北京五輪と東京五輪の違いから考える、日本代表選手のSNS投稿の価値
北京オリンピックが開幕し、早くも半分の日程が終わりました。
オミクロン株の感染拡大など様々な問題がある中ですが、選手達の活躍や一つ一つのプレーに刺激を受けている方も少なくないと思います。
メディアはもちろん、SNS上も、日々北京オリンピックの話題で盛り上がっていますし、特にツイッターのトレンドには次々に日本選手のメダル獲得や、オリンピックの話題が日々並んでいるのが印象的です。
ただ、半年前に開催された東京オリンピックと、北京オリンピックを比べると、SNS上の傾向で明らかに違いが出ている点が1つあります。
それは代表選手達によるSNS投稿の量です。
東京五輪では急増していた選手によるSNS投稿
もちろん、東京オリンピックと北京オリンピックでは、出場している選手の人数に違いがありますし、競技によってSNS活用の積極度も違います。また母国開催と海外の開催ということも違いますから、単純にSNSの投稿量を比較するのは不公平でしょう。
ただ、やはり開会式の入場時の投稿をはじめ、毎日の様に日本代表選手のSNSの投稿自体が話題になっていた東京オリンピックに比べると、明らかに北京オリンピックはその頻度が減っています。
参考:東京五輪は「スマホ」とテレビが本格的に融合するオリンピックとなるか
もともと、中国国内のインターネットは、「グレートファイヤーウォール」によって、SNSのインスタグラムやフェイスブック、ツイッターなどに接続できないという事情はありますが、選手村はそうした制限はない模様。
参考:北京五輪の選手村、中国国内でブロックされるサイトが閲覧可能も…「監視される可能性が高いと警告」
そのため、日本代表チームの公式アカウントにはたくさんの動画や写真がアップされているのですが、東京五輪では良く見かけることができた、選手個人によるメダル報告やメダルの写真などは今回ほとんど見られません。
それには、いくつか北京オリンピックならではの事情が影響しているようです。
■中国でスマホを使うことによる情報漏えいリスク
まず、頻繁にメディアでも話題になっているリスクは、中国でスマホを使うこと自体のリスクです。
特に今回の大会でダウンロードが義務づけられている健康管理アプリに、セキュリティ上の問題があることが指摘されており、米国やカナダは選手に自前のスマホを持ち込まないように指導しているほど。
参考:北京五輪には自前のスマホを持ち込むな、米加が選手に警告
日本では、オリンピック選手団にはそこまでの指導はされていなかったようですが、急遽パラリンピックの選手団には専用のスマホが貸与されることになりましたから、この問題が日本選手団の中で注目されているのは間違いないでしょう。
参考:パラリンピック 情報漏えい懸念 日本選手団にスマホ貸与へ
こうした状況では、当然自分のスマホで自由にSNS投稿ができない選手も少なくないはずで、日本代表選手によるSNS投稿が少なくなる要因の1つになっていると想像されます。
■中国の検閲で参加資格剥奪になるリスク
また、もう一つ大きな要因になっていると考えられるのが、中国政府による検閲です。
報道によると、北京オリンピック開幕前に、北京五輪大会組織委員会がオンライン説明会で「五輪精神に反するもの、とりわけ中国の法律や規則に違反する行動や発言は特定の処罰対象となる」と明確に警告していた模様。
さらに、違反発言によってオリンピックの参加資格剥奪もありうると言及していたようです。
参考:北京五輪“検閲地獄”に強靱メンタル選手もお手上げ スキー川村あんりは一部SNS投稿を削除
こうなると、当然選手からすると、余計なリスクは負わないように行動するのが当然と言えます。
何しろ、どのレベルの発言が中国の法律や規則に違反するのか、選手はもちろん詳しくないでしょうから、SNS投稿で参加資格を剥奪されるリスクは負わないに限ります。
北京オリンピック中にSNSに投稿をしている選手の投稿が、比較的短い文章が多い印象なのは、こうした事情も影響していそうです。
■誹謗中傷を受けるリスク
前述の2つは、中国で開催される北京五輪ならではの要因ですが、もちろん東京五輪でも問題になった選手に対する誹謗中傷問題というものも継続して存在しています。
なにしろ北京五輪前に、室伏スポーツ庁長官がSNSで選手を誹謗中傷しないで、と呼びかけていたほど。
参考:室伏広治長官「SNSで選手を誹謗中傷しないで」。北京オリンピックを前に呼びかけ
北京五輪中にも、高梨沙羅選手などの女性選手に対して「メイクしている暇があったら練習しろ」などの時代遅れな批判がいまだにあることが議論を呼びました。
参考:高梨沙羅へのメイク批判は正当か?「メイクしている暇があったら練習しろ」の大きな間違い
もちろん、こうした選手に対する誹謗中傷は、選手がSNSを活用しなくても匿名掲示板やニュースサイトのコメント欄で発生してしまうものではあります。
