かなり強引な「北極圏にシルクロード」――中国の勢力拡大の野望に広がる警戒感
中国の「戦狼外交」に対する脅威が叫ばれるなか、同国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に「北極圏」が含まれていることに、米国を中心に警戒感が広がっている。北極圏には豊富な鉱物資源があるにもかかわらず、南極のように平和利用を定めたルールがない。中国は北極海の沿岸国ではないが、鉱物資源や北極海航路に高い関心を示しており、北極圏開発での発言力強化を図っている。
◇世界の未確認埋蔵量の4分の1
北極圏には世界の石油や天然ガスの未確認埋蔵量の4分の1が眠っているといわれる。ほかにも金やプラチナ、マンガン、ニッケルなど「資源の宝庫」とされ、米国やロシア、カナダなどの沿岸国は「採掘可能な開発場所」として注目している。ただ、領有権は定まっておらず、沿岸国の主張は対立したままだ。ちなみに南極では1959年の南極条約によって領有権争いは凍結されている。
加えて、北極海では世界の他地域の約3倍のハイペースで温暖化が進み、氷がとけて航行可能な海域が増えた。この北極海航路(約13,000km)を使えば、アジアから欧州への航行距離は、従来のスエズ運河を抜ける南回り航路(約21,000km)の6割に短縮される。輸送コストが大幅に削減できるため、新航路開発に注目が集まっているのだ。
◇「沿岸国の発展に、中国が役割を果たす」
資源確保を成長戦略の中心にすえる中国にとって北極圏は魅力的な存在だ。1990年代から砕氷観測船による航海を続け、2013年には北極海航路で商用コンテナ船を欧州まで運航させるようになった。北極圏に領土を持つノルウェーやスウェーデンに研究施設を設置するとともに、北極圏8カ国による「北極評議会」にもオブザーバーとして参加し、進出の足掛かりを築いてきた。
中国の北極圏への野心が明確になったのは、2018年1月に公表した初の「北極政策白書」だ。
そこで中国は、周辺国の主権を尊重しながら国際法の枠内で北極圏開発に関与すると強調しつつ、自国を「北極近接国家」と呼び、利害当事国としての立場をアピールしている。さらに北極圏開発を「一帯一路」の一環と位置づけ、ロシアなどの沿岸国と共同で北極海航路「氷上シルクロード」を建設する意向を表明、「沿岸国の発展に、中国の資金・技術・市場が重要な役割を果たす」とも主張している。
今年3月に全国人民代表大会(全人代=国会)で採択した5カ年計画(2021~25年)でも「北極の実務協力への参加」「氷上のシルクロード建設」を盛り込んでいる。
◇「中国は自身が北極圏の国でないことを忘れがちである」
こうした中国の北極圏進出に対し、米国で警戒感が強まる。米シンクタンクのウッドロー・ウィルソン・センターは先月27日、「北極圏の安全保障対話」と題するパネルディスカッションをオンラインで開いた。
公開された動画によると、センターのグリーン所長は冒頭発言で、北極圏をめぐる中国の動きについて「中国は、自身が北極圏の国でないことを忘れがちである」と皮肉ったうえ「今後数十年で中国は北極圏開発を手掛けることを視野に入れている」との見解を示した。
パネルディスカッションに参加したセイボルト米空軍次官代理は、中国が「北極近接国家」を自称している点について「地図を見てもそんなものは見えない」と批判しながら「中国は一帯一路構想を進めるなかで、北極圏での役割を正当化しようとしている。ここでの共通の利益が守られるよう、すべての北極圏の国々と協力する必要がある」と呼び掛けた。
パネリストたちは「中国の『好ましくない』活動に対抗する方法として、北極圏で米国の同盟国の軍事力統合を進める必要がある」などと指摘した。
米国防総省は2019年6月に公表した北極圏に関する戦略文書で「中国は自らを『北極近接国家』と主張しているが、米国はそのような立場を認めない」との見解を示している。国益やルールに基づく秩序維持のため、北極圏での影響力を強化する方針を明らかにし、中国と対峙していく姿勢を鮮明にしている。