無限加速システム「ソーラーセイル」太陽の力を反射し加速する宇宙帆船、海外の開発状況を追う
2010年、JAXAは世界で初めてソーラーセイルの宇宙実証に成功しました。原理的には無限に加速が可能となるソーラーセイルについて、海外の開発状況を詳しく解説していきます。
太陽の力で加速する「ソーラーセイル」JAXAのIKAROSが切り開いた宇宙大航海時代とは
■光子力を利用して前に進む「ソーラーセイル」
ソーラーセイルとは宇宙でセイルを開き、太陽の力だけで進むことのできる夢の無限エンジンを搭載した宇宙機のことです。最初のアイデアは、17世紀にドイツの天文学者のヨハネス・ケプラーにより提案されたと言われています。
原理は簡単で、まず皆さんも良く知っているヨットは、大きなセイルを開くことで風の力を受け、前へ進むことができますよね。風の方向を調節してあげればエンジンを搭載する必要がなく、非常に効率の良いメカニズムです。その原理を利用して、宇宙では常に太陽から出ている「光子力」を利用します。これは微弱なんですが、太陽光を受けているものは全て力を受けているんです。ソーラーセイルは大きな帆を広げ、この力を最大限に利用しています。今まで仮設や理論などが提唱されてきましたが、2010年に遂にJAXAのイカロスによって宇宙実証されました。
■海外で初のソーラーセイル実証「ライトセイル2号」
アメリカを中心とした惑星協会「ライトセイル2号」というソーラーセイルです。ライトセイル2号は一辺10cmという非常に小さなキューブサットと言われるサイズの人工衛星です。
2019年、ファルコンヘビ―ロケットにより打ち上げられたライトセイル2号は、無事にセイルの展開に成功しました。上の写真がセイルの展開に成功したときの写真です。そしてその後、セイルにより軌道変更に成功し、海外で初めてのソーラーセイルとなりました。
ちなみに、JAXAのイカロスはセイルをスピン方式で展開しますが、NEAスカウトやライトセイル2号はマスト型と言って、腕を伸ばすことでセイルを展開します。小型であれば、スピン方式よりマストを開くことによって比較的簡単にセイルを開くことができるんですね。
■小惑星の偵察を行う「NEAスカウト」
NEAスカウトは、ソーラーセイルを利用して小惑星の偵察を行う小型衛星で、NASAが開発しました。その目的は、小惑星の探査に宇宙飛行士を送り込む前に、無人の小型衛星を送り込んで目的地を調査することです。例えば、宇宙飛行士が小惑星の表面で探査活動を行うときには、小惑星がゆっくり回転しているのか、ふらつきながら高速で回転しているのか、あらかじめ分かっていなければなりません。また、小惑星が密に詰まった塊なのか、小さな破片が重力でゆるやかに集まっているだけなのかも知っておく必要があります。それでは、なぜ小惑星へ向かうでしょうか。なんと、宇宙にはダイアモンドやレアメタルなど希少材料でできた小惑星があるんです。もしこの欠片を地球まで持って帰ることができれば、大きな資源になるということですね。
ちなみに、アメリカのオバマ政権時代にはNASAにより「小惑星捕獲計画」が計画されていました。その内容は、宇宙空間を漂う小惑星を宇宙船でつかまえて地球の方向に引っ張り、月の周回軌道に乗せます。その後、小惑星に宇宙飛行士を運んで掘削作業を行ったり、小惑星が地球に衝突するのを回避するための方法を研究したりすることが想定されていました。当時オバマ大統領は、2025年までに小惑星に人類を送り込むと発言していた程です。しかし、トランプ大統領により月面開発計画「アルテミス」が推進されることとなり、小惑星捕獲計画は中止となりました。
NEAスカウトはSLSロケットから分離された後、ステンレスのマストを展開し、約86平方メートルにまたがるソーラーセイルを展開します。そして、2年半かけて目標の小惑星へ向かうとのことです。その間、ソーラーセイルにたえまなくぶつかる太陽光によってどんどん加速され、最高で太陽に対して秒速28.6キロの猛スピードで進むことになります。
そして小惑星に近づいた後は、このソーラーセイルを使ってターゲットである小惑星に対して位置や姿勢の修正をします。マストに対して探査機本体の位置を前後に動かすことで、このような微調整が可能になるとのことです。これはソーラーセイルの長所であり、従来の推進システムよりソーラーセイルは優れた操作性が期待されているとのことです。ちなみに、イカロスでは電気式の調光フィルムが搭載されていて、これに電圧をかけると黒くなり、光子を反射せずに吸収するようになります。その結果、帆の一部が光子に押される力が他の部分の半分程度になり、探査機を傾けることができるのです。
2022年11月16日、SLSロケットが打ち上げられた後、NEAスカウトは宇宙へ放出されました。しかし、NEAスカウトからは通信が地球へ返ってくることはありませんでした。原因は不明ですが、探査機のハードウェアに何かしらの不具合が生じたことが推定されています。残念ながら、ソーラーセイルによる宇宙探査は実現しませんでしたが、この開発の知見が今後の宇宙大航海時代に昇華されることを願っています。
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