ただ、選手自身がSNSで投稿することでそうしたコメントを誘発することもありますし、選手自身に直接誹謗中傷の声が届いてしまうことにもなります。
当然、東京五輪の際の誹謗中傷の騒動を見て、今回の北京五輪でのSNS投稿を自粛しているケースも少なからずあるはずです。
参考:オリンピック選手を悪質な誹謗中傷から守る為に、今から私たちができること
■改めて感じる選手の「生の声」の価値
こうした複数の要因が影響し、今回の北京五輪では、あまり日本代表選手達の「生の声」がSNS上で見られない状況になっているようです。
北京五輪は東京五輪同様に、バブル方式が採用されており、メディアが選手村の選手達の様子を報道することがほとんどできません。
そのため、今回の北京五輪は東京五輪以上に、選手村の様子や、競技が終わったあとの選手達の様子が見えないオリンピックになってしまっている印象があります。
ただ、そういう意味では、今回の北京五輪でもSNSの投稿を継続してくれている日本代表選手達は、様々なリスクを負いながらも写真やメッセージを投稿してくれているということも言えます。
そう考えると、一つ一つの選手達のSNSの投稿の価値が、いつも以上に高く感じられる気がするのは私だけでしょうか。
もちろん、選手達の声はテレビやYouTubeの公式動画などで聞くことはできますが、選手のアカウントから直接投稿されると、そこに感謝の声を書くこともできますし、他のファンの声も可視化されます。
世界的に感染拡大が続く新型コロナウイルスの影響で、選手達はファンの人たちの応援の声や歓声を聞くことができません。
SNS上でのコミュニケーションは、少なからずそのファンの応援の声を可視化してくれる要素は担っているように感じます。
高梨沙羅選手の謝罪投稿が明らかにしたこと
今回の北京五輪で、ここまでで一番話題になったSNSの投稿は、残念ながらメダル獲得の報告などのポジティブなニュースではなく、高梨沙羅選手による真っ黒な画像ともに投稿した謝罪文の投稿でしょう。
その投稿にはたくさんの「謝る必要はない」というコメントが集まっていたのが印象的でしたし、現時点で30万を超えるいいねと、6万件を超えるコメントが集まっています。
参考:「もう謝らないで」 高梨沙羅の悲痛謝罪に、激励エール殺到 4万件を超える
筆者自身も、今回のジャンプ団体の失格劇は、高梨沙羅選手は謝る必要は全くない不運な出来事だったと思っています。
ただ逆に、もし高梨沙羅選手が自分の思いをインスタグラムに謝罪文の形で吐露することがなければ、彼女のことを応援している人がこんなに大勢いることを高梨沙羅選手が知ることができなかったかもしれないと思うと、実はこの投稿には大きな意味があったようにも感じます。
SNSには誹謗中傷のリスクという負の問題があるのは事実ですが、一方でアスリートにとってファンや仲間の声を可視化してくれる大事なツールでもあるという事実も確認できた出来事だった、というと大袈裟でしょうか。
選手のSNS投稿の代わりに
なお、今回の北京五輪開催期間中は、残念ながら前述の3つのリスクがある関係で、これ以上の日本代表選手達による活発なSNS投稿は難しいかもしれません。
その代わりというわけではありませんが、皆さんにおすすめしたいのは、現役の日本代表選手だけでなく、元代表選手や競技団体等のSNSでの解説をフォローすることです。
例えばフィギュアスケートにおいては、トリノやバンクーバーオリンピックに出場経験もある安藤美姫さんが、選手の演技一つ一つに細かい解説付きの投稿をされています。
さらに、素晴らしい勝利が続いているカーリングにおいては、前回の平昌五輪で現在の代表メンバーとともに銅メダルを獲得し、ロコ・ソラーレの代表理事をつとめる本橋麻里さんがツイッター上で熱い声援を送っているのが話題になっていました。
参考:カーリング女子「まりちゃーん!」の呼びかけに本橋麻里が反応「みんな~!!」
また、日本カーリング協会は、YouTubeチャンネルで試合の詳細の解説をされていて、人気を集めています。
さらには、爲末大さんのように、今回の北京五輪で議論が激しくなっている、審判の判定について専門家ならではの見解をまとめられている方もいます。
元日本代表の選手達や競技団体の関係者は、オリンピック選手の視点をもった解説をしてくれたり、選手の気持ちを代弁したSNS投稿をされたりしていますから、きっと日本代表選手のSNS投稿の不足を補ってくれるはずです。
もちろん、日本代表選手達も、引き続き可能な範囲で現地からSNSに写真や動画を投稿してくれるはずですし、日本に帰国してから現地の写真をSNSに投稿される選手も多いはず。
是非、皆さんも、リスクを取ってSNSを活用してくれている日本代表選手達に、たくさんの感謝やねぎらいの「いいね」やコメントを送ってみてはいかがでしょうか。