京セラドームを席巻したTORACOに虎戦士も発奮!阪神タイガース、爽快3連勝!!
■大盛況の「TORACO DAY」
「きゃぁぁぁ〜っ!」
アイドルのコンサート会場かと見紛うような盛り上がりに、黄色い声が鳴り響いた。
ここは京セラドーム大阪。目の前で繰り広げられているのは阪神タイガース対横浜DeNAベイスターズの試合だ。ペナントレースも終盤に差し掛かり、CS圏内争いも佳境に入っている。
しかしスタンドを見渡すと、いつもと違う光景が広がっている。女性、女性、女性・・・カラフルな花柄のユニフォームをまとった女性ファンが埋め尽くしている。
この日は「TORACO DAY(トラコデー)」と称した女性ファン向けのイベントの日だった。2014年にスタートし今年6年目となるが、年々盛り上がりを増している。
今季も5月11日に甲子園球場で開催したのに続いて、8月20日に京セラドームで2度目の「TORACO DAY」が行われた。
そもそものイベントの趣旨を「タイガースのウィークポイントだった若年層、女性層のファン開拓」と説明するのは、阪神タイガース・営業部の興行担当で、TORACO事業の中心である内町有里さんだ。(詳細⇒TORACO DAY)
その甲斐あって、通常は6:4で男性の入場者数の割合が多いタイガース主催試合だが、「TORACO DAY」では逆転し、女性の割合が過半数を占めるという。
チケットの売れ行きを見ても、他の試合では動きの鈍かった若年女性層が、「TORACO DAY」の日はかなり伸びていたという。「特に30歳以下の女性に刺さったようで、普段来てくれない人が来てくれた」と内町さんもニッコリだ。
一塁側内野指定席「TORACOシート」1000席が早々に完売したのをはじめ、全席完売となった。「お盆明けの平日なのに…!」と、好反響に驚きの声が漏れた。
■ファンクラブ非会員を呼び込む
実はそこにはさまざまな仕掛けがあった。好評を博し昨年から継続しているものもあるが、今年新たに投入した企画が大成功だったのだ。
まず“友だちを道連れにする”作戦だ。阪神タイガース公式ファンクラブの女性会員が非会員の女性と一緒に観戦すると、非会員も含めた全員に限定のTORACO柄選手タオルがプレゼントされる。
「これまではファンクラブ会員だけの特典はいろいろありました。今回は既存ファンが新規ファンを誘いやすいようにして、そうして広げていく形にしました」(内町さん)。
ファンクラブ会員が1人含まれていれば、非会員は何人来てもいいという。実際、友だちに誘われてきたという女性は「はじめて球場で野球を見たけど、すごく楽しかった。わたしも来年からファンクラブに入りたい」とすっかり虜になり、梅野隆太郎選手のタオルを大事そうにしまっていた。
未経験の人への“入口”を作ったこの企画の意義は非常に大きい。
ちなみにこのタオルは10種類(鳥谷、北條、大山、糸井、高山、藤浪、糸原、才木、梅野、中谷)あり、どれが当たるかはシークレットだった。当たったタオルをきっかけに、その選手のファンになったという声も聞いた。
■TORACO DAY初!ユニフォームの全員プレゼント
次に、ユニフォームのプレゼントだ。女性来場者全員にプレゼントされたTORACOユニフォームは大好評だった。甲子園の「TORACO DAY」でもらって以来、気に入って毎試合着用しているという女性も少なくない。
まずアンケートをもとにピンクを取り入れようというところから始まった。柄違いの4パターンの中から、選手、Tigers Girls、ラッキー(タイガースのマスコット)たちによる多数決で選ばれたのが、今回のデザインだ。ふんわりパステル調のフラワー柄で、これまでの“TORACOカラー”とはやや異なる。
「タイガースのチームカラーである黄色は変えたくない。TORACOがこれまで使っていたレモンイエローと、白、グリーンも使いたい。そこにピンクを加えて女性らしいデザインとカラーにしました」。もともとのTORACOカラーのトーンに合わせたピンクが加わって、より華やかに可愛らしく仕上がった。
ちなみにこのフラワー柄には岩田稔投手や岩貞祐太投手、植田海選手らが投票していた。「TORACO DAY宣伝隊長」の中谷将大選手と才木浩人投手が奮闘している選手たちの選考の模様は、球団公式ホームページから見ることができる。⇒ムービー・ムービー番外編
実は「TORACO DAY」でユニフォームを配布したのは初である。
かつては「TORACOシート」の特典として、毎年デザインを変えてTシャツをプレゼントしていた。昨年、はじめて女性来場者全員にビッグTシャツを配布した。ここまでは「TORACO」を定着させるため、ブランドカラーを変えずにきた。
それを今年、「一気に変えてみよう」とピンクを取り入れ、デザインも変え、ユニフォームにして全プレにしたという。これも「TORACO」が定着したという、たしかな手応えが得られたからだ。
これまでコツコツと種を蒔き、育ててきたものが一気に開花したような、そんなイメージを顕している感がある。
■いとちゃんの手のひらに乗って撮影!
