スポーツの秋に“ファンクショナルトレーニング” トレーナーに聞いた家でもできる“機能回復な動き”
“スポーツの秋”といわれる季節。日頃から運動を取り入れている方もそうでない方も、運動やトレーニングをしやすい気候になってきました(といっても気温的にはすでに冬みたいですが……)。
みなさんは、“ファンクショナルトレーニング”という言葉を聞いたことがありますか? 「身体を鍛えたい」「健康になりたい」「痩せたい」など、スポーツやトレーニングをする目的は人それぞれですが、“動きやすい身体でいること”はどの目的にもマッチします。
今回は、元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、“ファンクショナルトレーニング”について、24時間年中無休のフィットネスジム『エニタイムフィットネス』を運営する株式会社Fast Fitness Japan(以下FFJ)の研修チーフでトレーナーの増田晃之さんにお話を伺い、実際に体験してきました。(取材・文=コティマム)
ファンクショナルトレーニングはメソッドではなく“概念” 動きやすい身体を目指す三面運動
エニタイムフィットネスは、2000年にアメリカ・ミネソタポリスで立ち上がったフィットネスジムです。24年10月現在は世界29の国と地域で約5500店舗を展開しています。日本ではFFJが「ヘルシアプレイスをすべての人々へ!」という企業理念のもと、「誰もが健康的に暮らせる、心豊かな社会の実現」を目指し、2010 年から『エニタイムフィットネス』事業を展開しています。
そんなエニタイムフィットネスが推奨しているのが、“ファンクショナルトレーニング”。エニタイムフィットネスはジム空間に独自のデザインポリシーを用い、利用者がトレーニングしやすい動線を作っています。
例えばお手洗いやシャワーなど水回りの配置や、他の利用者との視線が反射する鏡の角度や設置箇所への配慮など、利用者のストレス負担を減らすための動線が作られています。またエニタイムフィットネスの独自性を表現した『ファンクショナル』エリアを設け、マシンを使わずギアや自重トレーニングを組み合わせたトレーニングを行うことができます。
――“ファンクショナルトレーニング”を直訳すると「機能的なトレーニング」ですが、どんなトレーニングなのでしょうか。
増田さん(以下、増田)「もともとは理学療法士や作業療法士さんなどによるリハビリといいますか、“機能が衰えた方を回復させる”、“もとの状態に戻す”という、機能回復が原点です。
国内では12年~13年前頃に導入され始めました。ケガや病気で本来の動作ができなくなってしまった患者さんの運動機能を取り戻すことを目的にしていて、機能的になれるような動きを表す概念です。日本では『トレーニングの中で使うとより機能的な体に変わる』ということで伝わっています」
――エニタイムフィットネスでファンクショナルトレー二ングを取り入れることになったきっかけを教えてください。
増田「2019年に日本のエニタイムフィットネスが新デザインになったタイミングで、業界としても『ダイエットや体の見た目を変えるストレングスのトレーニングだけではいけない』という流れもあり、ファンクショナルトレーニングとファンクショナルエリアを導入しました。
新デザインに変えた理由は、利用者の方に“生活の一部”としてエニタイムフィットネスを使っていただきたいので、『使いづらい・効果が感じられない場所』だと継続できません。そのために動線や目線なども工夫し、空間デザインを変えることになりました」
――もともとのファンクショナルトレーニングは、「動けない人」を「動けるようにする」という意味合いが強いと思いますが、健康な人も多く利用するジムで、ファンクショナルトレーニングはどのような位置づけなのでしょうか。
増田「ファンクショナルトレーニングは、ダイエットや身体づくりにも必要な要素ではあります。ランニングや、マシントレーニングなどは特定の筋肉を使いますが、ファンクショナルトレーニングは、動きに付随したいろいろな筋肉を使います。そのため連動性や共同性が身につきますし、動かす筋肉の数も多いのでダイエットや身体づくり関してもマイナスではありません。
普通のトレー二ングは“身体を作ること”に特化したトレーニングで、ファンクショナルトレーニングは動きに特化したトレーニングという“概念”です。通常のトレーニングで鍛えた身体を、さらに動きやすいものへ変えることができるので、可能であれば両方やる方がいいです」
――“概念”とは、どういう意味でしょうか。トレーニングそのものではなく、「考え方」ということですか?
