「TORACO DAY」で阪神タイガースの女性ファンが拡大
■阪神タイガースの「TORACO DAY」
8月、本拠地・甲子園球場を高校球児に明け渡す阪神タイガースは、何試合かのホームゲームを京セラドームで開催する。
8月4日の土曜日、東京ヤクルトスワローズ戦が行われる京セラドームの周りはいつも以上に賑わっていた。ずいぶんと早くからファンが詰めかけ、長い行列をなしている。よく見ると女性がほとんどだ。
そう、この日は「TORACO DAY」が開催されていたのだ。「TORACO DAY」とは「みんなで一緒にタイガースを応援したい。甲子園や京セラドームではしゃぎたい。そんな女の子のためのお祭り」なのだ。
すでに6月9日、10日に甲子園球場で開催され、今季3度目の「TORACO DAY」。
「これまで京セラドームでは、抽選会や選手との撮影会など小規模のTORACOイベントはしていたんですが、正式なイベント計画としてシーズン前から告知して『TORACO DAY』と銘打って行ったのは今年が初めてです」と話すのは、阪神タイガースの興行担当で、TORACO事業の中心として携わっている内町有里さんだ。
「甲子園の『TORACO DAY』で楽しんでくれた女性が、京セラに再来場してくれたらというのが狙いで、この日に来たいと思ってもらえるようイベントとして充実させたかった」と、京セラドームでの「TORACO DAY」について語る。企画した内町さん自身もビックリの盛況ぶりで「土曜日というのもあって、(外の催しの開始時間が)午後2時30分だったんですが、午前10時くらいから行列ができていて…」と目を丸くする。
京セラドーム外周にある中央プラザにはさまざまなブースが用意され、集まった女性たちは高揚した表情でイベントを楽しんでいた。
すっかりおなじみとなった「トラ耳ヘア」の体験ブースでは3種類のトラ耳の中から好みのものを選び、ヘアアレンジしてもらう。その隣には撮影ブースがあり、記念撮影ができる。また、フォトスタンプラリーや抽選会にも多くの女性たちがチャレンジした。
ドーム内の「TORACOフォトギャラリー」では女性ファンが撮影した選手のベストショットが展示され、その写真の人気投票も行われた。
さらに抽選で選ばれた9名の女性陣は、普段は入ることのできない練習中のグラウンドで選手の撮影ができる「TORACO撮影隊」として、至近距離での撮影を満喫した。
ここではタイガース公式インスタグラム担当である営業部の奥山佑美さんから「選手のキラキラした姿をカメラに収めてください」と促され、お目当ての選手を自由に撮影した。奥山さんが撮るインスタの写真はファンから大好評で、「あんな写真が撮りたい」と憧れて応募した女性もいた。
「グラウンドで撮れるなんて初めてのことですし、普段は見られない練習中の姿を見つつカメラに収めてもらいつつで、本当に楽しんでいただけました。現場の選手もスタッフも快く受け入れてくれましたし」と奥山さんも喜ぶ。
そして七回裏には、抽選で選ばれた女性たちがグラウンドでジェット風船飛ばしを満喫した。
甲子園の「TORACO DAY」にも参加したという姉妹はトラ耳ヘアを気に入ったそうで「同い年くらいの女のコが多いので楽しい」と目を輝かせ、また、TORACO Tシャツを着た女のコは「このTシャツが好きなんです」と毎年欠かさず「TORACO DAY」には訪れると白い歯をこぼした。
多くのTORACOが誕生し、それぞれが思い思いに「TORACO DAY」を堪能したようだ。
■ウィークポイントだった若年女性層
そもそもタイガースのTORACOはいつ誕生したのだろう。ほかの球団を見渡すと、さまざまな女性ファンの名称がつけられている。広島東洋カープのカープ女子、オリックス・バファローズのオリ姫、福岡ソフトバンクホークスのタカガール…などなど。
内町さんによると「『TORACO DAY』は2014年に始まって5年目を迎えました。表に出たのは2014年ですが、2013年から構想はスタートしていたので、後追いではなく、早くから水面下では動いていたんですよ(笑)」とのことだ。決してよそのマネをしたわけではなく、むしろ他より先んじて女性対象のイベントをしていこうと進めてきたそうだ。
