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かなり恐ろしい「中国の超高層ビルが地震もないのに大揺れ」――右往左往する入居企業が抱くもう一つの不安

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
揺れが発生した賽格広場=「今日頭条」よりキャプチャー

 中国広東省深圳市のランドマークとなっている超高層ビル「賽格(Saige)広場(SEGプラザ)」(高さ355.8m、地上72階・地下4階建て)で今月18日、原因不明の横揺れが生じ、テナント企業などの1万人以上が一斉に避難する騒動が起きた。揺れは20日まで続いた。当時、地震は発生しておらず、危機感を抱いた中国当局は広東省トップの主導で調査を進めている。

◇「カルマン渦」?

 中国中央テレビ(CCTV)などの情報を総合すると、18日午後0時半すぎ、少なくとも35階、55階、60階で揺れが感じられた。中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に投稿された動画をみれば、ビル上階にある構造物が左右に揺れ、透明容器に入った水が上下左右に動いている。床が揺れ始めたため、ビル内にいた約1万5000人が飛び出し、駆け足でビルから離れた。午後2時にはほぼ全員が避難したという。

中国メディアが微博に投稿したビル構造物が揺れる場面=筆者キャプチャー
中国メディアが微博に投稿したビル構造物が揺れる場面=筆者キャプチャー

 揺れはその後も断続的に発生し、ビルを所有する深圳市賽格集団(SEG)は21日からビルを閉鎖した。

 深圳市政府は、揺れが起きた時刻に地震は観測されていないとしている。初期段階の調査では、ビルの主要構造や周辺環境に異常は確認されなかったという。

 中国系香港紙「文匯報」(電子版)によると、SEGは予備調査の結果として、風や気温の変化、地下鉄運行など、多様な要因が重なって「カルマン渦」が発生したのではないかと推測している。

(「カルマン渦」とは、一定の速さのある流れの中に物体を置いた際、その後方で流速が遅くなる領域が発生して渦が生じる現象。風に吹かれて旗がひらひらとはためいたり、川を流れる葉が石の後ろで回転したりするのはカルマン渦が発生しているためといわれる)

 地元当局だけでなく、中央政府も強い危機感を抱いているようだ。地元紙・深圳特区日報によると、広東省トップの李希(Li Xi)省共産党委書記が調査に乗り出し、自らが率いるチームを結成した。李希氏は習近平(Xi Jinping)国家主席に近く、将来の首相候補としてその名が取りざたされている人物だ。李希氏はメンバーに「科学的で権威ある調査結果を早急に出し、本当の意味での安心感を人民に与えなければならない」と指示したという。

◇路頭に迷うテナント企業

 深圳はIT企業が集中することから「中国のシリコンバレー」と呼ばれる。2000年に完成した賽格広場は深圳で5番目に高いビルで、電子部品の企業や販売店などが多数入居している。

賽格広場から逃げ出す入居者ら=微博よりキャプチャー
賽格広場から逃げ出す入居者ら=微博よりキャプチャー

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、ビル内でビットコイン関連業務を手掛ける人物は、揺れのあった当時のことを次のように振り返っている。

「最初の揺れが起きた時、階段で20階以上も駆け下りました。翌日には避難のため、荷物を運び出す必要があり、再び階段での上下を繰り返す必要がありました。

 ともかく、しっかりと調査をしてほしい。そのあとで、安心してオフィスに戻りたい」

 SEG側は被災したテナント企業のために、代替オフィスの確保を試みているが、あまりにも急な出来事だったため、その作業は難航しているという。

 この人物はSCMPの取材にこんな不安を語っている。

「私たちは避難先で、小さなスペースを他の数社と共有しています。商品は路上で野ざらしになっています。雨が降れば、電子機器が壊れてしまいます。これからも晴れてくれるよう祈るばかりです」

 別の店舗経営者も「ビジネスが心配だ」と話している。

「数年前にオフィスを購入し、大金をかけて改装しました。もし移転しなければならないとしたら、せっかくの改装が無駄になってしまう。売るにしても値段はつかないだろう。頭が痛い」

 この経営者は保険代理店に相談して、損失額と、受け取り可能な補償額を算出しているそうだ。中国の不動産サイトによると、SEGプラザのオフィス部分は1平方メートルあたり平均3万6000元(約61万円)と評価されているという。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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