増田「ファンクショナルトレーニングというのは、例えば『加圧トレーニング』などの“メソッド”ではないのです。トレーニングの概念で、ファンクショナルトレーニングの“考え方”に合う『動き』が無数にあります。
『◎◎トレーニング』というトレーニング独自の動きがあるというわけではなく、例えば『関節の動きをよくする』という目的だったとしても、そのための動きや方法がたくさん存在するのです。ダンベルを使う場合もあれば、メディシンボール(おもりのボール)やケーブルマシン、ストレッチポールを使う場合もあります。目的やツールによっても種類が変わります。
『ファンクショナルトレーニング=これ!』という動きがないので、メソッドではなく“概念”です」
※参照記事:「『スポーツの日』に知りたいキーワード! ”ファンクショナルトレーニング”ってなに?」
――なるほど。「こういう動き」と決まっている訳ではないのですね。では実際にファンクショナルトレーングを行う際は、どのような動きをすることが多いですか。通常のトレーニングとの違いを教えてください。
増田「例えばダンベルなどは、前から後ろ、下から上、下から真横に振るような直線的な動きが多いですよね。ファンクショナルトレーニングには5原則がありその中の1つで“三面運動”といって、前後、左右、水平面の3つを一緒に動かします。最低でも2つの動きは取り入れます。身体を前後に動きながら回旋させるなどの動きです」
――ひとつの動きだけではないのですね。
増田「利用者の方も、『ファンクショナルトレーニング』といってもどんな動きをしていいか分からないと思うので、エニタイムフィットネスが推奨する動きをファンクショナルエリアでお伝えしています。初めての方にはカウンセリングをして、悩みやケガした箇所、改善したい部分をヒアリングして、その方に合う動きを提案します。実際にどんな動きかやってみましょう」
自宅でもできる「前後」と「回旋」の動きを合わせたファンクショナルトレーニング
ということで、実際に増田さんに『ファンクショナルトレーニング』の動きを教えていただきました。
増田「ストレッチポールを使って『バックランジツイスト』をやってみましょう。ファンクショナルトレーニングの1つの三面運動です。この『バックランジツイスト』では“前後の動きをしながら回旋”をかけ、3つのうち2つの動きを行います。
まず両手を前に出し、ストレッチポールを持って保ちます。それからバッグランジといって片足を引いて、引いた方の膝を低くします。その後に身体をねじります。左足を引いていたら、身体は反対の右の方向へねじります。
足を元の位置に戻したら、今度は反対の右足を引き、身体を左の方向にねじります。この動きは、前から後ろの『前後の動き』に『回旋』が合わさっているので、ファンクショナルトレーニングの考えに基づいた動作です」
――後ろに下がって身体をひねるだけと思いきや、結構動かしづらいですね!
増田「人間はサボると体もかたくなるので、普段の生活でもひねり動作をしなくなります。使わなければより一層ひねりづらくなるので、お腹の横のお肉が出てくる。身体が機能的に動くようにしておけば、普段からひねり動作もしやすくなります。
例えば台所で料理をしていて、横や後ろにある物を取る時に、ひねり動作がしづらければ、足を一歩出すなど余計な動作が必要になります。その分、ロスですよね。身体がスムーズに回ればそのロスがなくなるので、生活の質をあげることになります」
――そういう部分がファンクショナルなのですね。今はファンクショナルエリアでストレッチポールを使ってこの動きをしていますが、例えば自宅でやろうと思ったらどうすればいいでしょうか。
増田「ファンクショナルトレーニングは、少しの空間があれば出来るので、ご自宅のお部屋でもできます。
例えば『バックランジツイスト』では、ストレッチポールがない方はそのまま手を上げた状態でやるか、タオルをピンと引っ張って持つことで代替えできます。両手を前に出してタオルを引っ張って持ち、片足を引き下げて逆足の方に身体を回転させます」
――自宅で激しく動くことなくできそうですね。
増田「自分の体重を使ってできるもので、スペースがあれば、特別なツールを使わなくても自宅でできます。呼吸法などは特に意識せず、自然で大丈夫です。ハードにたくさんやらずに、1セットで左右5回ずつなど、無理なくやる程度がオススメです」
――私のような運動が苦手な人も、これくらいの動きなら自宅で続けられそうです。トレーニング上級者にとってもファンクショナルトレーニングは意味があるのでしょうか。
増田「『機能が衰えた人の機能を戻そう』という動きではありますが、“もともとある機能をさらに上げる”という点では、スポーツ選手も取り入れています。エニタイムフィットネスの場合も、ジムに来る方は健康で動ける人が多いので、スポーツ選手がやるパフォーマンストレーニングとほとんど同じです。また、ケガをしたプロスポーツ選手が機能を戻すためにやることもあります」
――機能回復という本来の目的の方も、自分のパフォーマンスを上げたい方も、どちらにも向いている概念なのですね。
増田「筋肉ムキムキになりたい人や、ダイエットしたい人とは、確かに考え方や方向性は違います。筋肉やダイエット目的の場合は、“見た目を変える”ことに重きを置いていますよね。ボディービルなどのトレーニングとファンクショナルトレーニングを比べると、『筋肉を鍛えるのか』『動きを鍛えるのか』でやる内容も変わります。
ファンクショナルトレーニングは『機能回復』という意味では、日常の動きや生活を良くしたい方に向いています。しかし、通常のトレーニングとファンクショナルトレーニングの動きを両方取り入れることで、身体を鍛えたい方も動きやすくなります。
また、『見た目は関係なく、機能を回復したいだけ』と思っている方でも、自然と姿勢や見た目が変わってきます。ファンクショナルトレーニングをすることで身体が動きやすくなり、つくべきところに筋肉がついたり、代謝が上がって脂肪燃焼しやすくなったりするからです。できれば両方取り入れるのがオススメですね」
これから寒さが厳しくなり、ついつい身体もこわばってしまいがち。筋力アップや体力アップだけでなく、「機能的に動ける身体」になれる運動を取り入れてみませんか?自宅でも簡単にできるので、試してみてくださいね。
取材に関する記事については「バラの花言葉は本数で意味が違う―1本は一目ぼれ、999本は?感謝は何本?花キューピットに聞いて来た!」もご覧ください。
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