パラアスリートの練習拠点「日本財団パラアリーナ」が4月から再開!
「パラリンピックに向けて存分に練習したい」(車いすラグビーの島川)
「他の競技の選手と交流を深めながら前に進む」(パワーリフティングの山本)
新型コロナウイルス感染症はいまだ収束せず、予断を許さない状況だ。そのため2人のアスリートに大きな笑顔はない。だが、その表情には喜びと安堵がのぞいていた。
東京パラリンピック開幕まで残り半年を切った2月25日。日本財団は緊急記者会見を行い、新型コロナ陽性者の宿泊療養施設として整備していた東京・台場の「日本財団パラアリーナ」を練習拠点として再稼働させることを発表した。
2018年6月にパラスポーツ専用体育館としてオープンして以来、選手たちから「パラアリ」の愛称で親しまれているパラアリーナ。その設立の背景には、パラアスリートの日常的な練習場所不足があった。とりわけ車いすラグビーや車いすバスケットボールは、床を傷つけるなどの理由で体育館の利用を拒否される問題があり、選手たちは練習場所の確保に苦労していたのだ。
2004年アテネ大会からパラリンピックに4大会連続出場し、今なお車いすラグビー日本代表の中心選手として活躍する島川慎一は、移り変わる競技環境の影響を受けてきた。
「オープン以来、競技の半分以上をパラアリーナで過ごし、2018年には世界選手権で金メダルも獲ることができた。コロナ禍で使えなくなってから、自宅や公園などで練習してきたもののうまくいかないことも多く、改めてありがたみを感じている」
療養施設となることが発表された昨年4月まで、稼働率ほぼ100パーセントを誇っていたパラアリーナは、全館バリアフリー設計も特徴だ。トイレやシャワールーム、駐車場なども選手当事者からの綿密なヒアリングのもと設計されており、その使いやすさから“日本最先端のスポーツ施設”としても注目され、自治体などから多くの視察団が訪れていたと聞く。
パワーリフティングで東京パラリンピック出場を目指す山本恵理は、主にトレーニングルームで練習に励んでいたひとりだ。
「トレーニングルームには、パラ・パワーリフティングの公式ベンチが4台用意されていて、車いすで使用できる器具もある。自分たちの競技力を伸ばすことだけに集中できる場所だった」
担ってきたのは競技力強化だけではない。2018年のアジアパラ競技大会など国際大会前には日本代表の記者会見会場という“情報発信の場”になり、パラスポーツを取り入れた運動会などを行う“普及啓発の拠点”にもなっていた。
なお、パラアリーナが再び練習拠点として稼働するのは4月1日から。新型コロナ対策として、利用者に対するPCR検査を行うことが検討されている。隣接する個室型プレハブハウスと大型テントは現在も療養施設として使用されているが、パーテーションで区切られていた病床が整備されていたパラアリーナは実際に療養施設として使用されることはなかった。
さて、パラアリーナが使用できない期間、選手たちはどこで練習をしていたのか。
現在、選手たちはナショナルトレーニングセンターで日本代表合宿を行ったり、区立のスポーツセンターでクラブチームの練習を行ったりしているが、混み合う時間帯は使用を制限されるほか、コロナの感染リスクにより断念することもあるそうだ。
また、車いすラグビーやパワーリフティングと並んでパラアリーナをよく利用していたボッチャは、東京大会のホストタウンとの連携を進め、東京大会以降を見据えて練習拠点を増やしているという。
「病床確保のためにパラアリーナを提供することは、アスリートに大変な迷惑をかけてしまうという苦渋の選択だった。それでも、アスリートたちは本当にいろんな工夫をしながら練習を続けてきた。そんなアスリートや競技団体の皆さんに再開のお知らせができることがうれしい」。パラアリーナを運営する日本財団パラリンピックサポートセンターの山脇康会長が語るように、選手たちは様々な工夫を凝らしてトレーニングを継続していた。
そして、この日、日本財団の笹川陽平会長は、2022年3月までとなっているパラアリーナの使用期限について「東京都と協議の末、存続させたい」とコメントした。継続が実現すれば、世界の頂点を目指すトップアスリートから、東京パラリンピックを観てスポーツを始めたいと思う若い世代まで、多くの障がいのある人たちが利用することになるだろう。
筆者も取材で何度も足を運んでいるパラアリーナ。新型コロナの収束と同時に、選手たちの練習拠点として長く利用されることを願っている。