さらにもうひとつの目玉企画が2階のコンコースに設置したフォトブースだ。入るとドーンと糸原健斗選手の顔が!!
糸原選手の手のひらに乗って撮影できるトリックアートになっている。まさに“インスタ映え”写真が撮れるスポットだ。
「イメージは『南くんの恋人』なんです」と内町さん。あぁ、ワカル~!思わず膝を打った。
「南くんの恋人」とは、1994年に放映された武田真治・高橋由美子主演による大人気ドラマだ。高校3年生の南くんと、突然身長が15cmになってしまったちよみとの恋を描いている。
「大きくてかっこいい選手対して、小っちゃくてかわいい女の子のイメージから、選手のグラブに女の子が入ってたら可愛いよねとかって話に広がって…」。そこから連想されたのが「南くんの恋人」だったというわけだ。
ここで内町さんが裏話を明かしてくれた。
「社内の会議でほかの女性スタッフが『ニノですね』って言うんですよ」。2004年に二宮和也・深田恭子でリメイクされているのだ。「社内でもジェネレーションギャップがありました」と内町さんは苦笑する。(ちなみに2015年にも中川大志・山本舞香主演でドラマ化されている)
「撮影のとき、糸原選手にこのドラマのことを訊いてみたんですけど、『なんすか、それ』って言われました(笑)」。
スタッフの女子たちの盛り上がりにキョトンとした感じだったようだが、意図はちゃんと理解してステキな笑顔でファインダーに収まってくれた。TORACOたちも大喜びで、“映え”な写真をキャッキャッと撮影していた。
■虎戦士たちもTORACO DAYを意識
「TORACO DAY」は女性ファンだけでなく、選手にもすっかり浸透している。
フィールドシートでの練習見学会(事前エントリーの50名)は練習前、選手がグラウンドに現れて外野にアップに行くところから見学できる時間設定にしたという。
ベンチから出てきた選手はリラックスしていて、選手同士でおしゃべりしたりしながら歩いていく。「普段見られないところが見られたらおもしろいんじゃないかと思って」という発案からだった。
ここでサプライズが起った。出てきた選手たちがなんと、いつもと違ってフィールドシート沿いに歩いてくれたのだ。青柳、望月、梅野、北條、高山、中谷…次から次へと出てきた選手たちがTORACOたちとハイタッチして外野に向かう。
「選手の練習の都合もあるので、できるかどうかわからず告知はできなかったんです。でもゲリラ的にできて、むしろ喜んでもらえました」(内町さん)。サプライズが大好きな女性心理を心得ている。
さらにはヒーローインタビューでも、女性ファンを沸かせた。この日、TORACOたちの黄色い声援に奮起したのか、タイガースはベイスターズ相手に8-0で爆勝した。
お立ち台では6勝目を挙げた青柳晃洋投手が「女性ファンが多いので…僕のためにありがとうございまーす!」と絶叫すれば、2号ホームランの糸原健斗選手も「今日はTORACO DAYってことで、女性ファンの心をつかもうと思って頑張りました!」と呼応して、スタンドのTORACOたちをきゅんきゅんさせていた。
■TORACOたちの声は…?
前述の「TORACOシート」はチケットも限定デザインで、トラひげフェイスシールやオリジナルジェット風船のプレゼント、背番号ワッペン付きユニフォームなどの特典もあり、大好評だった。
そのほか、ドーム外周のイベントスペースでは、すっかり恒例となった「トラ耳ヘア」やボディシールの体験ブース、フォトスペース、またスタンプラリーなど、女性ファンが楽しめる企画が盛りだくさんで、平日にもかかわらず開門はるか前から長蛇の列ができていた。
参戦したTORACOたちに話を聞いてみると…。
「今まで野球を見たことない子、タイガースファンじゃない子も誘いやすかった。来てみて、野球がこんなに楽しいんやって喜んでくれた」。
「TORACOシートは周りが女性ばかりなので居心地がいい。隣が知らない男性だとちょっと…」。
「TORACO DAYの回数をもっと増やしてほしい」。
「来年も絶対にやってほしい」。
TORACOたちが大いに楽しんでいることは、その弾ける笑顔を見ただけで十分に伝わってきた。
■次なる「TORACO DAY」は・・・?
「来年の日程も出たので、どのあたりで開催するか検討しているところです。たとえばまたユニフォームをプレゼントするとしたら、どんな柄がいいかなとか、ファンの人からもアイディアを募ったりもしたいですね。でも今はすべて未定で、まだ何も決まっていません。ただ、常に新しいことをしていきたいと思っています。ファンの人も巻き込んで、何か楽しいことができたら…」(内町さん)。
新しいことを提供し続けることは、容易いことではない。だが内町さんを中心としたTORACO事業のチームは、自身が楽しんでいる。だからこそ、それが女性ファンの心をくすぐる。
どんどん“増殖”しているTORACO。近い将来、スタンドのほとんどが女性ファン…なんてことがあるかも…。
(表記のない写真の撮影は筆者)