各地で相次ぐ鉄道・バスの「一日無料」実験 公共交通にどんなプラスの効果が期待できる?
近年、公共交通の利用者数の減少が問題になっている。そんななか、公共交通のよさを知ってもらおうと、各地で「一日無料」の実証実験が行われている。
静岡鉄道(本社・静岡市)グループでは、静岡鉄道とバス子会社のしずてつジャストラインで、11月19日に鉄道・バスを無料にするイベントを開催した。
鉄道では駅で「一日フリー乗車券」を配布し、バスでは運賃を取らないという方法で無料にし、あわせて環境啓発イベントも行った。当日はふだんよりも多くの人が電車やバスを利用し、公共交通の有用性を示した。
静岡市は公共交通が充実した政令指定都市ではあるものの、それでも東京圏や関西圏に比べるとクルマ社会だといえる。こういった地域で、公共交通を多く利用してもらうことが、事業者だけではなく地域のシステム基盤そのものを維持していくためには必要なものとなっている。
相次ぐ政令指定都市での「一日無料」
岡山市では、この1年の間に今後の予定分もふくめ計8回、路線バスや路面電車の運賃無料を実施する。公共交通は二酸化炭素の排出を削減できて地球に優しいだけではなく、カロリー消費量が高いため体にも優しく、クルマ通勤よりも家計にも優しいと訴えている。
熊本市では、共同経営に取り組むバス5社と、熊本電気鉄道、熊本市電が10月1日と11月5日に大人は1回の乗車100円、子どもは無料という取り組みを行った。公共交通の利用を促進し、利用者のデータを集めることが目的だ。
12月24日には、熊本市を一部でも通過する路線バスや、熊本電気鉄道、熊本市電が大人も含めて無料になる。
熊本市では2019年以来何度か「一日無料」に取り組んでおり、そのたびに多くの人が利用している。
政令指定都市クラスでも、公共交通は利用されにくく、利用促進策を実施し多くの人に利用してもらおうとしている。
もちろん、背景には地方の公共交通の利用者減という問題がある。無料にして売り上げこそ減っても、利用してもらえるポテンシャルを示せないと、公共交通を持続する大義名分が立たないのだ。
これらのケースは、政令指定都市だから成り立つのではないか? と思う人も多いだろう。だが、政令指定都市以外で公共交通無料を実現したケースもあるのだ。それも、県庁所在地以外で。
近江鉄道の「一日無料」は大成功
滋賀県の彦根市に本社を置くローカル私鉄・近江鉄道は10月16日に、「全線無料デイ」を開催した。実施にあたり、近江鉄道は3つのねらいを定めた。
1つ目は、地域鉄道の存続に向けた乗車体験づくりである。近江鉄道では従来の利用減少とコロナ禍のダブルパンチを受けていた。いっぽうでクルマ社会である滋賀県では、鉄道に乗車したことがない住民も増えており、乗車する機会を積極的に作る必要が生まれている。
2つ目は、沿線地域への誘客と活性化である。電車無料化で地域に旅客を呼び戻して活気ある街にすることを目指し、無料デイに合わせてイベントも開催した。
3つ目は、鉄道を活用しようとする気運を醸成することである。鉄道の存在感を実感してもらうことで、鉄道を誘客に活用してもらおうとすることだ。
結果はどうだったか?
当日は彦根駅や八日市駅で入場制限が行われるほどの盛況ぶりで、推定乗客数は3万8000人。近江鉄道の1日平均乗客数(定期外)は3100人であり、目標を3倍上回る実に12倍という結果だった。関連するイベントにも多く人が押し寄せた。
トータルでのコストの低い公共交通を見直そう
自家用車は“コストの塊”である。自動車の購入費用もさることながら、燃料費や税金、車検費用などが必要であり、ただで道路を走れるとはいっても、道路整備は公的な支出を受けている。きわめて、高コスト体質の乗り物なのだ。
自由にどこにでも行けるとはいっても、そのぶんのコストを自己負担する必要がある。さらには地球環境への負荷や、事故発生の可能性などの問題もある。
鉄道・バスの「一日無料」イベントによって、公共交通の利用者が増え、事業者の将来的な経営状態が改善させるだけではなく、公共交通の必要性を多くの人が感じ、鉄道やバスの必要性を感じるようになってもらえることを期待したい。その中で、公共交通復権の流れへとつながってほしい。