セイコー・ゴールデングランプリ陸上で見た「2020年東京パラまでに必要なこと」
世界の超人たちが集う舞台でパラアスリートが躍動した。
10日、神奈川県川崎市の等々力陸上競技場で国際陸上競技連盟公認のワールドチャレンジ大会「セイコー・ゴールデングランプリ陸上2015川崎」が行われ、パラリンピック種目が初めて実施された。
決して特別なレースではない――。1万人以上の観客が見守る中、大会スケジュールに組み込まれたパラリンピック男子100mのレースは、いつの間にか始まろうとしていた。スタジアムMCがスタート地点に並んだ選手たちの名前を読み上げ、障がいの程度によってカテゴリー分けするパラ特有の「クラス分け」について紹介した後、号砲とともに6人のパラアスリートがスタート。彼らがフィニッシュすると客席から大きな拍手が沸き起こった。
小・中学生や家族連れが多かった観客席。2020 年に自国開催のパラリンピックを迎える日本人にとって、パラ競技を知る意義のある機会になったことだろう。
男子100mに義足アスリートが登場!
今大会で実施されたのは男子100m(T43/44=切断などのクラス)。100m日本記録保持者で右足義足の佐藤圭太(中京大職員/23歳)ら日本人3選手と、IPC(国際パラリンピック委員会)世界ランキング上位の米国選手が出場。レースは、11秒15でフィニッシュしたジャリッド・ウォレスが優勝した。
日本人トップの12秒08を記録し、4位だった佐藤は、試合後のインタビューで「実際にパラ競技を初めて見た人も多いと思う。2020年につながるレースになった」と手応えを口にした。
また健常者の男子走高跳には、義足アスリートのパイオニアで、ロンドンパラリンピック4位の鈴木徹(プーマジャパン)がオープン出場。4月にIPC2015グランプリ・サンパウロ大会でクリアした2mに挑んだが記録は1m95。それでも「国内外のトップ選手と同じ時間に試合ができた。この経験が財産になる」と笑顔で語った。
画期的だったパラ種目の実施
欧米では、健常者と障がい者アスリートが、同一の大会でレースを行うこともあるという。だが、これまで日本では統括団体が異なることから別々の大会で開催されており、日本陸上競技連盟の主催の大会でパラリンピック種目が行われるのは初めてだ。
実のところ近年、選手や関係者の長年に渡る尽力もあって健常者と障がい者が一緒に練習をする機会は増え、また障がい者アスリートが健常者の地域の大会に出場することも珍しくなくなってきた。
さらに、この2月には鈴木が陸上競技連盟跳躍種目のジュニア強化選手とスウェーデンに遠征し、日本パラ陸上競技連盟としては初となる合同合宿を実施。双方の連携を強める動きは活発になっている。
パラ競技の認知度アップや競技力向上を図るために健常者団体との連携は不可欠だ。今大会をきっかけにその連携の強化が加速することを期待したい。
パラ競技国内大会の観客はまばら
観客に障がい者スポーツを身近に感じてもらう意義のあるレースだったが、選手にとっては大声援の中でパフォーマンスをする貴重な機会だった。彼らが出場する国内大会は、国内最高峰のジャパンパラ競技大会であっても観客はまばらで、客席に関係者・家族しかいないこともしばしばある。
大学生の池田樹生(中京大/18歳)は、「こんなに大勢の前で走ったのは初めてで少し緊張したけれど、気持ちよく走れました」と語り、トップレベルの米国選手と走ったことで自身のセカンドベストである12秒64を記録できたという。
佐藤らが出場した2012年ロンドンパラリンピックでは、連日8万人の観客がオリンピックスタジアムに詰めかけた。
海外のトップレベルの選手を招聘し、日本で開催されるレースの経験、そして多くの観客の中でパフォーマンスを発揮する「予行練習」が、パラアスリートにはとくに必要なのではないだろうか。
※クラス分けについて
T44は下腿切断、T43は両下腿切断もしくは両足関節の機能を全廃したもの。数字の前の「T」は「Track」の意味。数字が大きいほど障害が軽い。