「若い女性層というのは一番弱いところでした。若い女性に来てもらって、ゆくゆくはその子どもに繋げていきたいなというのがあります。若年層を広げていきたいですね」。
来場者に占める若年層、特に若い女性のパーセンテージは「来場者アンケート」からあぶり出されるまでもなく、「見た目でも明らかで…」とこれまでウィークポイントだった。若年層、女性層の開拓の重要性に目をつけ、誕生したのがTORACOだ。
「女性向けのイベントをして、それをきっかけに甲子園に足を運んでくれたら…」と、球場以外の場所でも認知拡大に努めた。
たとえば若い女性向けのファッションショーやライブのイベント「関西コレクション」、「日本女子博覧会」「OSAKA KAWAii」などでフォトブースを出したり、アンケートを取ってTORACOグッズをプレゼントしたりなど、「野球とは関係ないところにも参加して、興味を持ってもらうようにしました」という。
また、初年度は“赤文字系”の宮城舞さん、2年目は“青文字系”の水戸なつめさんをメインビジュアルに据え、これまで野球に縁がなかった女性たちを振り向かせることに成功した。
3年目になると「あまりファッション系にいきすぎても…。根っからのタイガースファンにやってもらったほうが、より伝わるだろう」と、関西のアイドルグループNMB48の中でも熱狂的なタイガースファンである山本彩さん、藪下柊さん、木下春奈さん、川上千尋さんの4人を応援隊長に任命した。
昨年は引き続き山本彩さん、川上千尋さんが応援隊長に就任し、山本彩加さん、村瀬紗英さん、谷川愛梨さん、城恵理子さんらの「TORACO研究生」を加えた6人が盛り上げた。そして今年は研究生の4人が昇格し、6人で応援隊長として活動している。
さらに今年は一般公募から選ばれた6人も加わり、ポスターなどでメインビジュアルを務めている。ちなみに公募は球団の公式インスタグラムで行い、1週間という短い募集期間にもかかわらず応募者が殺到したそうだ。いかにTORACOが浸透し、女子が仲間に入りたがっているかがわかる。
■女子心をくすぐるTORACO
TORACOには“女子心”をくすぐる様々な仕掛けをしている。たとえば女子が好きな“双子ちゃんコーデ”。「おそろいのコーデで甲子園に来てほしい」と毎年、微妙にデザインや素材を変えた「TORACO Tシャツ」を出している。これは「TORACOシート」の企画チケットに付いてくるものだ。これを着てTORACOシートで応援することが、タイガースファンの女子にとって一種のステイタスになっている。
そして今年は「初めて全プレしました!」と、甲子園での「TORACO DAY」2日間でなんと来場女性すべてにTORACO Tシャツを配布した。
また、TORACOはカラーリングや書体も工夫している。これまでタイガースといえば黄色と白に黒だったが、黒をペバーミントグリーンに変え、爽やかさと可愛さを表している。提案されたデザインを最初に見た内町さんも、「パッと見た瞬間、直感で即決でした」と納得のカラーリングだ。
「球団カラーの黄色を守りつつ、白は優しく、グリーンは新しい色で本当に可愛いと思います」。
書体も「漢字ではなくアルファベットで、可愛くやや丸みのある書体にしました」と女性が受け入れやすいデザインだ。
TORACOグッズも多数ある。これまでのタイガースグッズとは一線を画し、ピアスやバングルといったアクセサリー系、カンカン帽やカチューシャ、サングラスなどファッション性が高いところが特徴だ。
■TORACOから野球ファンへ、タイガースファンへ
5年目を迎え、TORACOの認知度や動員力の上昇に年々手応えを感じているという内町さん。「今までやってきたことを継続しつつ、毎年新しいことにチャレンジしていきたいと、常に考えています。動員に繋げていきたいので」。
TORACOで完結することが目的ではない。TORACOを入口に野球を好きに、そしてタイガースを応援してもらうことに繋げることがもっとも重要なのだ。
TORACOから野球ファンへ、そしてタイガースファンへ。その裾野を広げるために、内町さんたちは今後も女子好みの楽しい企画を打ち出していく。
(撮影はすべて筆者)