食パン専門店が発売する「究極のレーズン食パン」は他と何が違うのか
食パン専門店「セントル ザ・ベーカリー青山店」(渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル1F)で、2022年2月11日、「究極のレーズン食パン」が限定発売される。
セントル ザ・ベーカリーといえば、一号店は銀座にカフェを併設した店舗があり、食パン専門店ブームの火付け役ともなった有名店。高級食パンとは自ら謳っていないが、最高級の食材を用い、伝統の製法を取り入れ、技術を持つ職人による手間をかけた製法では群を抜いている。青山店は販売のみだが、工場を併設し、技術のある職人が粉からパンを製造している。
経営するのは西川隆博さん(株式会社ル・スティル)。戦後、味と品質を第一に考えてきた兵庫県の製パン会社「ニシカワ食品」の三代目だ。価格競争に陥る現在のパン業界を、品質を追求する業界に変えたいと思っている。最初に手がけた「VIRON(ヴィロン)」ではバゲットに、セントル ザ・ベーカリーでは食パンに力を注ぎ、最高品質のロングセラーをつくって、パン愛好家のみならず、広く認められてきた。
レーズンパンを構想したのは銀座店のオープン当初というから、もう7年以上前になる。そしてこの2年間の試作期間を経て完成した。生地は北海道は美瑛小麦「ゆめちから」と「きたほなみ」を使用。美瑛の自社農場の脱脂乳を水の代わりに用いて生地をつくる。この脱脂乳に含まれる乳糖によって、耳までこんがりと香ばしいパンに仕上がるのだ。熱湯でこねた湯種を一晩寝かせてから使う、湯種液種製法が引き出す旨味は深みがあり、生地は甘すぎない。ちなみにこれはセントル ザ・ベーカリーの看板商品にして一番人気の国産小麦の角食パン「JP」と同じ生地だ。
このJPの生地100に対し、レーズンは60と、たっぷり入っている。国産巨峰、国産ピオーネ、ジャンボレーズン、ゴールデンサルタナレーズン、グリーンレーズンの5種類で、それぞれの粒で甘味や酸味、風味や食感も少しずつ違うことで、味覚を楽しませてもらえる。レーズンを生地に投入してからは、粒が壊れないように、ミキサーを用いず、職人の手によってこねられるのだという。
一般的なレーズンパンのレーズン量は、セントルの半分以下の20〜30%が主流だ。レーズンが多過ぎると生地がつながりにくくなり、パンの形状を保てなくなるため、そこには職人技が必要となってくる。
そしてもう一つ、ドライフルーツはパン生地の水分を吸うので、生地が硬くなりがちだが、この食パンのレーズンは、元のブドウを想起させるほどみずみずしいのに、生地は水分をたっぷりと保ち、しっとりと柔らかく艶やかだ。こうしたことから完成まで2年の試行錯誤を繰り返した。
食パンにしても、レーズン食パンにしても、筆者はセントルのパンに、既存の定番中の定番でありながら、初めて食べるような味わいを感じた。「これからも、まったく新しいものではなく、定番のものを極めるということに取り組んでいきたいと思っています」。西川さんは言う。
究極のレーズン食パンは、焼いたその日のうちに、そのまま冷たい薄切りバターをのせるのが、おすすめの食べ方だ。翌日以降はトーストしてもいいが、食べない分は密封冷凍が基本。フレッシュなうちに食べてほしいため、通信販売はしない。また、大量生産が困難なため、銀座店での製造はなく、買えるのは青山店に限られる。
最後に価格だが、1本2斤サイズで税込3,780円。厚めの6枚切り1枚当たり約300円の計算になる。週に一度の外食と同じくらいの価格で、毎朝1枚の贅沢という考え方もできる。本当においしいパンを職人の技術で表現できる場を、西川さんは創出し続けている。