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JR西日本、「残すべき路線」「廃線しかない路線」をどう分ける? 上下分離は必須だ

小林拓矢フリーライター
山陰本線では輸送改善のためにキハ126系を導入したこともあった(写真:イメージマート)

 JR西日本はこのほど、「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」という文書を発表した。その中で、輸送密度2,000人/日の線区については、線区別の収支率や営業係数、実際の利用者数も示した。

 この数字は、公表されるとすぐにネットで大きな反響を呼んだ。極端な営業係数の路線については「廃線にするしかない」「民間企業だからしかたがない」という意見も多々見られた。しかしそれは、公共交通の「公共」という言葉を、ないがしろにしたものである。とはいえ、どうにも利用者が少ないという線区がある。

 いっぽう、輸送密度は低くても、特急が走っているような路線は、広域的な鉄道ネットワークに組み込まれており、残さなくてはならない。そういうところは、ある程度の人が乗っているものである。

中国地方の利用状況が軒並み悪い状態にある(JR西日本プレスリリースより)
中国地方の利用状況が軒並み悪い状態にある(JR西日本プレスリリースより)

廃線は避けたいのはやまやまだけど……

 なるべくなら、廃線は避けたいというのは人情である。だが、JR西日本が述べるには「鉄道は自動車に比べてきめ細かな移動ニーズにお応えできないこともあり、線区によっては地域のお役に立てておらず、厳しいご利用状況となっています」という、現実のニーズに鉄道が適応していないということもある。さらには、「大量輸送という観点で鉄道の特性が十分に発揮できていないと考えております」と鉄道に向かないことを示し、「これらの線区はCO2排出の面でも、現状のご利用実態では必ずしも鉄道の優位性を発揮できていない状況にあります」と環境面からの懸念を指摘している。

 実際に、利用者2,000人未満のところの大半は、電化されていない。ディーゼルカーによる運行となっている。化石燃料を使用してエンジンを動かして走る。もちろん、自動車よりも効率がいいことは確かだが、ある程度乗らないとバスなどのほうがエネルギー消費は少ないということにもなる。

ローカル線では短編成の気動車列車が輸送を担っている
ローカル線では短編成の気動車列車が輸送を担っている写真:イメージマート

 いっぽう、廃線が取りざたされているエリアでは高規格道路の整備が進んでおり、JR発足当時に比べると多くの高規格道路が供用開始されている。とくに山陰地方では、無料の高規格道路もあり、ふつうの高速道路のように料金を徴収しないようになっている。地域によっては、重要なインフラとして通行料を取らないところもあるのだ。

 とにかく、鉄道が利用されない状況になってしまった。

 いっぽうで、人口減少は今後も進むと予想されており、公共交通の主たる利用者の高校生の人数も、今後は減っていくことが確実となっている。当然ながら、社会の構成員に占める大人の割合は増え、ほとんどすべての人が免許を持つことになる。

 そんな中で、鉄道を残せるかどうかが課題となっていく。

 どうすべきか?

上下分離かバス転換か

 JR西日本は、地域の人たちと課題を共有した上で、「地域のまちづくりや線区の特性・移動ニーズをふまえて、鉄道の上下分離等を含めた地域旅客運送サービスの確保に関する議論や検討を幅広く行いたい」と考えているという。

 地域の対応によっては、上下分離ならば線路は残せるかもしれない。

 いっぽうで、JR西日本はモビリティ関係の研究も行っており、グループ内にバス事業者もあることから、バス転換となっても、グループ内でサービスを提供できることになる。もちろん、地域のバス事業者などとも協力してもいい。

 基本的には、鉄道を残す方向で進めていきたいというのは、だれしも思うことである。鉄道を残すにはどうすべきか、あるいは公共交通として何らかの形で維持するにはどうすべきか、議論の必要があるだろう。

ネットワーク上重要なところは残したい

 鉄道はネットワークであり、その上で重要なところは残す、というのは原則である。しかし輸送密度2,000人/日のところで、枝線となっているのは小野田線の一部と、越美北線しかない。あとは両端がどこかとつながっている。

 輸送密度の異様に高いところと、営業係数の異様に高いところは実は、営業損益を見ると赤字は大きくない。たとえば2019年度時点で一日に11人しか利用しない芸備線の東城~備後落合間は、営業係数25,416であり、収支率は0.4%で、2.6億円の赤字となっているのだ。いっぽうで、電化して特急が走り、1日に1,085名が利用する紀勢本線の新宮~白浜間は、営業係数525、収支率は19.0%であるいっぽう、赤字額は28.6億円となっている。

 極論を言えば、大きな赤字額を出している路線を廃止すれば、全体の赤字額は減るということである。しかしそうなると賛同は得られない。

 あまりにも営業係数の高すぎる路線、とくに1日の利用者が極端に少ない路線はバス転換するしかない、というのを残念ながら考えてしまう。コロナ前でも輸送密度2ケタの芸備線・木次線の大半、急減著しい大糸線の南小谷~糸魚川間は、バス転換して運行頻度を上げたほうが、まだ利用者は増える可能性があるというのが正直なところである。輸送密度で3ケタの路線は、駅や線路などの資産を県や市町村に、運行などをJR西日本にとする上下分離とし、なんとか維持できるようにしてほしい。輸送密度3ケタの路線には、山陰本線のように特急列車が走る路線もあるのだ。この程度の利用の路線には、ある程度のネットワーク性というのがあり、公共的支援の上で必要なインフラとして維持しなくてはならないといえる。

利用があるところはなるべく残したい(JR西日本プレスリリースより)
利用があるところはなるべく残したい(JR西日本プレスリリースより)

 輸送密度4ケタとなる路線は、身軽になった体制のもと、JR西日本独自で維持できるという見通しが立てられればと考える。ここは、都市部の鉄道や新幹線の収益で残せるようにしたい。地域の理解さえあれば上下分離を導入したいところだ。

 なるべくなら鉄道を、公共交通を残す方向で議論が進むことを期待したい。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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