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ジャニーズJr.がシュークリームを壁に投げて非難の嵐! 「ある謎」と本当の問題

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

シュークリームを壁に投げる動画

ジャニーズ事務所が性加害で世間を騒がせていますが、少し前にジャニーズJr. のアイドルグループによる、ある動画が物議を醸していました。

『美 少年』”シュークリーム投げ炎上”不祥事よりも”大甘処分”でデビュー絶望と言われるワケ/FRIDAYデジタル

それは、X(旧Twitter)に投稿されたシュークリームを壁に投げる動画。グループのメンバーが部屋の中で、賞味期限が切れているといって、シュークリームを思い切り壁に投げつけていました。6年前の動画ですが、心象がよくなかったこともあり、大きな反響を呼んでいます。

反応の多くは否定的なもの。

「スシローぺろぺろ小僧やらバイトテロを連日連夜報道していたワイドショーやニュース番組が扱わないのも忖度が過ぎる」

「色んな業界や消費者に喧嘩売ったから仕方ない」

「このレベルの不快な行いが発覚した場合、事務所単位で契約を打ち切られる可能性が高いです」

いずれも、Xの投稿ですが、このような非難ばかりです。

賞味期限と消費期限

賞味期限はおいしく食べられる期限であり、消費期限は安全に食べられる期限。当然のことながら、食品衛生の観点からは後者の方が重要な意味をもちます。

動画では賞味期限といっていましたが、シュークリームは生菓子なので、消費期限のことをいっているのでしょう。

生菓子は傷みやすいので、消費期限は短いです。フィリングの内容や季節にもよりますが、基本的にその期限は、パティスリーであれば当日中、コンビニやスーパーなどで販売されている工場で生産されたものであれば、3日間くらいです。

消費期限が切れた理由は不明ですが、「もったいないことをした」と自省したり、「食べたかったなぁ」と悔やんだりした様子はありませんでした。

普通の感覚であれば、おいしそうなシュークリームが食べられなくなってしまい、残念に思うところです。しかし、残念がるどころか、骸を痛ぶるのを楽しんでいるようで胸が痛みます。

もしも、発言通り賞味期限ということであったとすれば、賞味期限を少し過ぎてもまだ食べられるので、行為はより理解に苦しみます。

期限切れのシュークリーム

そもそも、なぜ消費期限切れのシュークリームがあったのか、非常に謎です。

この動画が撮影された場所は、帝国劇場の楽屋とも指摘されていますが、確証がとれていないのでわかりません。ただ、ジャニーズ事務所が公開した本人の謝罪文では、楽屋であることが言及されています。

私の経験から述べると、スタジオの撮影では、楽屋には最低でも、何種類もの包装されたお菓子やペットボトルのソフトドリンクが用意されています。時間帯や待ち時間などによっては、弁当が用意されていることもあるでしょう。

当然のことながら、期限切れの食品が用意されていることはありません。食品衛生および日持ちの観点から、包装されたお菓子やドリンクが置かれています。そこに生菓子、しかも、消費期限が切れたものが置かれている状況は、なかなか想像できません。

芸能人、それもアイドルともなれば、関係者やファンなど、外部からの差し入れがあります。マネージャーやADに頼んで用意してもらうこともあるでしょう。ただ、差し入れられたり、頼まれたりした商品であれば、なおさら消費期限が切れているとは考えにくいです。

したがって、消費期限切れのシュークリームは、自分たちが持ち込んだと帰結するしかありません。もしも、シュークリームを投げる動画を撮るために消費期限切れのシュークリームを持ち込んだのであれば、もっと非難されることになるのではないでしょうか。

食べ物を粗末に扱うコンテンツ

以前まではよく、テレビのお笑い番組で、パイを投げあったり、相手の顔に押し当てたりする場面が見掛けられました。こういったパイは食べるためにつくられたパイではありません。単に紙のパイ皿にホイップクリームが載せられていたり、場合によっては、ホイップクリームですらなくシェービングクリームが使われていたりすることもあります。

食用ではないフェイクであったとしても、粗末に扱うことは賛同できません。なぜならば、本当は食べ物ではないとしても、食べ物のようなものを粗末にしている映像が流されることによって、食に対するリスペクトが損なわれてしまうからです。

テロップで「食用ではありません」「シェービングムースです」と表記されていたとしても、食べ物のようなものを投げている時点で、視聴者にはパイを投げているように感じられます。すると、食べ物は投げてよいのだと誤認する視聴者が現れるのです。消費期限や賞味期限が切れた食品を粗末にしても同じことでしょう。

割れ窓理論でも言及されているように、些細なことから食に対する尊厳は失われていきます。幼い頃に、茶碗に残った米一粒まで食べるように教育された人と、食事はいつもカップラーメンであったり、好き嫌いがあって何を残しても注意されなかったりした人とでは、食べ残しや食品廃棄に対する考えが全く異なるのではないでしょうか。

消費期限切れや賞味期限切れであったとしても、フェイクであったとしても、食べ物や食べ物と思われるものを粗末に扱うコンテンツは全く好ましくありません。

SNS映えを意図したものですらない

SNS映えを意識するあまり、撮影だけを行って食べ残し、炎上するケースが頻発しています。こういった事案は、SNS映えしたいがゆえに食べ物を粗末にしていることが問題です。

今事案の動画は、公開するために撮影したのではなく、プライベートの一場面として撮影し、流失しました。SNS映えを意識して食べ物を粗末にすることはもちろん問題です。ただ、世間の注目を集める意図ですらなく、仲間内で食べ物を粗末にして、楽しくふざけられる感覚は健全であると思えません。

食育の重要性

シュークリームを投げつける行為は食育に反しています。食育は、2005年に成立した食育基本法で「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるもの」です。

食育/Wikipedia

食育の推進/農林水産省

食育って何?/文部科学省

小さい頃に「食べ物を粗末にしない」「食べ物で遊ばない」と親から教えられた人は多いと思います。生き物にとって非常に大切な食べ物を、遊んだり粗末にしたりしないのは当然のことです。人間としての常識や人格を形成する基本要素であるといってもよいでしょう。

日本でもっとも多くのファンを抱える男性アイドル事務所のタレントであれば、その影響力は絶大です。そのような方が、食の価値を嬉々として毀損することを行ったのは、極めて残念です。日本における食育の重要性も改めて考えさせられます。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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