスタチウムのピューレと花。フュメ・ド・ポワソンとナスタチウムの花のソースは、スプーンで美しくあしらわれます。夏らしい彩りの元気がでるプレゼンテーションも秀抜です。
リードヴォー フィナンシェール
メインディッシュはリードヴォーで、表面をムニエルにしてカリッと仕上げています。マデイラ酒をふんだんに使ったフィナンシェールソースは馥郁とした濃厚な香りで、リードヴォーに負けていません。コンフィにしたパプリカ、ケッパー、素揚げしたセージとフレッシュなセージが散らされています。
ナイフは福井県越前市の高村刃物製作所。刃が薄いのでリードヴォーもすっと切れて、断面のテクスチャもなめらかです。
豆腐チーズ 黒トリュフ
「豆腐チーズ 黒トリュフ」もしくは「北海道産チーズセレクション」をセレクトできます。
選んだのは前者で、ギヨーム氏がオープン以来提供している、日仏が共演したシグネチャーディッシュ。京都の豆乳を用いた自家製の豆腐で、季節によって味わいが変わります。中には黒トリュフのジャムを忍ばせ、仕上げに黒トリュフをふんだんにスライス。豆腐の優しい食味に、黒トリュフの妖艶な香りが素晴しいコントラストです。
アールグレイ、マスカルポーネ、ルバーブのデザート
最初のデザート。ココナッツのメレンゲとアイスクリームに、ルバーブのコンポートとアールグレイのクリームという構成で、美しいフォルムと色合いになっています。穏やかな食味ながらも、口中をさっぱりとさせる味わいです。
桃 ハーブ アーモンド
ミケーレ氏が画家であるサイ・トゥオンブリーの抽象画からインスピレーションを得て創り出したアシェットデセール。フレッシュな桃とコンポートした桃に、刻んだミント、アーモンド、ダコワーズ生地と様々な要素を取り合わせました。涼しげな口当たりで甘い食味ながらも、食べ終えた後に風韻を残すようなデザートです。
終わりに
3種類の蜂蜜を用いた小菓子。ミケーレ氏は「植物にとって不可欠な蜜蜂が激減していることに危惧を覚えています。そのことを伝えるために作ったデザートです」と力を込めます。
蕎麦蜂蜜とチョコレートのタルトレット、アカシア蜂蜜のクリームを挟んだマカロン、ホワイトチョコレートでコーティングされた菩提樹の蜂蜜によるイチジクのコンフィと、それぞれ個性的。最後に提供されるお菓子としては非常に凝っているといえるでしょう。
幅広いワインのペアリング
ギヨーム氏の芸術的な料理に合わせて、最適なワインをペアリングしてくれます。マリアージュの一例を紹介しましょう。
最初のシャンパーニュは自然派の「ドラピエ ブリュット・ナチュール」。有機栽培したピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワールで、加糖されていないので、非常にシャープな味わい。アミューズや前菜との相性は抜群です。
「高畠 ゾディアック シャルドネ 2019」は生産本数が少なく希少な山形県の高畠ワイナリーの白ワイン。シャルドネ100%で、樽熟成による旨味や香りが、アーティチョークのほろ苦さや素揚げしたイサキにも寄り添います。
「コンフュロン・コトティド ヴォーヌ・ロマネ 2018」は世界に知られる銘醸村ヴォーヌ・ロマネの赤ワイン。ピノ・ノワール100%で、濃厚な果実味がリードヴォーのふくよかな旨味をより引き出します。
次はミシュランガイド2つ星へ
「エスト」はミシュランガイドで一つ星を獲得するに至りましたが、ギヨーム氏はどのように感じているのでしょうか。
「2年目で順調に一つ星として掲載されて、嬉しく思っています。チームのみんなもとても喜んでいますね」
ギヨーム氏のもと「キュイジーヌ[s] ミッシェル トロワグロ」はずっと二つ星を維持していました。
「もちろん、二つ星を目指しています。引き続きチーム一丸となって努力し、レベルアップしていきたいですね。これで終わりというゴールはないので、少しずつ前に進んでいけたらと思います」
今後については次のように話します。
「7月23日にアジアのベストレストラン50にランクインしている『La Maison de la Nature Goh』の福山剛さんとコラボレーションしました。今後も様々なイベントを考えているので楽しみにしてください」
周囲の予想通り一つ星に輝き、着実に進化していくギヨーム氏の「エスト」は、ますます注目です。
※全て価格は税・サ込